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富士谷御杖 訳古今集 初稿 序

1.01.1
(空白)
1.01.2
やまとうたは人のこゝろをたねとしてよろつの
▼やまとうたは、人のこゝろをたねニして、オビタヽシの
▲〈「人の」の「の」右傍〉つイ可用
 ∥読点は原状は朱筆で本文中にある。以下同。
ことのはとそなれりける世中にある人ことわさしけき
▼ことのはとナニカシラズなツテユクコトジヤ、世中にある人、言ヤシワザガしけイ
ものなれは心におもふことをみるものきくものに
▼ものジヤニヨツテ、心におもふことを、みるもの○ヤきくものに
つけていひいたせるなり花になくうくひす水に
▼つけていひ出シタノジヤ、花になくうくひす○ヤ水に
すむかはつのこゑをきけはいきとしいけるものい
▼すむかはつのこゑをきクトコロガ、いきとサヘイキテイルもの○ハ、ド
つれかうたをよまさりけるちからをもいれすして
▼レガ〈か●〉うたをよまズニヰルコトゾイノ、ちからをもいれすニ
▲〈「つれか」の「か」左傍〉カハノカ也
 ∥訳「ズニ」の「ニ」は,1字を抹消してその右傍に改めた。
あめつちをうこかしめにみえぬおに神をもあはれと
▼天ヤ地をうこかし、めにみえぬおに神をも感心ヲ
おもはせおとこをんなのなかをもやはらけたけき
▼サセ、おとこ○トをんな○トのなかをもニツトリトシ、丈夫ナ
ものゝふのこゝろをもなくさむるはうたなりこのうた
▼武士のこゝろをもなくさメる○ノはうたジヤ、このうた○モト、
あめつちのひらけはしまりける時よりいてきにけり
▼あめつちガひらけはしまツタ時カラデキテアルコトジヤ、
《あまのうきはしのしたにてめかみをかみと\
▼《あまのうきはしのしたデ、めかみをかみと\
 なりたまへることをいへるうたなり》
 ▼ナラセラレタことをいフタうたジヤ》
しかあれとも世につたはる
▼ソウデハアルケレトモ、世につたはる
1.02.1
ことはひさかたのあめにしてはしたてるひめにはしまり
▼ことは、〈ひさかたの◎5〉あめにデハ、したてるひめデはしまり
 ∥枕詞の訳注圏点は◎で翻刻し,直後の数字で繰り返しの数を記す。ここの原状は歌「ひさかたの」仮名一つずつの右傍に圏点がある。
《したてるひめとはあめわかみこのめなりせうとの神のかたちをかたにゝうつりて\
▼《したてるひめとは、あめわかみこの妻ジヤ、兄の神のかたち○ガ、岡ヤ谷ヘうつツて\
 かゝやくをよめるえひすうたなるへしこれらはもしのかすもさたまらすうたのやう》
 ▼ヒカゝヽスルノヲヨマレタイヤシヒ体ナうたノコトデアリソウナ、これらはもしのかすもキハマラズ、うたのやう》
《にもあらぬ\ことゝもなり》
▼《にもナイ\ことゝもジヤ、》
 ∥本文の二行割細書は,短いものは原状によらずに1行で扱う。
あらかねのつちにしてはすさのをのみことよりそ
▼〈あらかねの◎5〉地デハ、すさのをのみことカラナニカシラズ
おこりけるちはやふる神代にはうたのもしもさた
▼デキタコトジヤ、〈ちはやふる◎5〉神代デハ、うたのもしもキハ
まらすすなほにしてことの心わきかたかりけらしひとの
▼マラズ、カザリケガナウテ、言の心○ガキコエニクカツタコトソウナ、ひとの
世となりてすさのをのみことよりそみそもしあまり
▼世となツて、すさのをのみこと○ノ御哥カラ○ソレニナラウテナニカシラズ三十あまり
 ∥「ソレニナラウテ」は歌左傍
ひともしはよみける
▼一字ノ体はよンダコトジヤ
《すさのをのみことはあまてるおほん神のこのかみ\
▼《すさのをのみことは、あまてるおほん神の兄\
 なり女とすみたまはんとていつものくにゝみやつくり》
 ▼ジヤ、女とヒトツニゴザナサレウトヲホシメシテ、いつものくにデ、ゴテンヲタテ》
《し給ふ時にそのところにやいろのくものたつをみてよみ給へる\
▼《サセラレタ時に、そのところに、やいろのくもガたつ○ノをみてヨマセラレタノ\
 ∥「サセラレタ」の「タ」は,元「テ」歟であったのを抹消して右傍に改めた
 なりやくもたついつもやへかきつまこめにやへかきつくるそのやへかきを》
 ▼ジヤ、〈やくもたつ◎5〉いつも○ノやへかき○ヲつま○ヲ中ヘオク為ニやへかき○ヲつくる○ガそのやへかき○ガトウモイヘヌ》
かくてそ花を
▼カウナツテナニカシラズ花を
