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富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第五

1.038.2
古今和歌集巻第五
 秋哥下
05.0249
  是貞のみこの家の哥合のうた
             文屋やすひて
吹からに秋の草木のしほるれはむへ山風をあらしといふらん
▼吹トイフトハヤ 秋の草木ガ しほレルニヨツテ ドウリデ山風を あらしといふノデアロウ
05.0250
草も木も色かはれともわたつ海の浪の花にそ秋なかりける
▼草も木も 色○ガかはルケレドモ わたつ海の 浪の花にハナニカシラズ 秋○ガなウアルコトジヤ
05.0251
  秋の歌合しける時によめる
  ▼秋の歌合ヲ〈シに重ね書き〉イタシマシタ時によめる
             紀よしもち 《淑望》
もみちせぬときはの山は吹風のをとにや秋をきゝわたるらん
▼もみちせぬ ときはの山は 吹風の をとデ〈や●〉秋を きゝわたるデアロウカ
05.0252
  題不知        よみ人しらす
霧立て雁そなくなるかた岡の朝の原は紅葉しぬらん
▼霧立て 雁ガナニカシラズなくワイ かた岡の 朝の原は 紅葉しテシマウタデアロウカ
1.039.1
05.0253
神無月時雨もいまたふらなくにかねてうつろふ神なひの杜
▼神無月 時雨もいまた フリモセヌノニ マヘビロニうつろふ 神なひの杜
05.0254
千はやふる神なひ山のもみち葉におもひはかけしうつろふ物を
▼〈千はやふる◎◎◎◎◎〉 神なひ山の もみち葉に おもひはかけマイゾ うつろふ物ジヤニ
05.0255
  貞観の御時綾綺殿のまへに梅木ありけり西
  ▼貞観○ノ帝の御時○代ラウキデンのまへに梅木○ガゴザリマシタガ西
  のかたにさせりける枝のもみちはしめたりけるを
  ▼の方ヘ出テゴザリマシタ枝ガもみちはし゛めテゴザリマシタノを
  伺候をのこともガよみけるついてに
  よめる        藤原かちをむ 《勝臣》
おなしえをわきて木のはのうつろふは西こそ秋のはしめなりけれ
▼オンナシ枝ジヤニ トリワケテ木のはガ うつろふノハ 西ガナニヨリモ秋の はしめデアルコトナレ
05.0256
  いし山にまうてけるときをとは山のもみちを
  みてよめる      貫之
秋風の吹にし日より音羽山みねの梢も色つきにけり
▼秋風の 吹イテシマウタ日カラ 音羽山 みねの梢トイヘトモ 色つきテシマウタコトジヤ
05.0257
  是貞のみこの家の哥合によめる
1.039.2
             敏行朝臣
しら露の色はひとつをいかにして秋の木葉を千ゝにそむらん
▼しら露の 色はひとつジヤニ ドノヨウニシテ 秋の木葉を 千ゝにソメルデアロウゾ
05.0258
             壬生忠岑
秋の夜の露をは露とをきなから雁の涙や野へを染らん
▼秋の夜の 露をハ露デ をきナリニ 雁の涙○ガ〈や●〉 野へをソメルデアロウカ
05.0259
  題不知        よみ人しらす
秋の露色ゝヽことにをけはこそ山の木葉のちくさなるらめ
▼秋の露○ガ 色ゝヽベツに をけはこそ 山の木葉の ちくさニアルデアロウズレ
05.0260
  もる山のほとりにてよめる
             貫之
しら露も時雨もいたくもる山は下葉残らす色つきにけり
▼しら露も 時雨もキツウ もる山は 下葉残らす 色つイテシマウタコトジヤ
05.0261
  秋の哥とてよめる
  ▼秋の哥と○申シてよめる
