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富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第三

1.026.2
古今和歌集巻第三
 夏哥
03.0135
  題不知        よみ人しらす
わかやとの池の藤波さきにけり山ほとゝきすいつかきなかん
▼わかやとの 池の藤波○ガ さイテシマウタコトジヤ 山ほとゝきす○ハ いつ〈か●〉き○テなかウゾ
  この哥ある人のいはく柿本人丸か也
  ▼この哥○ヲある人のいはく柿本人丸か○哥ジヤト也
03.0136 ∥5句注「ガ」濁点原状
  卯月にさける桜をみてよめる
  ▼卯月にさイテアル桜をみてよめる
             紀としさた
あはれてふことをあまたにやらしとや春にをくれて独さくらん
▼あはれトイフ コトバをあまた○ノ木に やルマイト思テ〈や●〉 春にをくれて 独さくデアロウガ
▲       言
03.0137
  題しらす       読人しらす
五月まつ山ほとゝきすうちはふき今もなかなんこその古声
▼五月○ヲまつ 山ほとゝきす○ヨ うちはふき○テ 今トウゾなイテクレイ こその古声デモ
03.0138
             伊勢
1.027.1
さつきこは鳴もふりなん時鳥またしき程の声をきかはや
▼さつきガキタラバ 鳴ナドモふりテシマハウ 時鳥 マタナウチの 声をキヽタイ
03.0139
             よみ人しらす
五月まつはな橘のかをかけはむかしの人の袖のかそする
▼五月○ヲまつ はな橘の かをカイデミレバ むかしの人の 袖のかガナニカシラズする
03.0140
いつのまに五月きぬらん足引の山ほとゝきす今そ鳴なる
▼いつのまに 五月○ガきテシマウタデアロウゾ 〈足引の○○○○○〉 山ほとゝきす○ガ 今ナニハトモアレナクワイ
03.0141
けさき鳴いまた旅なる郭公はな橘にやとはからなん
▼けさき○テナイテ マダ旅ナ 郭公○ヨ はな橘に やとはかツテクレイ
03.0142
  をとは山をこえける時に郭公のなくをきゝて
             紀とものり
をとは山けさこえくれは時鳥梢はるかに今そなくなる
▼をとは山○ヲ けさこえテクルトコロガ 時鳥○ガ 梢はるかに 今ナニカシラズなくワイ
03.0143
  ほとゝきすのはしめて鳴けるをきゝて
             そせい
時鳥はつ声きけはあちきなくぬしさたまらぬ恋せらるはた
▼時鳥○ノ はつ声○ヲきクト あちきなく ぬし○モさたまらぬ 恋○ガせらレルハマタ
1.027.2
03.0144 ∥5句補入「○ノトホリ」は左傍
  ならのいそのかみ寺にて郭公のなくをよめる
  ▼ならのいそのかみ寺デ郭公のなくをよめる
磯のかみふるきみやこのほとゝきす声はかりこそむかしなりけれ
▼〈磯のかみ○○○○○〉 ふるイみやこの ほとゝきす○ノ 声バツカリハナニヨリモ むかし○ノトホリデアルコトジヤ
03.0145
  題不知        よみ人しらす
夏山になく時鳥心あらは物思ふわれに声なきかせそ
▼夏山デ なく時鳥○ヨ 心あルナラバ 物思ふわれに 声○ヲ〈●な〉カナラズきかせテクレルナ
03.0146
ほとゝきす鳴こゑ聞は別にしふる郷さへそこひしかりける
▼ほとゝきす○ノ 鳴こゑ○ヲキクト 別テシマウタ ふる郷〈1字歟抹消〉マデガナニカシラズ こひしウアルコトジヤ
03.0147
ほとゝきすなかなく里のあまたあれは猶うとまれぬ思ふ物から
▼ほとゝきす○ヨ ソチかなく里ガ タントアルニヨツテ ヤツハリアイソガツキタゾ 思ふ物ノクセニ
03.0148 ∥左傍注2箇所ともに原状右傍
おもひ出るときはの山の郭公から紅のふりいてゝそなく
▼おもひイダス ときはの山の 郭公 から紅ノヤウニ ふりいてゝナニカシ〈゛抹消歟〉ラズなく
▲       時ハトヨセタル也          啼血ノコト也
03.0149
声はして涙はみえぬ時鳥わか衣手のひつをからなん
▼声はして 涙はみえぬ 時鳥○ヨ わか衣手の ヒタツテアルをかツテクレナ
▲                  ソデ
03.0150
あし引の山時鳥おりはへて誰かまさるとねをのみそなく
▼〈あし引の○○○○○〉 山時鳥 コヽデコソト 誰ガ〈か●〉まさる○ゾと ねをハツカリナニカシラズなく○ゾ
03.0151
今さらに山へかへるな子規こゑの限はわかやとになけ
▼イマトナツテ又 山へかへるな 子規○ヨ こゑのアリダケハ わかやとデなけ
03.0152
             みくにのまち
1.028.1 ∥1句「やよや」右傍で注2行書き
やよやまて山ほとゝきすことつてんわれ世中に住侘ぬとよ
▼《コレナア\ヤイコリヤ》まて 山ほとゝきす○ヨ ことつてヲセウ われ世中に 住侘ぬとイフコトヲ
03.0153 ∥2句「思」右傍で注3行書き,うち「ひ」平仮名,「フテ」抹消。注「ヰルト」は「をれは」左傍。4句注「なき」は平仮名,その「き」右傍「イ」。
  寛平御時きさいの宮の哥合のうた
             紀とものり