めてとりをうらやみかすみをあはれひ露をかなしふ
▼賞翫シ、とりをうらやみ、かすみをあはれひ、露をかなしふ
こゝろこと葉おほくさまゝヽになりにけるとをきと
▼こゝろ○ヤこと葉○ガ、イカイコトデさまゝヽになツテシマウタコトジヤ、とをイと
ころもいてたつあしもとよりはしまりてとし月を
▼ころトイヘトモ、フミ出スあしもとカラはしまツて、とし○ヤ月を
 ∥訳「トイヘトモ」の「イ」は,1字歟抹消して,その右傍
1.02.2
わたりたかき山もふもとのちりひちよりなりてあま雲
▼わたり、たかイ山ト云トモ、ふもとのちりひちカラ○山ニなツて、天雲○ノ
たなひくまておひのほれることくにこのうたもかくの
▼たなひくまてナリアガツタト同ジコトデ、このうたト云トモコノ
ことくなるへしなにはつのうたはみかとのおほんはしめ
▼トヲリデアリソウナ、○サテなにはつのうたは、みかとの○御位ニツカセラレタおほんオコリ
▲〈「みかと」右傍〉仁徳
なり
▼ジヤ
《おほさゝきのみかと〈の抹消〉なにはつにてみこときこえけるとき東宮をたかひに\
▼《仁徳のみかと、なにはつデ、親王と申上マシタとき、東宮を○御兄トたかひに\
 ゆつりてくらゐにつきたまはて三とせになりにけれは王仁といふ人の》
 ▼ゆつ゛ツて、くらゐにつきたまはズニ、三とせになツテシマイマシタニヨツテ、王仁といふ人ガ、》
《いふかりおもひてよみてたてまつりけるうたなり\
▼《フシギニおもツて、よンデサシアゲマシタうたジヤ、\
 ∥訳「ジヤ」の濁点は「シ」にでなく「ヤ」にある。
 このはなはむめのはなをいふなるへし》
 ▼このはなは、むめのはなをいふノデアリソウナ》
あさか山のこと葉はう
▼あさか山のこと葉は、う ∥訳注文,墨筆はなし。
ねめのたはふれよりよみて
▼ねめのテンゴウカラよンデ、
《かつらきのおほきみをみちのおくへつか
▼《かつらきのおほきみを、みちのおくへつか ∥訳注文,墨筆はなし。
 はしたりけるにくにのつかさことおろそか》
 ▼はサレマシタ○トキニ、くにのつかさ○ヲ、ソ略》
 ∥訳「ソ略」の「ソ」は,「麁」歟を抹消した右傍。
《なりとてまうけなとしたりけれとすさましかりけれはうねめなりける女のかはらけ\
▼《ナト思フテ、ゴチソウなとイタシタケレド、ニツトリトセナンダニヨツテ、うねめデアツタ女ガ、サカヅキヲ\
 ∥訳「セナンダニ」の「ダ」は,「マ」歟に重ね書き。
 とりてよめるなりこれにそおほきみのこゝろとけにける》
 ▼とツてよミマシタノジヤ、これデナニカシラズおほきみのキゲンガナヲツテシマヒマシタ》
 ∥訳「ナニカシラズ」の「ラ」は,1字を抹消した右傍。
この
▼この ∥訳注文なし。
ふたうたはうたのちゝはゝのやうにてそてならふ人の
▼二首は、うたのちゝはゝのやうデナニカシラズ、てならヒスル人ガ○手本ノ
はしめにもしけるそもゝヽうたのさまむつなりからの
▼コグチにナドモイタシマスル、そもゝヽうたの体○ガむつジヤ、詩
うたにもかくそあるへきそのむくさのひとつにはそへ
▼デもカウナニカシラズあリソウナ、その六種ノ中ノひとつには、そへ
うたおほさゝきのみかとをそへたてまつれるうた
▼うた、○コレハ仁徳のみかとをヨソヘたてまつツタうた
 ∥訳「コレハ」は本文左傍。
1.03.1
  なにはつにさくやこのはなふゆこもり
  ▼なにはつに さくコトヤノこのはな○ガ ふゆこもり○シテヰタカ
  いまははるへとさくやこの花といへるなるへし
  ▼いまははるへトイフテ さくコトヤノこの花○ガ」とイフタ哥ノ心デアリソウナ
 ∥」は朱筆。以下同。
ふたつにはかそへうた
▼ふたつには、かそへうた ∥訳注文,墨筆なし。
  さくはなにおもひつくみのあちきなさ
  ▼さくはなに おもひつくカラタガ 不所存ナコトワイ
  ▲〈2句「つくみ」左傍〉鶇ノカクシ題ニテ即ソレニヨセタルナリ
  身にいたつきのいるもしらすてといへるなるへし
  ▼身にツガレガ いるノモしらズニ」とイウタ哥デアリソウナ
  ▲〈4句「いたつき」左傍〉矢ノイタツキニヨス
 《これはたゝことにいひてものにたとへなともせぬものなりこのうたいかにいへるにか\
 ▼《これは、ズラゝヽトいフて、ものにたとへなともせぬものシヤ、このうた、ドノヤウニいフタノデ〈か●〉\
  あらん〈その見消〉心えかたしいつゝにたゝことうたといへるなんこれにはかなふへき》