             在原元方
1.040.1
雨ふれと露ももらしを笠とりの山はいかてかもみち初けん
▼雨○ガふルケレド 露ももルマイノニ 笠とりの 山はドウシテ〈か●〉 もみち初タデアロウゾ
05.0262
  神の社のあたりをまかりける時にいかきのうちの
  ▼神の社のあたりをトヲリマシタ時にいかきのうちの
  もみちをみてよめる
             貫之
ちはやふる神のいかきにはふ葛も秋にはあへすうつろひにけり
▼〈ちはやふ゛る◎◎◎◎◎〉 神のいかきに はふ葛ト云トモ 秋にはタマリカネテ うつろフテシモウタコトジヤ
05.0263
  是貞のみこの家の哥合によめる
             忠岑
雨ふれは笠とり山の紅葉ゝは行かふ人の袖さへそてる
▼雨○ガフルト 笠とり山の 紅葉ゝは 行かふ人の 袖マデガナニカシラズてるゾ
05.0264
  寛平御時きさいの宮の哥合のうた
             よみ人しらす
ちらねともかねてそおしきもみちはは今は限の色とみつれは
▼ちらヌケレドモ マヱビロニナニカシラズおしイゾ もみちはは 今はコレギリの 色○ジヤとみタノジヤニヨツテ
1.040.2
05.0265
  やまとの国にまかりける時さほ山に霧のた
  ▼やまとの国ヘマヰリマシタ時さほ山に霧ガタツ
  てりけるをみてよめる
  ▼テゴザリマシタノをみてよめる
             きのとものり
たかための錦なれはか秋霧のさほの山へを立かくすらん
▼ダレかための 錦ジヤニヨツテ〈か●〉 秋霧ガ さほの山ノ方を 立かくすデアロウゾ
05.0266
  これさたのみこの家の哥合のうた
             読人しらす
秋霧はけさはな立そ佐保山のはゝその紅葉よそにてもみん
▼秋霧は けさは〈な●〉タツテクレナ 佐保山の はゝその紅葉 よそデナリトみヨウホドニ
05.0267
  秋の哥とてよめる
             坂上是則
佐保山の柞の色はうすけれと秋はふかくも成にける哉
▼佐保山の 柞の色は うすイケレド 秋はふかくサテモ ナツテシマウタコトデハアルコトカナ
05.0268 ∥1句訳「ト」存疑,あるいは「テ」歟,あゆひ抄2巻28葉表面例で欠。
  人の前栽に菊にむすひつけてうへける
  ▼人のツボノウチに菊にむすひつけてうへける
1.041.1
  うた         在原業平朝臣
うへしうへは秋なき時やさかさらん花こそちらめ根さへ枯めや
▼うへトサヘうへタラバ 秋○ノなイ時ハ〈や●〉 さかズニヰルデアロウカ 花ハナニヨリモちらウズレ 根マデガ枯ウカヤ
▲                                  ○秋サヘアルナレバ
05.0269
  寛平御時菊の花をよませ給ふける
             敏行朝臣
久堅の雲の上にてみる菊は天津星とそあやまたれける
▼〈久堅の◎◎◎◎◎〉 雲の上デ みる菊は 天津星とナニカシラズ トリチガヘラレルコトジヤ
   この哥はまた殿上ゆるされさりける時にめし
   ▼この哥はまた昇殿ヲ御免ノゴザリマセナンダ時にめし
   あけられてつかうまつれるとなん
   ▼あけられてヨミマシタノジヤとナ○ウケ玉ハリマシタ
05.0270
  是貞のみこの家の哥合のうた
             紀とものり
露なから折てかさゝん菊の花老せぬ秋のひさしかるへく
▼露ナリニ ヲツてかさ゛ゝウ 菊の花 年ノヨラヌ秋ガ ひさしウアルヤウニ
05.0271 ∥5句訳注「ヤハノヤ也」は「〈や●〉」の右傍にある
