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特別対談:データカタログSaaSに懸ける想い - DNX Ventures

投資の決め手はCEO、実年齢以上のマチュアさと経験豊富な信頼感

松元:まず最初に、松元の第一印象からお聞きしたいなと思っています。倉林さんとの出会いは、インキュベイトファンドの本間さんからの紹介でした。

倉林:第一印象は、どんな人なのだろうとベールを被った印象で、実は掴めなかったんです。掴めなかった理由は、第一印象と年齢のギャップにありました。いい意味で大人っぽいから25歳だと思ってなくて。ビジネスのアジェンダとしては未経験者が簡単にやれる事業ではない中で、一見マチュアなんだけど話してるとある種の幼さがあり(笑)、そのギャップが年齢を伺うまで腹落ちしなかったんです。私たちはひとつの領域に対して1社しか投資をしないため、投資時にはその領域でベストなCEOかどうかを見ているんですが、1回目のミーティングだけではちょっと分からなかった。ところが、担当の中野に「このビジネスは本当に可能性があるんだ」と言われて。優秀な彼が言うのでもう一回会い、さらには会食を通じて、CEOがFounder Market Fitしているかどうか、Business Model Fitしているかどうか掴もうと試みたんですね。

松元:DDや顧客ヒアリングを通じて、松元の印象は変わりましたか。

倉林:はい、どんな人生を歩んでこられたのか知らなかったので、それを知って確証を深めたという感覚です。これまで松元さんは、失礼ですが決して恵まれたとは言えない環境で努力して結果を残してきました。僕は苦労した経験をポジティブに捉えていて。だからこそ、やりきれる力がある。すべてを与えられた環境で育った人って実は脆いこともあるんですが、松元さんの場合は強さを感じました。これまでの歩みをお伺いできてよかったですね。

起業家として伸び代だらけ、学び続けることがカギ

松元:「成長余地」と言っていただきましたが、成長したほうがいいところや伸びしろについて、具体的に伺っても良いですか。

倉林:私はスタートアップ経営者って本当に凄いと思っていて。例えばマネーフォワードは、今や日本のSaaS企業の代表格ですが、CEOの辻さんは奢ることなく、昔と変わらず「クラさん!」って後輩力が高いまま。今や1,000人を超える従業員がいる会社のCEOですが、働きがいのある会社調査で、1,000名以上の大企業部門で10位に輝いていて。近くで見ていても、優秀な人がどんどん集まっているのを感じます。そんな辻さんも、いきなりそんな社長になれたわけではなく、これまでの過程で様々な人から学びながら、成長をしてきたと思うんですね。社長をやったことはないながら、挑戦する。だからこそ大事になるのは、「永遠に学び続けられるかどうか」「誰かから話を聞こうという姿勢を持ち続けられるかどうか」です。辻さんは今も、スタートアップ経営者はもちろん、大企業のベテラン経営者の方や専門家の方から積極的に学ぼうとする姿勢を持ち続けています。これから松元さんが高みを目指していくには、同様に起業家として相当な成長が必要になる。DNX投資先の先輩起業家と少し話すだけでも、それぞれの苦労が伝わってくるはずです。起業家ごとに課題も苦労もアプローチも異なりますが、せっかく先輩経営者がたくさんいるので、彼らから自分に合ったやり方を見つけ、自分を成長させるべくハンブルに吸収して頑張ってほしいなと思います。

松元: ちなみに若い起業家とシニアな起業家の戦い方は全然違うのでしょうか。

倉林:若い方は有利だと思いますね。まずデジタルネイティブだということ。そしてまだ「更地」であるということ。正しい吸収力があれば無限に伸びていけます。ベテランの人の経験も間違いなく価値がありますが、一方で、アンラーニングが課題となって成長が阻まれることが多いんです。過去ご自身の経験、常識と、今のスタートアップのビジネスは違うことが多い。その際一度過去を忘れて今のやり方を学べるかというのは、簡単ではないようです。一方で、若手の方も、数多くのステークホルダーを巻き込み、業界を変えていくようなことが苦手なケースもあります。ロジックだけでなく、相手の気持ちを慮れるか。ひとつ些細なアドバイスをするとすると、今自分が活躍できているのも、先輩たちがちょっとずつ環境を良くしてくれてきたおかげ、と感謝とリスペクトをもつだけで、サポーターになってくれる大人は多いと思います。