  ▼あらウゾ、ガテンガイカヌ、いつゝに、たゝことうたといフタノガナ、これにはかなヒソウナ》
みつにはなすらへうた
▼みつには、なすらへうた ∥訳注文,墨筆なし。
  きみにけさあしたの霜のおきていなは
  ▼きみにけさ 〈あしたの霜ノヤウニ◎6〉 おきてインデシマウタラバ
  ▲〈2句「あし」左傍。3句「おきて」左傍にあるべきか〉ヨセナリ
 ∥2句訳注,圏点6個原状。歌「霜の」の「の」に圏点あり,その「の」と圏点との間に「ノヤウニ」と記す。
  こひしきことにきえやわたらんといへるなるへし
  ▼こひしイタビに キエイルヤウニ〈や●〉クラスデアロウカ」といへるなるへし
 《これはものにもなすらへてそれかやうになんあるとやうにいふなりこのうたよくか\
 ▼《これは、ものにもタトヘヨセ〈て゛〉ズニ、ソ〈カ゛〉ノヤウスヲアリテイニいふノシヤ、このうたよフか\
  なへりともみえす たらちめのおやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあは》
  ▼なフテ有ともみえヌ、 〈たらちめの◎5〉おやのかふカイコのまゆニこもツテヰル○ヨウニインクツニサテモあるコトカナいもにあは》
  ▲〈「たらちめの」の「め」左傍〉メトイヘルハアヤマリ也ねナリ
 《すてかやうなるや\
 ▼《ずにゐて、コノヤウナノガ〈や●〉\
  これはかなふへからん》
  ▼コノナズラヘ歌ニハかなヒソウニアロウカ》
 ∥訳「ヒソウニアロウカ」本文左傍。
よつにはたとへうた
▼よつには、たとへうた ∥訳注文,墨筆なし。
1.03.2
  わかこひはよむともつきしありそうみの
  ▼わかこひは よむとイウテモ ミナニハナル〈し゛〉マイ ○タトイありそうみの
  はまのまさこはよみつくすともといへる
  ▼はまのスナゴは よみつくすトイフテモ」といへる
なるへし
▼なるへし ∥訳注文なし。
 《これはよろつの草木鳥けたものにつけて心をみするなり\
 ▼《これは、スベテノ草木○ヤ鳥けた゛ものにつけて、心をみセるノジヤ、\
  このうたはかくれたる所なんなきされとはしめのそへうたとおなし》
  ▼このうたは、余情ガナアナキ、ソウジヤケレド、サイシヨのそへうたとおなし》
 《やうなれはすこしさまをかへたるなるへしすまのあまのしほやくけふり風をいたみ\
 ▼《やうナニヨツテ、すこしヤウスをかへタノデアリソウナ、 〈すまのあまの しほやくけふり 風ガキツサニ\
 ▲〈「いたみ」左傍〉序哥也
 ∥すまのあまの歌1・2・3句右傍に圏点○あり,各句6個・7個・5個(「風」に1個)。3句訳文は圏点の右。
  おもはぬかたに たなひきにけり このうたなとやかなふへからん》
  ▼おもはぬ方へ たなひイテシマウタコトジヤ、 このうたなとガ〈や●〉かなヒソウニアロウカ》
いつゝにはたゝことうた
▼いつゝには、たゝことうた ∥訳注文,墨筆なし。
  いつはりのなき世なりせはいかはかり
  ▼ウソトイフモノガ なイ世デアロウナラバ ドレホド
  人のことのはうれしからましといへるなるへし
  ▼人のことのは○ガ うれしウアロウゾ」といへるなるへし
 《これはことのとゝのほりたゝしきをいふなりこのうたの心さらにかなはすとめ\
 ▼《これは、ことガ満足デユカミノナヒノをいふノジヤ、このうたの心、トントかなはヌ、モトメ\
 ∥本文「とゝのほり」の「ほ」は,「を」とあったのを見せ消ち,左傍に「ほ」。
  うたとやいふへからん 山さくらあくまて色をみつる哉花ちるへくも風ふかぬよに》
  ▼うたと〈や●〉いヒソウニアロウカ、 山さくら フソクノナヒ色を みタコトカナ 花○ガちリソウニナトモ 風○ノふかぬよに》
むつにはいはひうた
▼むつには、いはひうた
  このとのはむへもとみけりさきくさの
  ▼この御殿は ドウリデサテモゴハンシヤウナコトジヤ 〈さきくさノヤウニ◎5〉
  みつはよつはにとのつくりせりといへるなるへし
  ▼三ムネヅクリ四棟ヅクリニ ゴフシンガシテアル」といフタ哥ノ心デアリソウナ
1.04.1
 《これは世をほめて神につくるなりこのうたいはひうたとはみえすなんある\
 ▼《これは、世をほめて神ヘ申上ルノジヤ、このうた、いはひうたとはみえすナアゴサリマス、\
