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富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第十

1.63.2
古今和歌集巻第十
 物名
10.0422
  うくひす      藤原としゆきの朝臣
心から花のしつくにそほちつゝうくひすとのみ鳥のなくらん
▼心から 花のしつくデ ジボゝヽトナツテソレナリニ シンキニ干〈す゛〉〈ス歟抹消〉ヌコトヤトシヾウ 鳥ガなくデアロウ
▲〈4句「ひ」左傍〉ホスト云フ干ノコト也
10.0423
  ほとゝきす
くへきほとときすきぬれや待侘てなくなる声の人をとよむる
▼キソウナホドラヒモ ときすきテシマウタニヨツテ〈や●〉 センドマツテ なくワイソノ声ガ 人をビリゝヽトサスノカ
10.0424
  うつせみ      在原しけはる
浪のうつせみれはたまそみたれけるひろはゝ袖にはかなからんや
▼浪のうつ せ○ヲ〈1字抹消〉みタ処ガたま○ガナニカシラズ みたれテヰルコトジヤ ○モシひろフタラバ 袖デはかなウアロウカ
▲〈5句「はかな」左傍〉消ルヲ云フ
10.0425
  返し        壬生忠岑
  ▼ヘン哥
たもとよりはなれてたまをつゝまめやこれなんそれとうつせみんかし
▼たもとより ホカニたまを つゝマウカヤ これ○ガナアそれ○ジヤと うつシヤレみ〈1字に重ね書き〉ヨウハサテ
10.0426
  うめ        よみ人しらす
1.64.1
あなうめにつねなるへくもみえぬかなこひしかるへきかはにほひつゝ
▼アヽシンキヤめに イツマデモチラズニアリソウニハサテモ みえぬコトカナ ○散テカラこひしウアリソウナ かはにほフテソレナリニ
▲〈1句「め」左傍〉目
10.0427
  かにはさくら    つらゆき 
  ▼かにはさ゛くら
かつけとも波のなかにはさくられて風ふくことにうきしつむ玉
▼スイリヲスルケレドモ 波のなかデハ 手ニトラレイ〈て゛〉デ ○ソレニ風○ノふくことに ウ〈タ歟に重ね書き〉イタリシヅンタリスル玉
10.0428
  すもゝの花
今いくかはるしなけれはうくひすも物はなかめて思ふへら也
▼マアイツカモ はる○ガソノヤフニなイニヨツテ うくひすナドモ 〈物は●●●〉ウツトリトシテ クヨゝヽト思フテアリソウニ思ハルヽ
10.0429
  からもゝの花    ふかやふ
あふからもものは猶こそかなしけれわかれんことをかねて思へは
▼あふト云トハヤカラモ 〈ものは●●●〉ヤツハリナニヨリモ ウソガナシイコトナレ わかれウことを マヘビロニ思フニヨツテ
▲〈2句「猶」左傍〉ゼンタイハウレシイハヅナレドヽ云ナリ
10.0430
  たちはな      をのゝしけかけ
あしひきの山たちはなれ行雲のやとりさためぬ世にこそ有けれ
▼〈あしひきの◎◎◎◎◎〉 山○ヲたちはなれ○テ 行雲ノヤフニ やとりさためぬ 世デナニヨリモ有ルコトナレ
10.0431 ∥3句訳「出」は訳文中のもの
  をかたまの木    とものり
みよしのゝよし野のたきにうかひ出るあはをかたまのきゆとみつらん
▼みよしのゝ よし野のたきに ウヰテ出ル あはを〈か●〉たまガ キユルノジヤトみタデアロウカ
1.64.2
10.0432
  やまかきの木    よみ人しらす
  ▼やまか゛きの木