五月雨にもの思をれは時鳥よふかく鳴ていつち行らん
▼五月雨に もの○ヲ《オモフテ\思ひ\フテ抹消》ヰルト 時鳥 よふかウ《なき\イ》て ドツチ行デアロウゾ
03.0154
夜やくらきみちやまとへるほとゝきすわかやとをしも過かてに鳴く
▼夜ガ〈や●〉くらイカ みちガ〈や●〉まとフテヰルカ ほとゝきす わかやとニカギリテ 過ニクウ鳴○○ハ
◆〈5句「に鳴」見消,左傍朱筆〉になく ∥見消記号も朱筆。墨筆訳注補入は,「鳴」右下に「○」,朱筆「になく」に続けて「○ハ」
03.0155
             大江千里
やとりせしはな橘もかれなくになとほとゝきす声たえぬらん
▼やとり○ヲシタ はな橘も かれモセヌノニ ナゼニほとゝきす○ノ 声たえテシマウタデアロウ
03.0156
             きのつらゆき
夏の夜のふすかとすれはほとゝきすなく一声に明るしのゝめ
▼夏の夜ガ ふすかとすルト ほとゝきす○ノ なく一声デアケるしのゝめ
▲   此のハ下の明ルト云詞ニツヾク心ニミルヘシ
◆〈5句「明」左傍朱筆〉あく
03.0157
             みふのたゝみね
くるゝかとみれはあけぬる夏のよをあかすとやなく山郭公
▼くレルかと みルトあけテシマウ 夏のよを あかすと○思テ〈や●〉なく○カ 山郭公○ハ
1.028.2
03.0158
             紀秋岑
夏山にこひしき人や入にけん声ふりたてゝなくほとゝきす
▼夏山ヘ こひしイ人○ガ〈や●〉 ハイツテシマウタコトデアロウカ 声○ヲふりたてゝ なくほとゝきす○ハ
03.0159
  題しらす       よみ人しらす
こその夏鳴ふるしてし時鳥それかあらぬか声のかはらぬ
▼キヨネンの夏 鳴ふるしてオイタ 時鳥 それかソレデハナイカ 声ガかはらぬ○ノハ
03.0160
  ほとゝきすのなくをきゝてよめる
  ▼ほとゝきすのなくをきイてよめる
             つらゆき
五月雨の空もとゝろに時鳥なにをうしとかよたゝなくらん
▼五月雨の 空もドロゝヽトイフホ〈゛歟抹消〉ドニ 時鳥 なにをうイと○思フテ〈か●〉 ヨツヒトなくデアロウカ
03.0161
  さふらひにてをのことものさけたうへけるにめし
  ▼バン所デをのことものさけ○ヲクダサリマシタにめし
  てほとゝきすまつうたよめとありけれはよめる
  ▼てほとゝきす○ヲまつうたよめとゴザリマシタニヨツテよめる
             みつね
ほとゝきす声も聞えす山ひこは外に鳴ねをこたへやはせぬ
▼ほとゝきす○ハ 声も聞えヌガ コダマは 外に鳴ねを こたへハ〈やは●●〉せぬカヤ
1.029.1
03.0162
  山にほとゝきすの鳴けるをきゝてよめる
  ▼山にほとゝきすガ鳴けるをきゝてよめる
             つらゆき
ほとゝきす人まつ山に鳴なれは我うちつけにこひまさりけり
▼ほとゝきす○ガ 人まつ山デ 鳴ニヨツテ 我ユキガケニ こひ○ガまさツタコトシヤ
03.0163
  はやくすみける所にて郭公のなきけるを
  ▼マヘカタすみマシタ所デ郭公のなきけるを
  きゝてよめる     たゝみね
むかしへや今もこひしき時鳥ふる郷にしも鳴てきつらん
▼むかしノ方ガ〈や●〉 今もこひしイカ 時鳥 ○ソコデふる郷ヘカギツテ 鳴イてきタノテアロウ
03.0164
  ほとゝきすの鳴けるをきゝてよめる
  ▼ほとゝきすガ鳴けるをきゝてよめる
             みつね
ほとゝきす我とはなしに卯花のうき世中に鳴わたるらん
▼ほとゝきす 我トイフデハナヒノニ 〈卯花の○○○○○〉 ○ナゼうき世中に 鳴わたるデアロウゾ
▲                  ウチヨセナリ
03.0165
  はちすのつゆをみてよめる
             僧正遍昭
1.029.2
はちす葉のにこりにしまぬ心もてなにかは露を玉とあさむく
▼はちす葉ノヤウニ にこりにしまぬ 心デ ナニシニ〈かは●●〉露を 玉とあさむく○ゾイノ
03.0166
  月のおもしろかりける夜あかつきかたによめる
  ▼月ガおもしろウゴザリマシタ夜あかつきかたによめる
             ふかやふ
夏の夜はまたよひなから明ぬるを雲のいつこに月やとるらん
▼夏の夜は またよひナリニ 明テシマウノニ 雲のドコに 月○ガやとるデアロウゾ
03.0167
  となりよりとこなつの花をこひにをこせたり
  ▼となりカラとこなつの花をモラヒにをこせマシタニ
  けれはおしみてこのうたをよみてつかはしける
  ▼ヨツテおしンデこのうたをよみてつかはしける
             みつね
ちりをたにすへしとそ思ふ咲しよりいもとわかぬるとこなつのはな
▼ちりをデモ すへマイトナニカシラズ思ふ 咲イタカラ いもとわかネル とこなつのはな○ハ
03.0168
  みな月のつこもりの日よめる
夏と秋とゆきかふ空のかよひちはかたへ涼しき風や吹らん
▼夏と秋と ゆきかふ空の かよひちは 片ツラ涼しイ 風ガ〈や●〉吹デアロウカ
1.030.1
(空白)


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