 ∥本文「いはひうた」の「い」,もと「い」歟であった上に「い」を重ね書き,さらに右傍に「い」。
  かすか野にわかなつみつゝよろつ代をいはふこゝろは神そしるらんこれらやすこし》
  ▼かすか野デわかな○ヲつンデソレナリニよろつ代をいはふこゝろは神ガナニカシラズしるデアロウ、これら○ガ〈や●〉チツト》
 ∥本文「かすか野に」の「に」,もと「の」であつたのを見せ消ち,左傍に「に」,本文右傍に「デ」。
 《かなふへからんおほよそむくさにわかれん\
 ▼《かなヒソウニアロウカ、ソウタヒ六種にわかれウ\
  ことはえあるましきことになん》
  ▼ことは、ドウモあるまし゛イことデナア○ゴザリマス》
いまの世中いろにつき
▼いまの世中○ノ人ガミナ、いろにつき、
 ∥訳「ノ人ガミナ」本文左傍。
ひとのこゝろ花になりにけるよりあたなるうたはかな
▼ひとのこゝろ○ガ花ノヤウニなツテシマイマシタカラ、根ヘイラヌうた○ヤトラマヘドコロモナイ
きことのみいてくれはいろこのみのいへにむもれ
▼言バツカリ出来ルニヨツテ、好色人のいへヘ○哥ガうもれ
 ∥本文「うもれ」の「う」は,「む」を見せ消ちにした右傍。
木の人しれぬことゝなりてまめなるところにははな
▼木ノヤウニナイゝヽナことニなりて、ジツメナところデは、〈はな◎2
すゝきほにいたすへきことにもあらすなりにたり
▼すゝき◎3〉ほに出シソウナことデもナウなツテシマウタ、○サリナガラ
そのはしめをおもへはかゝるへくなんあらぬいにしへの
▼そのサイシヨをおもフテミルト、カウアリソウナコトデハナアナイ、いにしへの
世々のみかと春の花のあした秋の月の夜ことに
▼御代ニみかと、春の花のあした○ヤ秋の月の夜ことに、
さふらふ人ゝヽをめしてことにつけつゝうたをたて
▼伺候ノメンゝヽをめして、ナンノカノトイウテうたをサシ
まつらしめたまふあるは花をこふとてたよりなきと
▼アゲサセラレマシタ、或は花をミタガルトイフテ、ヨリ所モナイと
 ∥本文「こふ」の「こ」は,「こ」の上に「そ」を重ねて書き,さらに右傍に「こ」と書く。
ころにまとひあるは月をおもふとてしるへなきやみ
▼ころにウロツキ、或は月をおもふと○イフて、アンナイシヤモナイやみ
1.04.2
にたとれるこゝろゝヽを見給ひてさかしをろかなり
▼にトボツイタこゝろゝヽをゴランアソバサレテ、コノ者ハカシコイ○コノ者ハをろかナ
 ∥「コノ者ハ」双方とも本文左傍,前のほうには挿入記号がない。
としろしめしけんしかあるのみにあらすさゝれ
▼とシラセラレタデアロウ、ソウあるバツカリデナイ、小サイ
いしにたとへつくは山にかけてきみをねかひ
▼いしにたとへ、つくは山にイヒカケテきみ○ノゴブシをねかひ、
よろこひ身にすきたのしみ心にあまりふしの
▼よろこひ○ガ身にすき、たのしみ○ガ心にあまり、ふしの
 ∥「たのしみ」の「み」は,「ひ」の上に「み」を重ねて書き,さらに右傍に「み」と書く。
けふりによそへて人をこひ松むしのねにともをし
▼けふりにヨセて、人をこひ、松むしのねにともをし
のひたかさこすみの江の松もあひをひのやう
▼のひ、たかさこ○ヤすみの江の松ト云トモ、同年のやう
におほえおとこ山のむかしを思ひいてゝをみなへし
▼にオモハレ、おとこ山のむかしを思ひダシゝをみなへし
のひとときをくねるにもうたをいひてそなく
▼ノヤウニひとときをグツツクにも、うたをいフてナニカシラズ気ヲ
さめけるまた春のあしたに花のちるを見秋の
▼ハラシタコトジヤ、また春のあしたに花のちるを見、秋の
ゆふくれに木のはのおつるをきゝあるはとしことに
▼ゆふくれに木のはのおチる○ノをきゝ、あるは、としことに
かゝみのかけにみゆるゆきとなみとをなけき草の
▼かゝみのかけにみエる白髪と皺とをなけき、草の
1.05.1
つゆみつのあはをみてわか身をおとろきあるはき
▼つゆ○ヤみつのあはをみて、わか身をヒツクリシ、あるは、き
のふはさかへをこりて時をうしなひ世にわひしたしか
▼のふはさかへをこ゛りて、時をうしなひレイラクシ、中ノヨカツタ
りしもうとくなりあるは松山の浪をかけ野中の
▼人モソヱンニなり、あるは、松山の浪をイヒカケ、野中の
みつをくみ秋はきのしたはをなかめあかつきの
▼みつをくみ、秋はきのしたはをなかめ、あかつきの
しきのはねかきをかそへあるはくれ竹のうきふしを
▼しき゛のはねかき○ノカズをかそへ、あるは、〈くれ竹の◎4〉うきふしを