秋はきぬ今やまかきのきりゝヽすよなゝヽなかん風のさむさに
▼秋はキテシマウタガ オヽツケ〈や●〉まか゛きの きりゝヽす○ガ マイバンなかウ 風ガさむイノテ
10.0433
  あふひかつら
かく計あふ日のまれになる人をいかゝつらしと思はさるへき
▼コレホド あふ日ガまれに なる人を トウ〈マア歟の右傍〉マアつらイコトジヤト 思はズニヰラレソウナコトゾ
10.0434
人めゆへのちにあふひのはるけくはわかつらきにや思なされん
▼人〈右傍2字削除歟〉めゆへ○ニ コノヽチにあふひガ ハルカナコトナラバ わか゛つらイノニ〈や●〉 思なされウカ
10.0435 ∥訳注なし
  くたに       僧正へんせう
ちりぬれはのちはあくたになる花を思ひしらすもまとふてふ哉
▼ちりぬれは のちはあくたに なる花を 思ひしらすも まとふてふ哉
10.0436
  さうひ       つらゆき
  ▼さうひ゛
我はけさうひにそみつる花の色をあたなる物といふへかりけり
▼我はけさ ハジメテナニカシラズみタソノ 花の色ジヤニ あた゛なる物○シヤと いヒソウニアルコトジヤ
10.0437
  をみなへし     とものり
しらつゆをたまにぬくとやさゝかにの花にもはにもいとをみなへし
▼しらつゆを たまノヤウニツナグト云テ〈や●〉 さゝかにガ 花ヘもはヘも いとをミンナノバシタノカ
1.65.1
10.0438 ∥訳注4句左傍「ヲ」原状
あさつゆをわけそほちつゝ花みんと今その山をみなへしりぬる
▼あさつゆを わけ○〈数字抹消〉ル袖ガジボツイテソレナリ〈1字に重ね書き〉ニ 花みヨウと○思テ 今ナニカシラズの山を ミンナトヲツテ知ツテシマウタ
▲〈4句「の山」左傍〉野ヤ山ヲ〈云フ抹消〉也
10.0439
  朱雀院のをみなへしあはせの時にをみなへしといふ
  いつもしをくのかしらにをきてよめる
  ▼いつもしをくのウヘ〈゛抹消〉にをイてよめる
            つらゆき
をくら山みねたちならしなくしかのへにけん秋をしる人そなき
▼をくら山○ノ みね○ニたちナレテ なくしかガ へテシマウタデアロウ秋を しる人○ガナニカシラズなイ
10.0440
  きちかうのはな   とものり
あきちかうのはなりにけりしら露のをける草葉も色かはり行
▼あきちかう のはなツテシマウタコトジヤ しら露ガ オイテヰル草葉ナドモ 色○ガかはツテ行
10.0441
  しをに       よみ人しらす
ふりはへていさふるさとの花みんとこしを匂ひそうつろひにける
▼ワザゝヽト ドリヤふるさとの 花○ヲみヨウト思テ 来タノニ匂ひ○ガナニカシラズ うつろフテシマウタコトジヤ
10.0442
  りうたんのはな   とものり
わかやとの花ふみしたくとりうたんのはなけれはやこゝにしもくる
▼わかやとの 花○ヲふみ〈2字に重ね書き〉チヤチヤクル とり○ヲうたウ のはなイニヨツテ〈や●〉 こゝヘカギツテくる○カイ
▲〈4句「や」左傍〉ヤハノヤ也野ノナヒデハナキニト云フコヽロナリ
1.65.2
10.0443
  おはな       読人しらす
ありとみてたのむそかたきうつせみのよをはなしとや思なしてん
▼あルゾとみて タシカニ思フノハナニカシラズムツカシイ 〈うつせみの◎◎◎◎◎〉 よをは゛○一向なイモノイシヤト〈や●〉 思ヒなしテシマ〈数字抹消〉ハウカ
10.0444