  寛平御時后の宮哥合のうた
1.041.2
             大江千里
うへし時花まちとをにありし菊うつろふ秋にあはんとやみし
▼うへタ時 花まちとをに あツタ菊○ガ うつろふ秋に あはウと〈や●〉みタカヤ
▲                               ヤハノヤ也
05.0272 ∥詞書訳注「○是マデハ……」は歌の右傍にある
  おなし御時せられける菊合にすはまをつくりて
  ▼おなし御代アソバサレマシタ菊合にすはま○ノ形をつくツて
  菊の花うへたりけるにくはへたりける哥ふき
  ▼菊の花○ヲうへテゴザリマシタノにソヘテゴザリマシタ哥ふき
  ▲                         ○是マデ〈1字歟抹消〉ハ下四首ノ〉惣題也
  あけの浜のかたに菊うへたりけるをよめる
  ▼あけの浜の形に菊○ヲうへテゴザリマシタノをよめる
             すかはらの朝臣
秋風の吹上にたてる白菊は花かあらぬか浪のよするか
▼秋風の 吹上にタツテアル 白菊は 花〈か●〉ソウデハナイ〈か●〉 浪ガヨセルノ〈か●〉
05.0273
  仙宮に菊をわけて人のいたれるかたをよめる
  ▼仙宮に菊をわけて人のマヰツテヲリマスル形をよめる
             素性法師
ぬれてほす山路の菊の露のまにいつか千とせを我はへにけん
▼ぬれてほす 山路の菊の チツトノマニ いつ〈か●〉千とせを ワレはへテシマウタデアロウゾ
05.0274
  菊の花のもとにて人の人まてるかたをよめる
  ▼菊の花のもとデ人ガ人○ヲマツテヰル形をよめる
1.042.1
             とものり
花みつゝ人まつ時は白妙の袖かとのみそあやまたれける
▼花○ヲミイゝヽ 人○ヲまつ時は 白妙の 袖かとバツカリナニカシラズ トリチガヘルコトジヤ
05.0275
  おほさはの池のかたに菊うへたるをよめる
  ▼おほさはの池の形に菊うへテアルノをよめる
一本とおもひし花を大沢の池の底にも誰かうへけん
▼イツポンジヤト おもフタ花ジヤニ 大沢の 池の底にも 誰ガ〈か●〉うへタデアロウゾ
05.0276
  世中のはかなきことを思ひけるおりに菊花
  ▼世中のはかなイことを思ひマシタおりに菊花
  をみてよみける    つらゆき
秋の菊にほふかきりはかさしてん花よりさきとしらぬ我身を
▼秋の菊 にほふタケハ かさしてミヨウ 花よりさき○ジヤと しらぬ我身ジヤニ
05.0277 ∥1句訳「ツ」は「ズ」右下「ホ」右上にある
  しら菊のはなをよめる
             凡河内みつね
心あてにおらはやおらん初霜のをきまとはせる白菊の花
▼アテズツホウニ ヲツタラバ〈や●〉おらレウカ 初霜ガ をきウシナハセテヰル 白菊の花○ヲ
05.0278
  是貞のみこの家の哥合のうた
1.042.2
             よみ人しらす
色かはる秋の菊をは一とせにふたゝひにほふ花とこそみれ
▼色かはる 秋の菊をは 一年中ニ ニドにほふ 花とナニカヤメテみれ
05.0279 ∥詞書訳「時」は訳文中のもの
  仁和寺に菊のはなめしける時に哥そへてたて
  ▼仁和寺ヘ菊のはな○ヲオトリヨセアソバシマシタ時ニ哥そへてサシ
  まつれとおほせられけれはよみてたてまつり
  ▼アゲイとおほせられマシタニヨツテよみてサシアゲ
  ける         平貞文
  ▼マシタ
秋を置て時こそありけれ菊の花うつろふからに色のまされは
▼秋ヨリホカニ 時○ガナニヨリモあルコトナレ 菊の花 うつろふカラオコツテ 色カまさルニヨツテ
05.0280