人にいひよし野河をひきて世中をうらみきつ
▼人にいひ、よし野河をひきて世中をうらンデキタト
るにいまはふしの山もかふりたゝすなりなからの
▼コロガ、イマデハふしの山ト云トモかふり○ガたゝヌヨウニなり、なからの
はしもつくるなりときく人は哥にのみそこゝろを
▼はしト云トモ○アラタニつくるワイときく人は、哥デバツカリナニカシラズキヲ
なくさめけるいにしへよりかくつたはるうちにもならの
▼ハラサレタコトジヤ、マヘカラコノヨウニつたはるうちにも、ならの
御時よりそひろまりにける
▼御時○代カラナニカシラズひろまルヤウニナリタコトジヤ、△
 ∥「△」朱筆。この「△」は面右端の次が対応する。本文原状は下に続きがあって一行となる。
◆△かのおほん世や哥の心をしろしめしたりけん、
▼かの御世ハ〈や●〉哥のドウリをゴゾンジアソバシテゴザタデアロウカ、
 ∥脱落本文を面右端に朱筆で書く。行頭△も末尾読点も朱筆。訳は墨筆,「ゴザタデ」原状。
かのおほん時におほき
▼かの御〈代抹消〉時に、正
▲〈「おほき」左傍〉此位ノコト何ニモヨリ所ナキコト也
 ∥原状,脱落本文の前に続いて一行となる。
みつのくらゐかきのもとの人まろなん哥のひしりなり
▼三位かきのもとの人まろガナア、哥のメイジンデアツタ
1.05.2
けるこれはきみもひとも身をあはせたりといふなる
▼コトジヤ、これはきみも臣もガツタイシタといふノテアリ
へし秋のゆふへたつた河になかるゝもみちをは
▼ソウナ、秋のゆふへ゛、たつた河になかレルもみちをは、
みかとのおほんめににしきと見給ひ春のあした
▼みかとの御めテ、にしきとゴランアソバシ、春のあした、
よしのゝ山のさくらは人まろか心には雲かとのみ
▼よしのゝ山のさくらは、人まろか゛心デは雲かとバツカリ
▲〈「ゝ山」左傍〉のトモ
なんおほえける又山のへのあか人といふ人あり
▼ナアヲモハレタコトジヤ、又山のへのあか人といふ人ガアツタ〈コト抹消〉
けり哥にあやしくたへなりけりひとまろは赤人か
▼コトシヤ、〈○ソコデ抹消〉哥にフシギニ妙ヲヱテ〈ラレタ抹消〉ヰラレタコトジヤ、○ソコデひとまろは赤人か゛
 ∥「○ソコデ抹消」「○ソコデ」は本文右傍。
かみにたゝんことかたくあか人は人まろかしもに
▼上ヘたゝウこと○ガナリニクヽ、あか人は人まろか下ヘ
たゝんことかたくなんありける
▼たゝウこと○ガナリニクウナアアツタコトジヤ、
《ならのみかとの御うたたつた川\
▼《ならのみかとの御うた、たつた川\
 もみち乱てなかるめりわたらは》
 ▼もみち○ガ乱て なかレルヲモムキジヤ わたツタラバ》
《にしき中やたえなん人丸むめの花それともみえすひさかたのあまきる雪のなへて\
▼《にしき○ノ 中ガ〈や●〉キレテシマハウカ、人丸、むめの花 それとナドモみえヌゾ 〈ひさかたの◎5〉 天モミヱヌヨウニフル雪ガ イチメンニ\
 ふれゝはほのゝヽとあかしのうらの朝きりにしまかくれ行ふねをしそ思ふ赤人春の野に》
 ▼ふツテアルニヨツテ、ホンノリト あかしのうらの 朝きりに しまか゛くれ行 ふねをソウナニカシラズ思ふ、赤人 春の野ヘ》
《すみれつみにとこし我そ野をなつかしみ一夜ねにけるわかの浦に\
▼《すみれ○ヲつみにと○思テ 〈2字に重ね書き〉キタ我ガナニカシラズ 野ガなつかしサニ〈朱筆「、」を墨筆で抹消〉 一夜ねテシマウタコトジヤ、わかの浦ヘ\
 しほみちくれはかたをなみあしへをさしてたつなきわたる》
 ▼しほ○ガみちテクルト 干潟ガなサニ あしノアル方ヲさイて たつ○ガなイテわたる》
この人ゝヽを
 ∥訳注文なし。
をきて又すくれたるくれ竹の世々にきこえかた
▼ノケテ、又バツクンナ、〈くれ竹の◎4〉世々にきこえ、〈かた◎2〉
 ∥本文「すくれたる」直後「人も」欠落,原状。
1.06.1
いとのよりゝヽにたえすそありけるこれよりさきの
▼〈いとの◎3〉ソノトキトキニナニカシラズアツタコトジヤ、これよりさきの
哥をあつめてなん万えふしふとなつけられたり
▼哥をあつめてナア、万えふしふとなつけられタ
けるこゝにいにしへのことをも哥のこゝろをもしれる
▼コトジヤ、こゝに、いにしへのことをも哥のこゝろをもしツテヰル
人わつかにひとりふたりなりきしかあれとこれかれ
▼人、わつかにひとりふたりゴザリマシタ、ソウハアツタレド、アレコレ