松元:少し脇道に逸れますが、ステイクホルダーごとに顔を使い分けるようなことって必要なのでしょうか。

倉林: 松元さんの場合は素で大丈夫だと思いますね。松元さんはまだ若く、まだ柔らかい。どんな者にもなれる。だから、あんまりテクニックに頼るより、経営者として顧客の成功のために自分が正しいと思う通りやってみて、A/Bテストをしてみるのがいい気がします。その過程で、ぶつかりながら経験して調整していく、そんな瞬発力の方が大事なんじゃないかと思います。あとは、経営者はどうしても孤独になる。だからこそ、気の合う先輩経営者が見つかったら、メンターとして相談できるようになると気が楽になるはずです。

監査法人のDX部署でデータに向き合い、DXのボトルネックに直面

松元:倉林さんの目に、事業領域とプロダクトについてはどのように映りましたか。

倉林:ビジネスプランを伺って、ビジネスとして大きな可能性があると思いました。特に日本では、アメリカと比較してメタデータをマネジメントできるデジタル人材が少ない。そういう意味でペインが大きい。エンタープライズのこの課題を解決していこうと思うと、SIerさんの存在で複雑さが増すかもしれませんし、逆にいうとそこで差別化も作れそう。そして、VCとして思うのは、分析アルゴリズムより周辺ビジネスのほうが最終的に成功する。AIそのものが注目されている時に、周りのどんなデータをAIに食わせるかっていうところのほうがソリッドでセンスの良いビジネスだなと。松元さんはどの辺にビジネスチャンスを感じたのか、何がきっかけでこの事業を始めたんでしょうか。

松元:きっかけは自分が前職KPMGのDX部署で数年間課題を感じてきたことにあります。
どの企業も同じような課題を抱えていますが、一般的に、大企業のDX部署の重要なミッションの1つは全社のデータ利活用の推進です。しかし、社内外のデータについて、そもそもどういうデータがあって、どのように使われているかといったメタデータが組織的に共有されていない。サイロ化して隣のチームが何をやっているかすらわからない状態が多くみられます。一方で、DX部署は事業部から頼まれたデータ分析業務でパンパンになっている。組織的にメタデータを共有しセルフサービスを押し進めないと回らないという状況になっているわけです。
どの大企業もこういうフェーズに突入していると思います。メタデータ共有の第一歩として、まずはどんなデータがあるかをリスト化しようということになるのですが、何百・何千とある膨大なデータの情報、つまりメタデータを一個一個並べて書いていくわけです。

倉林:みんなExcelでやってるそうですね。

松元:そうですね。ところが多くの場合、作ったExcelを社内イントラにリンクだけ張っておしまい。結局そのメタデータがしっかり更新されているか、最新かどうかがわからないという問題が残る。それでは誰も見ないですよね。これを解決しようと色々調べて出会ったのが「データカタログ」というソフトウェアでした。ここで初めて知ったんです。当時、海外製品があったのですが、英語なので社内の人に説明するにはワンステップ必要で。日本の製品を探してもフィットするものが見つからなかったんです。日本のあらゆるDX部署が抱える汎用的な課題だったので、データカタログやメタデータ管理について研究を始めました。
僕はそもそも「デジタルで何らかの産業をどでかく変える」ということに強い興味がありました。当時KPMGに就職したのも、大手4社しかない監査法人のなかで、当社が変われば業界が変わる、まさに「どでかいインパクト」を残せると思ったからでした。ところが入社してみると、メタデータをきちんと管理し、共有することが非常に大変で、結果的にデータ活用への挑戦を阻んでいる。。その課題に直面し、これこそがDXのボトルネックに思えました。何かいい方法がないかなと。もともと起業家になりたいという想いがあったので、この課題は外から取り組めば監査業界だけでなく他業界のボトルネックも解消できるだろうと考え、起業に至りました。

