漫画の感想 - MF ゴースト

社会現象すら巻き起こした大ヒット走り屋漫画、「頭文字 D」。

その流れを汲む、同じ作者による「MF ゴースト」。
何話かは逃しているが、第一話から継続して読んでいる。

結論から言うと、残念ながらあまり面白くない。
「頭文字 D」の次回作だから、という過度な期待をいったん捨て去っても面白くない。いや、面白くないだけならまだしも、漫画としてちゃんと描かれていない。

個人的に最も違和感を覚えるのは、この作品における設定や世界観だ。どんな作品でも世界観の構築は大変だが、これさえ成功すればロングヒットやシリーズ化も夢じゃない。ある意味、物語の展開よりも重要なものだ。

主人公が出場するレース、MFG の説明はこうだ。
「EV が主流となった近未来の、日本で行われている唯一のモータースポーツ」

クローズドサーキットは使わず、箱根や伊豆あたりの市街地をコースとして市販車ベースのレーシングカーを用いたモータースポーツという設定。

にも関わらず、作中での描写はとてもそうとは思えない。
まず、ドライバーたちはみな私服、普段着で乗っている。かなりの速度で競っているにもかかわらず、HANS はおろかレーシングスーツもグローブも、ヘルメットすら装着していない。

わざわざサングラスをかけて視界を暗くし、パーカーのフードを被って視界を狭くして走っているドライバーもいる。

そんなバカな。

「グリップウェイトレシオ均一化のみがレギュレーション」なので、各マシンともチューンなどでパワーアップを図っている。しかし、内装は市販車のままでロクに軽量化もしていないし、パイプフレームによるボディ剛性の強化や空力パーツの付加も変更も見られない。

どんな材質なのか知らないが、コースに後付けのジャンプ台が設置されたレースでは、全マシンがぽんぽん跳んでいた。パイプフレームも入れてないし、スポット溶接増しもしていない (描写がない) クルマであんなことをしたら、数回の着地でサスのアームが曲がりあるいは折れ、ボディは歪み、コネクターが外れかケーブルが切れて、ほんの数周で走れなくなるはずだ。

そもそも、シートもノーマルでシートベルトも三点式のまま。イニ D の AE86 の時でさえ、「バケットシート入れて、四点式に変えなきゃ」みたいなことを言っていたはずなのだが、本作では全く気にしていない。

そんなアホな。

市街地コースの作りもおかしい。
富士山の噴火による大地震やら大規模停電で立入禁止区域になっているという設定だから、観客が皆無なのはいい。だが、コース沿いで壊れている建物を見た記憶がない。

既に直した後なのかもしれないが、市街地コースとして使うのに、ガードレールも何も、全く「養生」していない。基本的に追い抜きのないラリーでさえ、市街地を通るコースでは要所要所で養生する。F1 は言うに及ばず、F3 やカートのレースだって、市街地ではスタートからゴールまで漏らさず養生するのが当然。

コンビニ駐車場のブレーキ踏み間違い事故だって、店舗のガラスを突き破りかなりの被害を与えるのは、周知のとおり。市販車ベースとはいえ、時速 100km/h は超えるであろうレースでクルマがコースアウトし、建物に突っ込んだりしたらどうなるか、誰にでも想像できるはずだ。MFG は「被災地の復興支援イベントでもある」はずなのに、レース中のクラッシュ何ら対策していないのは明らかにおかしい。

さらに、大規模停電が起こったという前提の割には、レース関係者が制限なく電気を使っているし、スタッフもドライバーもレースクイーンも、立入禁止区域内で自由に行動している。ということは、少なくとも火山灰とか有毒ガスとか、そういう理由での立ち入り禁止ではない。

建物も直っている、電気も使える、人が自由に行き来している。なのに立ち入り禁止のままとはどういうことか。政府に忘れ去さられ、放置されているのか。

モータースポーツのイベントを開催するからには、「安全性」を避けて通ることはできない。事故によって建物や街が壊れるのを防ぐのはもちろん、ドライバーも守らなければならない。ヘルメットも被らない、シートベルトも何も市販車と同じ、コースは養生していない。

安全性を全く考慮していない MFG は、断じてモータースポーツなどではなく、ただの暴走イベントに過ぎない。

こんな穴だらけの MFG なのに、発案者の高橋涼介はすごい、さすがだ、天才だなどと、作中で何回も称賛されている。

バんなそカな!

[MFゴースト - Wikipedia]
https://ja.wikipedia.org/wiki/MF%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88


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