えたるところえぬ所たかひになんあるかの御時より
▼ヱテナ〈1字抹消歟〉ところ○ヤフヱテナ所○ガたかひにナアゴザル、かの御時代カラ
このかたとしはもゝとせあまり世はとつきになん
▼このかた、としは百年あまり、御代ハ十代にナア
なりにけるいにしへのことをもうたをもしれる人
▼なツテシマイマシタコトジヤ、○今ハいにしへのことをもうたをもしツテヰル人○モ
 ∥「今ハ」は,本文中の前後「るい」の左傍。
よむ人おほからすいまこのことをいふにつかさくら
▼よむ人○モスクナヒ、いまこの評ヲツケルノニ、官位
ゐたかき人をはたやすきやうなれはいれすその
▼ノたかイ人をは、カルウアシラやうニアルニヨツテ○中ヘハいれす、その○高位ナ人ノ
 ∥訳「アシラ」は「フ」欠落歟,原状。
ほかにちかき世にその名きこえたる人はすな
▼ほかに、ちかき世にその名○ノ高ウきこえテアル人は、すな
はち僧正遍昭は哥のさまはえたれともまことすくなし
▼はち僧正遍昭は、哥の体は手ニ入ツテアルケレドモ、実ガすくなイ、
1.06.2
たとへはゑにかけるをうなをみていたつらに心を
▼たとへテイハウナラバ、ゑにかイテアル女をみて、ムサゝヽト心を
うこかすかことし
▼うこかすヤウナ、
 ∥「ヤ」は1字に「ヤ」を重ねて書き,さらに右傍に「ヤ」と記す。
《あさみとりいとよりかけてしら露を玉にもぬける春の\
▼《あさみとり○ニ いと○ヲよりかけて しら露を 玉ノヨウニサテモトヲシテヰル 春の\
 柳かはちすはのにこりにしまぬ心もてなにかは露を》
 ▼柳カナ、はちすはガ にこ゛りにしまぬ 心ヲモツテ ナニシニ〈かは●●〉露を》
《玉とあさむく さかのにてむまよりおちてよめる 名にめてゝ\
▼《玉とダマスゾイ、さかのデむまカラおちてよミマシタ、名にヒカサレテ\
 おれるはかりそをみなへしわれおちにきと人にかたるな》
 ▼おツタはかりジヤゾ をみなへし○ヨ われおちテシマウタコトデゴザルト 人にハナシスルナ》
ありはらのなり
▼ありはらのなり
 ∥訳注文なし。
ひらはそのこゝろあまりてことはたらすしほめる花の
▼ひらは、そのこゝろ○ガあまツてことは○ガたらヌ、しほンデアル花ガ
いろなくてにほひのこれるかことし
▼いろ○ハなウてにほひ○ハのこツテアヤウナ
《月やあらぬ春やむかしの\
▼《月○ガ〈や●〉ソウデナイカ 春○ガ〈や●〉むかしの\
 はるならぬわか身ひとつは》
 ▼はるデナイカ わか身ひとつは》
《もとの身にしておほかたは月をもめてしこれそこのつもれは人のおいとなる物ねぬる\
▼《もとの身デアツテ、ゼンタイは 月をナドモ愛スマイゾ これ○ガナニカシラズこの つもルト人の おいとなる物○ジヤ ねテシマウタ\
 夜のゆめをはかなみまとろめはいやはかなにもなりまさるかな》
 ▼夜の ゆめガはかなサニ まとろンデミレバ イヨゝヽはかなウにサテモ なりまさるコトカナ》
ふんやのやすひてはこと葉はたくみにてその
▼ふんやのやすひては、こと葉は功者デ、その
さま身におはすいはゝあき人のよききぬきたら
▼ヨウスガ身にフソウオウス、イフテミレバあきンドのよイキモノ○ヲきテヰル
 ∥訳「フソウオウス」の「ス」,定稿「ナ」
むかことし
▼ソノヤウナ
《吹からにのへの草木のしほるれはむへ山かせをあらしといふらん\
▼《吹トイフトハヤ のへの草木ガ しほレルニヨツテ ドウリテ山かせを あらイといふノデアロウ、\
 深草のみかとの御国忌に草ふかきかすみの谷にかけかくしてる日の》
 ▼深草のみかとの御国忌に、草ふかイかすみの谷にかけ○ヲかくしてる日ガ》
《くれしけふにやは\
▼《くれタけふデハ〈やは●●〉\
 あらぬ》
 ▼ナイカヤ》
宇治山の僧きせんはこと葉かすかにして
▼宇治山の僧きせんは、こと葉○ガかすかデ、
はしめをはりたしかならすいはゝ秋の月をみるに
▼はしめをはり○ガシツカリトセヌ、イハウナラバ、秋の月をみるノニ、
 ∥訳「シツカリトセヌ」は本文左傍にあり,その「セ」は1字に「セ」を重ねて書き,さらにその右傍,本文左傍内でに「セ」と書く。
 ∥その本文「たしか」右傍で「タシカ」を抹消し,「ならす」右傍で「シツカリ」を抹消している。
1.07.1
あかつきの雲にあへるかことし
▼あかつきの雲にあフタルヤウナ、
《わかいほはみやこのたつみしかそすむ\
▼《わかいほは みやこのたつみ○デ ソノヨウニナニカシラズすむ○ガ\