日本にメタデータを管理する人がいないなら、ソフトウェアで実現する

倉林:創業ストーリーがすごい自然だよね。加えて日本だからこそオポチュニティがある。
松元:従来からデータカタログやデータ品質をメンテする人のことを「データスチュワード」って呼んでいて‥‥
倉林:それは分析前にデータを整える人のことでしょうか。
松元:さらにもう一つ前段階ですね。全社に共有されるデータについてアカウンタビリティを担保するためにあれこれ働く人。メタデータやデータ品質の管理に責任を持つ人です。海外でもデータスチュワードが足りていないとは言われますが、それと比較しても日本には著しくいないんです。いたとしても兼任で。データにはデータが生まれた部署があるわけですよね。データに付随するそういった情報って、情シスがわかるはずもなく、結局データを作ったその人やチームにしかわかりません。海外だとそれを把握してしっかり記録する係・データスチュワード人員を割けることが多いんです。日本でもデータスチュワードを招致できればいいですが、システム構築やIT組織の歴史的な構造上そういった役割を担える人員はスキル的にもリソース的にも企業内にいない。企業内に人がいないならソフトウェア側が寄り添ってあげなければいけない。それが、我々が非エンジニアの方が扱えるUX/UIを実現しようとこだわっている理由でもありますが、さらに構造的な課題を解くためにはUX/UI以上のアプローチも必要になります。カスタマーサクセス支援もそうですね。
倉林:日本の市場として大きなマーケットポテンシャルがある課題を解決するに等しいし、日本のDXに資する部分ですね。エンタープライズのこの課題を解決していこうと思うと、SIerさんの存在で複雑さが増すかもしれませんね。ここら辺をクリアできると差別化ができそうですね。
松元:そうですね。非常に魅力あるマーケットを見つけたと感じています。

「諦めムードだった」世代を超えて強く感じていた大きなペイン

倉林:名前は公開できないかもしれませんが、大手キャリアさんがすでにユーザーですね。そのユーザー含め、複数社をアウトバウンドで開拓されましたよね。例えば、初期のヒアリングを行なった反応はいかがでしたか。突然若者が「スタートアップを経営していて、メタデータの対応についてヒアリングさせてください」と問い合わせがきたら、どんなリアクションをされるのでしょう。

松元:当時30社くらいご連絡させていただきました。もちろん3分の1くらいは無視されるんですが、3分の2くらいはとても興味を持っていただいて。実は最初期のほとんどのご縁はSNSでのご連絡から始まりました。当時はまだプロダクトがなかったので、学ばせてくださいと頼んで、状況や課題をヒアリングさせていただいたり、アルファ版を見てもらってフィードバックを頂いたり。結果的に、後のお客様になっていただく企業もできました。

倉林:そんなに多くの方がヒアリングに協力してくださるとは、僕の想定と逆でした。そのくらい課題がある、一方でどのデータカタログもいけてない、いろいろ試しているということですね。

松元:ヒアリングさせていただいたところ、日本に適応したいいデータカタログがない、と。頂いたインプットを参考にプロダクト開発を進めてきました。みなさんとても協力的で可愛がってくださって。まだ小さいスタートアップにこんなに力を貸してくださり頭が上がりません。

倉林:すごい温かいストーリーですよね。ペインが実際に大きいということの現われであると同時に、松元さんの人間性や真摯に取り組んでいるところも評価されたのでしょう。

松元:特にサポーティブだった世代が2つあって。60歳アラウンドの方々は、30年以上前のメインフレームの時代、当時からメタデータで概念はあったので、最近のクラウド事情には明るくないながらも似たような課題を見られてきたんです。そういった方々がジャパンデータマネジメントコンソーシアム(以下JDMC)にたくさんいらっしゃって、JDMCで講演の機会を頂きました。可愛がっていただいたり注目いただいて、その後も何回かお呼ばれして講演させていただいたり、YouTubeに出演させていただいたりしました。これをきっかけに、プロダクトローンチ前にも関わらずコンサル会社のデータ総研さんと戦略的パートナーシップを締結させていただきました。そうしたみなさんの後ろ盾に助けられています。一方で、30-40代の方々にも関心を持っていただいています。情シス・IT世代ですが、これまで情シスまわりにデータ関連のサービスが出てこなかった。第二のトレジャーデータになるんじゃないかといった声もくださり応援いただいています。

倉林:KOL(Key Opinion Leader)のような人に出会えたことは大きいですね。

松元:JDMCの方には出会った時、「日本全体としてこの業界で諦めムードが出てました」とおっしゃっていたのが印象的でした。「スタートアップが出てきて、すごい可能性が感じられ、元気をもらいました」とメッセージをいただいたんです。これを聞いて、僕たちが走っていること自体にも意味があると思って。この業界ではまだ起業家があまり出ていないですし、彼らが諦めかけているところに「やりますよ」と勢いある風を浴びせることができるだけでも、やっている甲斐はあると思っています。

