今更語る「ウォーシップガンナー2鋼鉄の咆哮」とかいう奇跡のゲームについて
ご存知の方はおられるでしょうか?
海戦アクションゲーム
他になさそうなジャンルですが、類似のゲームがないので仕方ないことです。まあ、WoWs(ワールドオブウォーシップス)なんかはこれのパクリですよね(本気でそう思ってます)
このゲーム、2と名乗っていますが、前作のタイトルは
「鋼鉄の咆哮2 ウォーシップガンナー」です。
その次作がこれ、
「ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮」なのです。
何故このような変則的なタイトルになったのかというと、このシリーズ、元々はマイクロキャビンがPC向けに開発した
「鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダー(以下WSC)」
のフランチャイズなのですね。
レゴ感覚で軍艦を設計して、ありえない数の敵艦の群れを薙ぎ倒し、超兵器と呼ばれる得てして巨大で狂った性能を持つ決戦兵器を殲滅することが目的の、一風変わった俯瞰型シューティングゲームでした。一応第二次世界大戦の時代を舞台にしてはいますが、最終的には100cm砲だのレールガンだのが登場する渋い架空戦記です。
PC向けに作られた本作ですが、お得意の無双ゲーとの類似性を見出したか、パブリッシャーであるコーエーはこれをPS2に移植するに至ります。移植といっても何故かストーリーは大幅に変更され、一部フルボイス(誤用ではない)化するという快挙を成し遂げます。
翌年には、正統続編である「鋼鉄の咆哮2 WSC」が発売されます。ボス登場時のかっこいいボイスや、兵器のさらなるインフレ架空戦記化によりコアなファンを獲得した本作は、2003年、コーエーの手でPS2向けにリメイクされます(おそらくほとんど同時に開発していたものと思われます)。それが「鋼鉄の咆哮2 ウォーシップガンナー」。(以下、ウォーシップガンナー=WSGと表記)
プリレンダのドット絵による表現だったWSCに対し、こちらは(ほとんど提督の決断シリーズに使われたアセットの流用とはいえ)フル3Dのグラフィックを与えられ、画面の迫力が強化されました。ゲーム性もかなり異なっており、俯瞰視点で多対多による戦闘を行うWSCに対し、WSGは自艦のみで敵艦隊に挑むTPSのようなゲームになっています。ただし、自動ロックオン的な挙動のせいでほとんどエイムを必要としないため、アクションらしい操作感になっているわけです。
ともかく、ここで鋼鉄の咆哮シリーズは、
・マイクロキャビン産のWSC
・コーエー産のWSG
に分岐しました。
(ややこしいことに鋼鉄の咆哮2WSCは2年後にPS2版リメイクが作られ、しかも例によってストーリーやら何やら大きく異なっていました。同じなのは出てくるボスだけで、それも7割くらいしか一致していません)
シリーズの終焉と復活
WSCシリーズは、2003年に2のパワーアップキット(今でいうDLCみたいなもの)及び、2004年には3が発売されますが、残念ながら会社のやる気がなくなって、シリーズはそこで打ち止めになってしまいます――が、パブリッシャーは諦めなかった(なんで?)。
2006年、突然発売された完全新作。
それがPS2ソフト「WSG2 鋼鉄の咆哮」です。
開発はコーエー、マイクロキャビンは原作という扱いであり、原作者は監修どころかノータッチの様子です。
原作とは違い、どうやら舞台はWW2時代ではなく、おまけに原作には一切登場しなかったオリジナルのキャラクターが多数登場してストーリーを展開、おまけにこだわりのフルボイス……
完全に地雷ですよね?