 よをうち山と人はいふなり》
 ▼よをウイ山と 人はいふワイ》
 ▲〈3句「うち」左傍〉ヨセタリ
よめるうたおほくきこえねはかれこれをかよはしてよく
▼よンデアルうた○ガおほくキヽツタヘヌニヨツテ○アレヤコレをユヅウしてヨウハ
しらすをのゝこまちはいにしへのそとをりひめの流なり
▼しら〈す゛〉ヌ、をのゝこまちは、いにしへのそとをりひめのタグヒジヤ、
あはれなるやうにてつよからすいはゝよきをうなのなや
▼あはれナやうデつよウナイ、イハウナラバ、よイ女ガなや
めるところあるににたりつよからぬはをうなのうたなれ
▼ンデヰルところ○ノある○ノににテアル、つよウナヒノは女のうたジヤニ
はなるへし
▼ヨツテデアルソウナ、
《思ひつゝぬれはや人のみえつらん夢としりせはさめさらましを\
▼《思フテソレナリニ ネルニヨツテ〈や●〉人ガ みえタノデアロカ 夢としツタナラバ さめズニヰヨウノニ、\
 ∥訳「ネルニ」の「ネ」,1字を抹消してその右傍に書く。
 色みえてうつろふものは世中の人の心の花にそありける》
 ▼色○ガみえズニ うつろふものは 世中の 人の心の 花デナニカシラズあルコトジヤ、》
《わひぬれは身をうき草のねをたえてさそふ水あらはいなんとそ思ふそとほりひめの\
▼《コマツテシマウタニヨツテ 身をうき草ノヤウニ ねをキツテ さそふ水○ガアルナラバ イテシマハウトナニカシラズ思ふ、そとほりひめの\
 うたわかせこかくへきよひなりさゝかにのくものふるまひかねてしるしも》
 ▼うた、わかせこか゛ ゴザリソウナよひジヤ 〈さゝかにの◎5〉 くものタチフルマイ〈ガ抹消〉○デ マヘモツテヨウシレルゾサテモ》
大伴のくろぬしはそのさまいやしいはゝたき木
▼大伴のくろぬしは、そのさまいやし○イイハウナラバ、たき木゛○ヲ
おへる山人の花のかけにやすめるかことし
▼オフテヰル山人ガ、花のかけデやすンデヰルヤウナ
《思ひいてゝこひしき\
▼《思ひダシゝ こひしイ\
 時ははつかりの鳴て》
▼ 時は はつかりノヨウニ ナイて○月日ヲ》
《わたると人はしらすや かゝみ山いさ立よりてみてゆかん\
▼《わたると 人はしらヌカ、かゝみ山ヘ〈1字に重ね書き〉 ドリヤ立よツて みてゆかウ\
 としへぬる身はおいやしぬると》
▼ としへテシマウ〈1字歟抹消〉タ身はおい〈や●〉テシマウタカト》
このほかのひとゝヽ
▼このほかのひとゝヽ、
 ∥訳注文なし。
その名きこゆる野へにかつらのはひひろこりは
▼その名○ノ世ニきこエる○ノハ野へに○《ハヱル\おふる》かつらノヤウニはひひろガり、は
 ∥訳「《ハヱル\おふる》」は,本文右傍に「おふる」を補入し,そのさらに右傍に訳を記したもの。
1.07.2
やしにしけきこのはのことくにおほかれとうたとのみ
▼やしにしけきこのはのことくにおほイケレド、うた○ジヤとバツカリ
おもひてそのさましらぬなるへしかゝるにいますへ
▼おもフて、そのヤフスしらぬノデアリソウナ、カウアルトコロガ、いまウヱ
らきのあめのしたしろしめすことよつのときこゝの
▼サマのあめのした○ヲオサメサセラルヽこと、四の季○ヲ九
かへりになんなりぬるあまねきおほんうつくしみの
▼ヘンにナアなツテシマウタ、ノコルトコロノナイ御慈悲の
なみやしまのほかまてなかれひろきおほんめく
▼なみ○ガ日本のほかまてなかれ、ひろイ御めく
みのかけつくは山のふもとよりもしけくおはしまして
▼みのヲカゲ○ガつくは山のふもとよりもしけくゴザアソバシテ、
よろつのまつりことをきこしめすいとまもろゝヽの
▼よろつのゴセイトウをキカセラルヽ、御手スキニ、スベテの
ことをすてたまはぬあまりにいにしへのことをもわ
▼ことをすてサセラレヌあまりに、いにしへのことをもわ
すれしふりにしことをもおこし給ふとていまも
▼すれマイ、ふりテシマウタことをもヒキヲコシ給ふと○イフて、いまも
みそなはしのちの世にもつたはれとて延喜五年
▼ゴランアソハシ、のちの世ヘもつたはれと○思召て、延喜五年
四月十八日に大内記きのとものり御書の所の
▼四月十八日に、大内記きのとものり、御書の所の ∥訳注文なし。
1.08.1
あつかりきのつらゆきさきのかひのさう官おふし
▼あつ゛かりきのつらゆき、さきのかひのさう官おふし
かうちのみつね右衛門の府生みふのたゝみねらに