  けにこし      やたへの名実 《矢田部》
うちつけにこしとや花の色をみんをくしら露のそむるはかりを
▼イキガケニ コイと〈や●〉花の 色をみヨウカイ をくしら露ガ そメるはかりシヤニ
▲〈2句「こし」左傍〉濃キ也 〈2句「や」左傍〉ヤハノヤナリ
10.0445
  二条の后春宮のみやすん所と申ける時にめとに
  ▼二条の后○ガ春宮の○御母ノみやすん所と○世デ申マシタ時にめと゛ヘ
  けつりはなさせりけるをよませ給ひける
  ▼ツクリ〈つ゛〉バナヲハサンデゴザリマスノヲよまサセラレマシタ
            文屋やすひて
花の木にあらさらめともさきにけりふりにしこのみなる時もかな
▼花の木デ ナイテアロウナレドモ さきテシマウタコトジヤ フルウナツテシマウタこのみ○ノ 出世スル時ナドモアツタラヨカロウ
▲〈4句「このみ」左傍〉此身ニ木実ヲヨセタル也
10.0446
  しのふくさ     きのとしさた
山たかみつねにあらしのふくさとは匂ひもあへす花そ散ける
▼山○ガたかサニ フダンあらしガ ふくさとは 匂フテヰルマモナウ 花ガナニカシラズ散ルコトジヤ
10.0447
  やまし       平あつゆき
1.66.1
ほとゝきす嶺の雲にやましりにしありとはきけと見るよしのなき
▼ほとゝきす○ハ 嶺の雲に〈や●〉 ハイツテシマウタカ あルゾとはきクケレドモ 見るシヤウナドモなイノハ
10.0448
  からはき      よみ人しらす
うつ蝉のからは木ことにとゝむれとたまのゆくゑをみぬそ悲しき
▼うつ蝉の ヌケカラは木ト云木ニ とゝメルケレドモ 魂のユキガタを みぬ○ガナニカシラズ悲しイ
10.0449
  かはなくさ     ふかやふ
うはたまの夢になにかはなくさまんうつゝにたにもあかぬ心を
▼〈うはたまの◎◎◎◎◎〉 夢デナニシニ〈かは●●〉 気ガハレウゾイ うつゝデサヘモ タンノウセヌ心ジヤノニ
10.0450 ∥4句訳原状
  さかりこけ     たかむこのとしはる 《高向》
花の色はたゝ一さかりこけれともかへすゝヽそつゆはそめける
▼花の色は タツタ一さかり コイけれとも ナンベンゝヽモ つゆはそめルコトジヤ
10.0451
  にかたけ      しけはる
いのちとてつゆをたのむにかたけれは物わひしらになくのへのむし
▼いのちジヤト思フテ つゆをタノミニ思フガ ムツカシイニヨツテ ウソわひしソウニ なく○ハのへのむし○ガ
10.0452
  かはたけ      かけのりのおほきみ
さ夜ふけてなかはたけ行久かたの月ふきかへせ秋の山かせ
▼さ夜ふけて ハンブンハたけ行 〈久かたの◎◎◎◎◎〉 月○ヲふきモドセ 秋の山かせ○ヨ
1.66.2
10.0453
  わらひ       真せい法し
煙たちもゆともみえぬ草のはをたれかわらひとなつけそめけん
▼煙○ガたツテ もヱルトナドモみえぬ 草のはジヤニ たれ○ガ〈か●〉わらひと なつけハジメタデアロウゾ
▲〈4句「わらひ」左傍〉藁火ニヨセタルナリ
10.0454
  さゝ まつ ひは はせをは
  ▼さゝ○ト まつ○ト ひ゛は○ト はせをは゛○ト
            きのめのと
いさゝめに時まつまにそ日はへぬる心はせをは人にみえつゝ
▼トウブンノコトニ 時○ヲまつまに何カシラズ 日はへテシマウ 心は゛せをは 人にみラレテソレナリニ
10.0455
  なし なつめ くるみ