  人の家なりけるきくの花をうつしうへたり
  ▼人の家ニゴザリマシタきくの花をうつしうへテゴザリ
  けるをよめる     貫之
  ▼マシタノをよめる
さきそめしやとしかはれは菊の花色さへにこそうつろひにけれ
▼さきそめタ やと○ガソノヤウニかはルト 菊の花 色マデガナニヨリモ うつろフテシマウタコトナレ
05.0281
  題不知        よみ人しらす
佐保山のはゝその紅葉ちりぬへみよるさへみよとてらす月影
▼佐保山の はゝその紅葉 ちりテシマイソウナカラ よるマデみよと○思テてらす月影
1.043.1
05.0282
  宮つかへひさしうつかうまつらて山さとにこもり
  ▼御奉公ヲひさしうツカマツリマセ〈て゛〉ズニ山さとにヒツコンデ
  侍けるによめる
  ▼ヲリマシタ時ニよめる
             藤原関雄
奥山の岩かき紅葉ちりぬへしてる日の光みる時なくて
▼奥山の 岩か゛き紅葉○ガ ちりテシマ〈1字歟抹消〉イソウナ てる日の光○ヲ みる時なくて
05.0283
  題しらす       よみ人しらす
たつた河もみち乱てなかるめりわたらは錦中やたえなん
▼たつた河○ニ もみち○ガ乱て なかレルオモユキジヤ わたツタラハ錦○ノ 中○ガ〈や●〉キレテシマハウカ
  この哥はある人ならのみかとの御哥也となん申す
  ▼この哥はある人○カならのみかとの御哥ジヤとナ申す
05.0284
竜田河もみち葉なかる神なひのみむろの山に時雨ふるらし
▼竜田河○ニ もみち葉○ガなかレルガ 神なひの みむろの山に 時雨ガふるコトソウナ
  又はあすかゝはもみちはなかる 《此哥不注人丸哥\他本又同》
  ▼又は○上二句ヲあすかゝはもみちはなかる○トモウケ玉ハリマシタ
05.0285
恋しくはみても忍はんもみちはを吹なちらしそ山下風のかせ
▼恋しイナラバ みてナリト忍はウホドニ もみちはを 吹〈な●〉ちらしテクレナ 山下風のかせ○ヨ
05.0286
秋風にあへす散ぬる紅葉はの行ゑさためぬ我そ悲しき
▼秋風に タマリカネテ散テシマウ 紅葉はノヤウニ 行方モキハマラヌゑ 我ガナニカシラズ悲しイ
1.043.2
05.0287
秋はきぬもみちはやとに降しきぬみち踏分てとふ人はなし
▼秋はきテシマウ もみちはやとに 降しイテシマウ みち踏分て とふ人はなイ
05.0288
ふみわけてさらにやとはん紅葉はのふりかくしてしみちとみなから
▼ふみわけて ブンタツテ〈シ歟に重ね書き〉ミマハウカイノ 紅葉はガ ふりかくしてオイタ みち○ジヤニとみナリニ
05.0289
秋の月山へさやかにてらせるはおつるもみちの数をみよとか
▼秋の月○ガ 山ノ方ヲハツキリト てらシテヰルノハ おチるもみちの 数をみよとイフ〈カ歟に重ね書き〉コトカ
05.0290
ふく風の色の千種にみえつるは秋の木葉のちれはなりけり
▼ふく風の 色ガ種々ニ みえタノハ 秋の木葉ガ ちルニヨツテヾアルコトジヤ
05.0291
             せきお
霜のたて露のぬきこそよはからし山の錦のをれはかつちる
▼霜ガたて○デ 露ガぬき○デナニヨリモ よはウアルコトソウナ 山の錦ガ をルトカタテニちるノハ
◆〈3句歌「は」に重ね書き,朱筆〉ワ
05.0292
  うりんゐんの木のかけにたゝすみてよみける
             僧正遍昭
わひ人のわきて立よる木のもとはたのむ陰なくもみち散けり
▼わひ人ガ トリワケテ立よる 木のもとは タノミニスル陰○モなウ もみち○ガチルコトジヤ
05.0293
  二条の后の春宮のみやす所と申ける時に御