▼かうちのみつね、右衛門の府生みふのたゝみねナドに
おほせられて万えうしうにいらぬふるきうたみつ
▼おほせツケラレテ、万えうしうにいらぬふるきうた、ジ
からのをもたてまつらしめ給ひてなんそれかなかにも
▼シンの○哥をもサシアケサセラレテナア、その哥ドモノナカデモ、
 ∥本文行末「も」は,他の行末に比べて飛び出し,墨の濃淡によっても,訳注時に補入したと見える。
むめをかさすよりはしめてほとゝきすをきゝもみ
▼むめをかさすカラはしめて、ほとゝきすをきゝ、もみ
ちをおりゆきをみるにいたるまて又つるかめに
▼ちをおり、ゆきをみるにいたるまて、又つるかめに
つけてきみをおもひ人をもいはひ秋はきなつ
▼つけてきみをおもひ、人をもいはひ、秋はきなつ
くさをみてつまをこひあふさか山にいたりてた
▼くさをみてつまをこひ、あふさか山にいたりてた
むけをいのりあるは春夏秋冬にもいらぬくさゝヽの
▼むけをいのり、あるは、春夏秋冬にもいらぬシユジユの
うたをなんえらはせたまひけるすへて千うたはた
▼うたをナア、えらはせラレタコトジヤ、ツガウデ千首廿
まきなつけてこきんわかしふといふかくこの
▼巻、なつけてこきんわかしふといふ、カウこの
1.08.2
たひあつめえらはれて山したみつのたえすはまの
▼たひあつめえらはれて、山したみつノヨウニたえす、はまの
まさこのかすおほくのみつもりぬれはいまはあすか
▼まさこノヤウニかすおほくのみつもツテシマウタコトジヤニヨツテ、イマデハあすか
 ∥本文「おほくのみ」の「のみ」は衍であろう。訳も,原文に同じであるとするよりは,ないと見るのがよいかもしれない。
かはのせになるうらみもきこえすさゝれいしの
▼かはガせになる○ト云ヨウナうらみもきこえす、さゝれいしの
いはほとなるよろこひのみそあるへきそれまろら
▼いはほとなる○ヤウ〈ニ歟抹消〉ナよろこひバツカリナニカシラズアリソウナ、それワタクシドモ、
 ∥本文「まろら」の「ろ」,「く」に「ろ」を重ねて書き,さらに左傍に「ろ」を記す。
こと葉春の花にほひすくなくしてむなしき名
▼こと葉○ハ春の花○のツヤにほひすくなくして、ソウデモナヒ名
 ∥訳「○の」は,平仮名であると見え,訳注であるよりは本文校訂であろう。
のみ秋の夜のなかきをかこてれはかつは人のみゝに
▼バツカリ秋の夜の長ジテヰルト云評ガツヒテゴザリマスルニヨツテ、カタ手ニハ人のキク所ヘ
をそりかつはうたのこゝろにはちおもへとたなひく
▼をそレ、カタテニハうたのこゝろヘはち゛おもフケレド、たなひく
くものたちゐなくしかのおきふしはつらゆきらか
▼くものたちゐ、なくしかのおきふしは、つらゆきナドか゛、
この世におなしくむまれてこの事の時にあへるを
▼この世におなしくむまれて、この事の時にあフタノを
なんよろこひぬる人まろなくなりにたれとうたの
▼ナア、よろこひマスル、人まろなくなツテシマウテゴザリマスレドモ、うたの
こととゝまれるかなたとひ時うつりことさりたのしみ
▼こと○コノ御時代ニとゝマツテアルコトカナ、たとひ時○ガうつりこと○ガさり、たのしみ○ト
 ∥本文「とゝまれる」の「ま」字母「万」,左傍に「ま」字母「末」。
 ∥本文「たのしみ」の「み」,「ひ」であったのを見せ消ち,左傍に「み」。
1.09.1
かなしみゆきかふともこのうたのもしあるをや
▼かなしみ○トガゆきチガウトイフテモ、このうたの文字○ガあるヲイノ、
 ∥本文「かなしみ」の「み」,「ひ」であったのを見せ消ち,左傍に「み」。
あをやきのいとたえすまつのはのちりうせすして
▼あをやきのいとたえす゛、まつのはのちりうせすニアツテ、
まさきのかつらなかくつたはりとりのあとひさしく
▼まさきのかつらなかくつたはり、とりのあとひさしく
 ∥本文「まさきの」の「ま」字母「万」,左傍に「ま」字母「末」。
とゝまれらはうたのさまをもしりことの心をえたらん
▼とゝマツテアルナラバ、うたのヤウスをもしり、ことの心を手ニヰレテヰヨウ
人はおほそらの月をみるかことくにいにしへを
▼人は、おほそらの月をみるかことくに、いにしへを
あふきていまをこひさらめかも
▼ソン〈1字抹消〉ケウシテ、いまをこひズニヰヨフカヤサテモ
1.09.2
(空白)
1.10.1
(空白)


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