他のIPでもよく見る、原作を乗っ取ってシリーズの命脈ごと破壊する系の二次創作そのものに違いない。十中八九そう見て差し支えない。
だが、このゲームは違いました。それはなぜか。
本当に奇跡的な確率ですが、プロデューサーやディレクターがシリーズに対する愛に溢れていたのでしょう。
WSG2の何が凄いのか。これは進化した鋼鉄だ
システム面
鋼鉄の咆哮シリーズはRPGの要素も備えていて、使用できる艦船の素体や搭載する兵器、補助兵装の開発は、基本的には「技術レベル」によって管理されていました。
この技術レベルというパラメータは、「鋼材」「電気」のようないくつかの種類があって、ステージをクリアすることで得られる「資金」を必要量投入するとレベルが上がり、開発及び購入できるアイテムの種類が増える方式でした。ドラクエ8のスキルポイントみたいなものですね。
このシステムはけっこう欠陥があって、開発したい兵器があってもどの種の技術レベルをどこまで上げればいいのか分からなかったり、中には「◯◯の技術レベルがnかつ☓☓の技術レベルがm」のような複数条件のアイテムが(サイレントで)存在していたり、そもそも必要資金が莫大すぎてステージリトライ必至とか、バランス的にもあまり良くない影響がありました。悪い意味で古風な要素だったわけです。
更に、開発可能になった兵器は無限に使えるわけではなく個別に購入する必要があるのですが、設計画面からでは購入できないために(3ではできるんだっけ?)、いざ設計段階で不足が発覚してから、わざわざメニュー画面に戻ってロードを挟んで……という操作が必要でした。
一方のWSG2は、今風の、当時としては先進的といっていい、ツリー開発方式に変更されています。開発したい兵器だけ開発できるのはもちろんのこと、それがツリーのどこにあって性能はどんなもんでどのくらいの資金が必要で開発条件は何なのか、が一画面にまとめられており、完璧といって差し支えないUIになっています。もちろん一度開放した兵器は個数制限なく利用可能。
2006年のゲームでこれができている驚き。ユーザビリティ溢れすぎ。
更に、このゲームの肝、設計システムであるHLGも大きく進化しており、設置した兵装を他の兵装に置換したり、兵装の配置はそのままに、船体だけを変更したりといった、是非ともほしかった機能(筆者はWSG2からシリーズに入ったので、過去シリーズでの設計には悩まされました)がことごとく追加され、めちゃくちゃ設計しやすくなっていました。兵装のスペックも確認しやすくなっていましたね。
戦闘システムに関しても、ポーズ画面で敵の位置が表示される、目標クリア後にその場でステージを終了できる(過去作ではクリア後にステージの端まで行かないと離脱できず、これが時間の無駄に感じられることが多かった)などの進化が見られました。ようやくかよって感じですが。
副目標のクリア率などによってステージごとに評価が下され、これは単なるスコアのみならず、隠しパーツの条件になっていたりと、やりたくなるタイプのやり込み要素としても十分な役割を果たしていました。使用中の兵装の種類によって照準の形が変わるのもかっこいいですね。というか戦闘HUDの完成度高すぎじゃないですか? 必要な情報がすごく見やすいんです。
ただ、天候によって波の高さが変わって船体が上下するのは、本来はもう少し戦闘難易度に関わる要素だったのかもしれませんが、ただでさえ妙に喫水の低い船が波を被りまくって微妙なビジュアルになっていましたね。双胴戦艦は特に……
演出面
もっともパワーアップしたのは演出面でしょう。
このWSG2、ルート分岐があります。
まあ、WSC3でも一応は枢軸、連合、独立の3ルートがありましたが、さすがに内容が被っていて、ぶっちゃけワンプレイで全ボスと戦いたいから独立ルートだけでいいじゃんという感想でした。強くてニューゲームもないので、他のルートをやりたければ純粋なリプレイの必要があるが、分岐前のセーブデータを残していない場合はスキップ不可のチュートリアルから。現在の視点ではやや不親切ですね。
しかしWSG2は違いました。
序盤で分岐する3ルート分のシナリオが、フルボイスで用意されています。原作で最も軽視されていた要素をなぜそんなに頑張れたのか不思議なほどです。
ステージはともかく、シナリオの内容はそれぞれ全く毛色が異なり、3人いる副官キャラクター、及び、敵となる超兵器の正体や敵側の指導者たちについて、各ルートで深堀りされていきます。このコンセプトと設計、まるでシナリオゲーのようですね。ちなみに、ストーリーの重要な場面では、ノベルゲーよろしく一枚絵が表示されたりします。
各ステージのシチュエーションや敵超兵器の脅威を迫真の演技で説明してくれるブリーフィングの丁寧さといい、完成度が高すぎる。自分の知る限り、シナリオとゲームが高レベルで両立したシューティングゲーは本作のみです。
おそらくディレクターは、WW2を扱ったWSCのシナリオが、面白くできる素材が揃っているにも関わらず、非常に薄味に留まっていることに歯痒さを覚えていたのでしょうね。
周回前提なので、2周目にはバッチリ強化雑魚や真ラスボスや新兵器が用意されています。凄い。ただし、ラスボス以外のボスは変化しないので、雑魚は妙に強いのにボスが消化試合という手抜きっぽい設計になっているのは大きなマイナスです。逆に何故そこを頑張れなかった?