倉林:光を射したわけですね。

今まで行ってきて難しいと感じている部分

倉林:実際に商談を動かしてみて、難しさや課題はありますか。

松元:想定より3倍くらい複雑でしたね。ステークホルダーも多いし、システムも想定よりもずっと多く、製品にインプリしていかなきゃいけない機能が莫大。これをどういうロードマップで、作っていくか。エンプラなので、ロール管理やSSOなどのセキュリティ性能、また項目のカスタマイズ性能など、いろんなプラットフォーム機能を入れないと運用に乗らないわけです。優秀な開発チームに恵まれたおかげでデータカタログの基本機能自体はすぐに作れた部分も多いんですが、購入に足るプロダクトとしては、そこからQuollioの価値訴求になる差別化性能の開発ももちろん必要。外部連携をするときにはお客様がどのシステムを使っているかで都度調整が必要になることもある。さらには、海外製品や標準フレームワークについて調べ尽くしている方々もいて、それを基準に、足りないように見える部分を無限に指摘されることもありました。
とはいえ、スタートアップの0→1フェーズにおいては、全部に答えるのは難しい。会社として生き延びるためにも、プロダクト開発には優先順位をつける必要があります。例えばエンタープライズ企業において「全社導入するには◯◯が必須」と言われても、すぐには開発が難しい。ところが、現時点で「◯◯が無くても導入します」といってくださるような会社が出てきたんです。今全ての機能がなくても大丈夫、2年後くらいまでに追加されていけばいいと言っていただいたり。今後全社展開のためには必要になりますが、アジャイルに微調整させていただけるのは大変助かりました。

倉林:かなり寛容ですね。その機能がないと絶対ないと導入してもらえないと思いきや、需要と供給のバランスがものをいう。そのソリューションしかなかったら妥協するというケースがあるわけですね。

松元:もう一つ苦労したのは、エンプラ営業です。お客様である顧客企業の担当者さんにはとても気に入ってもらっていても、上申する際にROIやユースケースを説明するのが難しい。今でも課題のひとつですね。また、差別化となる機能や、まだ十分に対応ができていない一部機能は、半年〜1年で完成させていく予定です。そこからはキラフィーチャーをいかに追加していくかが重要だと考えています。

チームについて

倉林:もうひとつQuollioにおいて特徴的なのは、エンジニアがみんな外国人で、初期メンバーに女性もいらっしゃる。多様性あるチームをマネージしていますね。

松元:私は昔から留学コミュニティになどインターナショナルな環境にいることが多かったので、1回目に起業した時もメンバーは外国人だったんです。今回はCTOもそういうマインドセットを持っていて、起業当初無給で一緒にプロダクト開発をしてくれるインターン生を募集したら全員外国人でした。日本にいる外国人のなかには、スタートアップで働きたい人という人がすごく多いんですが、外国人を受け入れられるスタートアップが少ない。うちはすぐ採用できる。採用優位性がかなり高まるはずという見込みでスタートしています。

倉林:彼らが生き生きと仕事できる環境を作れる会社は少ないと思いますし、逆にそれができれば採用力が増すということですね。

今後どんな会社を目指していくか

倉林:今後どんな会社を目指していきますか。

松元:やりたいことはたくさんありますが、やっぱり課題解決にこだわりたいです。もちろん利益追求は重要ですが、データカタログを導入してもらって儲けました、みたいな会社では終わりたくない。導入後きちんと解決まで辿り着けているかどうかにこだわりたいですし、そこまでやらないと取り組んでいる意味がない。
あとは、会社のビジョンとしては、日本の錚々たる大企業に愛顧されていて、そして、デジタルやデータに関わる方が皆んな一目置いている、顧客にも従業員にも愛される会社を目指したいですね。私はもともとパランティアテクノロジーズに憧れてデータの世界にきています。彼らはデジタルの力で社会的にでかい課題を解いていて、そこで働いてる人たちも誇りを持り、志を持った人が集まっている。ああいう会社を作りたい、そういう会社にしていかなきゃいけない、そう思っています。

倉林:データの時代。オイルに変わるのはデータとも言われています。データをしっかり正しく使えるようにすることは、グローバルで非常に大きなテーマですよね。それを達成するには、ファイナンスもすごく必要になる。ぜひ、引き続き応援させてください。DNXも貢献できるように、頑張ります。