  ▼二条の后ガ春宮のみやす所と申ける時に御
  屏風に竜田川にもみちなかれたるかたをか
  ▼屏風に竜田川にもみち○ノなかれテアル図をか
1.044.1
  けりけるを題にてよめる
  ▼イテゴザリマシタノを題にてよめる
             そせい
もみち葉のなかれてとまる湊には紅ふかき波や立らん
▼もみち葉ガ なかれてとまる 湊デハ 紅ふかイ 波ガ〈や●〉立ツデアロウカ
05.0294
             なりひらの朝臣
ちはやふる神代もきかす竜田河から紅に水くゝるとは
▼〈ちはやふ゛る◎◎◎◎◎〉 神代ニナドモきかヌゾ 竜田河○ニ から紅デ 水○ヲシボリニ染ルトイフコトハ
05.0295
  これさたのみこの家の哥合のうた
             としゆきの朝臣
わかきつるかたもしられすくらふ山木ゝのこのはのちるとまかふに
▼わか゛きタソノ 方ナドモしられヌゾ くらふ山○ノ 木ゝのこのはガ ちるト云テチラツクノデ
05.0296
             たゝみね
神なひのみむろの山を秋ゆけは錦たちきる心ちこそすれ
▼神なひの みむろの山を 秋ゆクト 錦○ヲたツテきる コヽロモチガナニヨリモスルナレ
05.0297
  きた山にもみちおらんとてまかれりける時によ
  ▼きた山ヘもみち○ヲおらんと○申シテマヰリマシタ時によ
1.044.2
  める         つらゆき
みる人もなくて散ぬる奥山の紅葉はよるの錦なりけり
▼みる人ナドモ ナシニ散テシマウ 奥山の 紅葉はよるの 錦デアルコトジヤ
05.0298
  秋のうた       かねみの王
たつた姫たむくる神のあれはこそ秋のこのはのぬさと散らめ
▼たつた姫○ガ 手向ヲスル神ガ あルニヨツテナニヨリモ 秋のこのはガ ぬさト云ヨウニ散デアロウズレ
05.0299 ∥5句訳「心」は訳文中のもの
  をのといふ所にすみ侍ける時もみちをみてよめる
  ▼をのといふ所にスンテヲリマシタ時もみちをみてよめる
             つらゆき
秋の山もみちをぬさとたむくれはすむ我さへそたひ心ちする
▼秋の山○ニ もみちをぬサト云ヤウニ たむケルニヨツテ すむ我マデカナニカシラズ たひ○ノ心モチガする○ゾ
05.0300
  神なひの山を過てたつた河をわたりける時に
  もみちのなかれけるをよめる
             きよはらのふかやふ
神なひの山を過行秋なれはたつた川にそぬさはたむくる
▼神なひの 山を過行 秋ジヤニヨツテ たつた川デナニカシラズ ぬさはたむケるコトジヤ
1.045.1
05.0301
  寛平御時きさいの宮の哥合のうた
             藤原おきかせ
白浪に秋のこのはのうかへるをあまのなかせる船かとそみる
▼白浪に 秋のこのはガ ウイテヰルノを あまガなかシテヰル 船かとナニカシラズみる
05.0302
  たつた河のほとりにてよめる
  ▼たつた河のヘンデよめる
             坂上是則
紅葉はのなかれさりせは竜田河水の秋をは誰かしらまし
▼紅葉はガ なかれズニアルニシテミタラバ 竜田河○ノ 水の秋をは 誰ガ〈か●〉しらウゾ
05.0303
  志賀の山こえにてよめる
  ▼志賀の山こえデよめる
             はるみちのつらき
山河に風のかけたるしからみは流もあへぬ紅葉なりけり
▼山河デ 風ガかけテオイタ しからみは 流テヰルマモナイ 紅葉デアルコトジヤ
05.0304
  池のほとりにて紅葉のちるをよめる
  ▼池のほとりにて紅葉のちる○ノをよめる
             みつね