超兵器に対するリスペクト
鋼鉄の咆哮シリーズの印象的な演出といえば、やはりボス戦の戦闘開始演出ですが、これも豪華になっています。
WSGの流れを汲んで、襲いくる超兵器をかっこいい角度で眺められるようなカットシーンはもちろん続投し、更にはキャラクター同士の会話がフルボイスで交わされ、敵の特徴を紹介したり緊張感を煽ったりと、丁寧な導入として機能しています。欲を言えば、カットシーン後でいいからけたたましいアラートが欲しかったです。
ところで、超兵器の扱い、というのはけっこうデリケートな問題ですよね。鋼鉄の咆哮シリーズの大きな特長であり、原作者のこだわりポイントであるからですが、こちらも愛をもってクリアしているように思われます。
まあ、前座も前座に格落ちした元ラスボスたちの扱いはすこぶる微妙ですが、それでもヴォルケンクラッツァーは四国を縦断しましたし、波動砲暴発という特殊ギミックを搭載しています。リヴァイアサンは……残念でしたね。「津波を起こす超兵器」なる観察や、波高の概念が存在することからして、何らかの攻撃がオミットされたように思えます。
筆者が気に入っているポイントとして、「超兵器」という鋼鉄の咆哮の唯一無二の特色が、シナリオにきちんと組み込まれていることが挙げられます。
これは何も、ブラウン博士編のシナリオを言っているのではありません。
最初に「ヴィルベルヴィント」が出現した際、筑波教官はその巨大さを「まるで島のよう」と形容し、ブラウン博士はその異常な速力に驚愕しました。戦闘開始時カットシーンはかっこいいムービーにかっこいい感じのボイスが乗せられ、否が応でも敵の強大さを感じられる導入に成功しています。
超兵器が単なるボスではなく、兵器であるとの側面、リアリティが重要視されているのですね。さらには、撃沈されたヴィルベルヴィントは後に米軍に回収され、「ワールウインド」として海軍に利用されることになったと説明されます。なお、次のステージで後述の「フォーゲルシュメーラ」に成すすべもなく撃沈されたと報告されています。原作のシュトゥルムヴィントが後半にやたら登場したり、HLG輸送艦呼ばわりされたりすることに準えた、完璧な扱いではないでしょうか。
また、潜水戦艦ドレッドノートは戦闘中に何度か潜航と浮上を繰り返す特殊なAIが用意され、同型艦のノーチラスは2周目シナリオで敵国指導者が逃走する際に乗艦する上、そのために撃沈が不可能というVIP待遇です。地味ボス筆頭のデュアルクレイターはなんと一度主人公たちを撤退に追いやり、再戦時には時間制限つきの戦闘を行うなど、やはり特殊なシチュエーションが用意されていました。アラハバキは敵の将軍ながら主人公の恩人でもある天城大佐の乗艦であり、撃沈時のカットシーンは非常にドラマチックです。レーザー戦艦グロースシュトラールの暴走と消滅も同様に印象的なシーンでありました。
なんとも地味だったハリマとかあまりにも弱体化したムスペルヘイムとか、ちょっとコメントし辛いものもありますが、超兵器をシナリオ上で活躍させたい、ゲームとしても戦闘を楽しんでほしいという思いが一貫して伝わってきて、ボス戦の設計はとても良いものになっていたと思います。一周目に関しては、毎回楽しみにできるほどに。
WSG2オリジナルの超兵器たち
二次創作の醍醐味ですね。鋼鉄の咆哮プレイヤーならみんな考えたでしょ?
とはいえ、リヴァイアサンが出ているわけですから、WSC3の超兵器をもっと出してもよかったはずです。
ドーラ・ドルヒはスレイプニルでよかったし、フォーゲル・シュメーラはジュラーヴリクでよかったし、ヘルアーチェはストレインジデルタでよかったかもしれない。フィンブルヴィンテルはまあ仕方がないね。
しかし、WSG2の制作陣はオリジナルの超兵器をどうしても入れたかった。彼らは是非とも鋼鉄の咆哮バースに参加したかったのでしょう。
これら新超兵器のデザインは明らかに異質ですが、これは超兵器が古代文明のオーパーツかエイリアンの技術であるとの設定を受けたメカデザイナーのアイデアを、そのまま取り入れたからかもしれません。多くを口出しせずデザインはデザイナーに一任する姿勢、素晴らしいです。浮いてますけど。
なお、オリジナルの超兵器は全て特殊なギミックを与えられています。ただ兵装を設定して、雑魚戦と同じようにルーチンで攻撃させれば成り立つボス戦(PC版が概ねそうだったように)に、何かしら毎回新しい仕様を取り入れるというのは、エンターテインメントである以上当然の姿勢に思われますが、ほとんどのゲームはそれが出来ていません。
しかしWGS2は違うんです。やる気のないIP乗っ取りではない!
その他、受け継がれたもの
・仰々しいステージ名(終盤はステージ名画面に雷鳴が入る凝りよう)
・エリア終了後の状況説明モノローグ(背景は超兵器のCG)
・ふざけつつ大団円で終わるおまけステージ及びあひるなどのなまもの兵器(なんとおまけエリアのボス枠で新超兵器が登場。気合い入りすぎ)
これらの要素までも備えたWSG2は間違いなく鋼鉄の咆哮です。開発者はよく研究していると思います。
開発のやる気、プレイヤーを楽しませようという意思が感じられるゲームは昨今本当に少なくなったと思います。
鋼鉄の咆哮シリーズの偉大さは、突き詰めれば、回を重ねるごとにどんどんシステムが増えて正統進化していったところかもしれません。
開発者としては完成度が低く遺憾の塊であるらしいWSC3ですが、パッと思いつくだけでも
・3D化
・ルート分岐
・支援艦隊
・戦略爆撃機
・上陸部隊
・航空機設計
・超兵器設計
と、多くの新システムを搭載しているのです。少人数で、1年で作ってるんですよ、これ。(まあ、一部システムは提督の決断からの流用だったりするみたいですが……)
このやる気こそ、WSG2がマイクロキャビン時代から受け継いだ最も大事な要素といっても過言ではないでしょう。
最近のゲーム、どうですか? ちゃんと頑張ってます?
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