1.045.2
風吹はおつるもみちは水清みちらぬ影さへ底にみえつゝ
▼風○ガ吹クト おチるもみちは 水○ガ清サニ ちらぬ影マデ底に みえテソレナリニ
05.0305
  亭子院の御屏風のゑに河わたらんとする
  ▼亭子院の○帝御屏風のゑに河○ヲわたらウとする
  人のもみちのちる木のもとにむまをひかへてた
  ▼人ガもみちのちる木のもとデむまをひかへてタツ
  ◆〈詞書「む」に重ね書き,朱筆〉う
  てるをよませ給ひけれはつかうまつりける
  ▼テヰルノをよまサセアソバサレマシタニヨツテヨンデサシアゲマシタ
立とまりみてをわたらん紅葉はは雨とふるとも水はまさらし
▼立とまツテ みてコチハわたらウ 紅葉はは 雨ト云ヤウニふるト云テモ 水はまさルマイ
05.0306
  これさたのみこの家の哥合のうた
             たゝみね
山田もる秋のかりいほにをく露はいなおほせ鳥の涙なりけり
▼山田ノ番ヲスル 秋のカリ屋デ をく露は いなおほせ鳥の 涙デアルコトジヤ
05.0307
  題しらす       よみ人しらす
ほにも出ぬ山田をもると藤衣いなはの露にぬれぬ日はなし
▼ほにナドモ出ぬ 山田を番スルト云テ 藤衣 いなはの露デ ぬれぬ日はなイ
05.0308 ∥歌末尾「か」は,「と」左傍に折ったのを抹消して,「と」直下に置く)
かれる田におふるひつちのほに出ぬは世を今さらに秋はてぬとか
▼かツテアル田に ハヱル二番バヱの ほに出ぬ○ノは 世をイマトナツテ又 秋はてぬとか
◆〈5句「ぬとか」に重ねて,朱筆〉テシマウタト云コトカ
1.046.1
05.0309
  きた山に僧正遍昭とたけかりにまかれりけるに
  ▼きた山ヘ僧正遍昭とたけか゛りにマイリマシタ時ニ
  よめる        そせい法し
もみちはは袖にこきいれてもて出なん秋は限とみん人のため
▼もみちはは 袖にシゴキいれて もて出テシマハウ 秋はコレギリと みヨウ人のため○ニ
05.0310
  寛平御時ふるきうたたてまつれとおほせ
  ▼寛平御時ふるきうたサシアゲイト仰ツケ
  られけれはたつた川もみちはなかるといふうたを
  ▼ラレマシタニヨツテたつた川もみちはなかるといふうたを
  かきてそのおなし心をよめりける
  ▼かイてそのおなし心をよめりける
             おきかせ
み山よりおちくる水の色みてそ秋は限りと思ひしりぬる
▼み山カラ おち○テくる水の 色○ヲみてナニカシラズ 秋はコレギリジヤト カテンガイテシマウタ
05.0311
  秋のはつる心をたつた河に思ひやりてよめる
  ▼秋のシマヘル心をたつた河ヘ思ひやツてよめる
             つらゆき
年ことにもみち葉なかるたつた河みなとや秋のとまりなるらん
▼マイネンに もみち葉○ヲなかる たつた河○ハ みなとガ〈や●〉秋の とまりデアルデアロウカ
1.046.2
05.0312
  なか月のつこもりの日大井にてよめる
  ▼九月のつこもりの日大井にてよめる
夕月夜をくらの山に鳴しかの声のうちにや秋はくるらん
▼夕月夜 をくらの山デ 鳴しかの 声のうちに〈や●〉 秋はくレルデアロウカ
05.0313
  おなしつこもりの日よめる
             みつね
みちしらはたつねもゆかんもみちはをぬさとたむけて秋はいにけり
▼みち○ヲシツテヰルナラバ たつねテナリトゆかウ もみちはを ぬさト云ヤウニたむけて 秋はインデシマウタコトジヤ

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