  ▼なし○ト なつめ○ト くるみ○ト
            兵衛《たゝふさかもとに侍ける\大江たゝつねかむすめ》
あちきなしなけきなつめそうきことにあひくる身をは捨ぬものから
▼不了簡ナコトジヤ なけき〈な●〉つめルコトハヲケ うイことに アフテ〈1字抹消〉キテイル身をは 捨ぬモノヽクセニ
▲〈5句「もの」左傍,数字抹消〉
10.0456
  からことゝいふ所にて春のたちける日よめる
  ▼からことゝいふ所デ春のたちける日よめる
            安陪清行朝臣
浪のをとのけさからことに聞ゆるは春のしらへやあらたまるらん
▼浪のをとガ けさからベツニ 聞ヱルハ 春のしらへ○ハ〈や●〉 あらたまるデアロウカ
1.67.1
10.0457
  いかゝさき     かねみのおほきみ
  ▼いかゝ゛さき
かちにあたる浪のしつくを春なれはいかゝさき散花とみさらん
▼かち゛にあたる 浪のしつくを 春ジヤニヨ〈1字に重ね書き〉ツテ ドウマア〈ゝ゛〉散 花とみズニヰラレウゾ
10.0458
  からさき      あほのつねみ 《阿保経覧》
かのかたにいつからさきにわたりけん波ちは跡も残らさりけり
▼ムカフノ方ヘ いつからさきヘ わたツタデアロウゾ 波ちは跡も 残らズニアルコトジヤ
10.0459
            伊勢
浪の花おきからさきて散くめり水の春とは風やなるらん
▼浪の花○ハ おき○ノ方からさイて○磯ノ方ヘ 散くルオモムキジヤ 水の春とイフノニ 風○ガ〈や●〉なるデアロウウカ
10.0460
  かみやかは     つらゆき
うはたまのわかくろかみやかはるらんかゝみのかけにふれる白雪
▼〈うはたまの◎◎◎◎◎〉 わかくろかみ○ガ〈や●〉 かはるデアロウカ かゝみのかけに ふツテアル白雪
10.0461
  よとかは
あしひきの山へにをれは白雲のいかにせよとかはるゝ時なき
▼〈あしひきの◎◎◎◎◎〉 山ノ方にヰルト 白雲ガ ドノヤウニいかにセイト云心〈数字抹消〉デ〈か●〉 はレル時○ガなイゾ
10.0462 ∥歌4句「ゆく」は「行〈見消〉」右傍にあって訳に紛れるが平仮名。5句訳注「かな」圏点は左傍。
  かたの       たゝみね
1.67.2
夏草のうへはしけれる沼水の〈行見消〉ゆくかたのなきわか心かな
▼夏草ガ うへ○ノ方ニはしけツテアル 沼水ノヤフニ ゆくかたのなイコトカナ わか心○ガ〈かな●●〉
10.0463 ∥作者注「忠」原状。
  かつらのみや    源ほとこす 《忠》
秋くれと月の桂のみやはなるひかりを花とちらすはかりを
▼秋○ハキタケレド 月の桂の 実ガ〈やは●●〉なる○カイ ひかりを花ト云フヤウニ ちらすはかりジヤニ
10.0464
  百和香       よみ人しらす
花ことにあかすちらしゝ風なれはいくそはくわかうしとかは思
▼花ト云花ヲ タンノウサセズニちらしタ 風ジヤニヨツテ ナン千何百程〈は゛〉わか シンキナと〈かは●●〉思○ゾイノ
10.0465
  すみなかし     しけはる
春霞なかしかよひちなかりせは秋くるかりはかへらさらまし
▼春霞○ノ 中ニソノヤウニかよひち○ガ なイニシテミタラバ 秋くるかりは イナズニヰヨウ
10.0466
  をき火       みやこのよしか 《都良香》
流いつるかたたにみえぬ涙川おきひん時やそこもしられん
▼流○テ出る 方デサヘみえぬ 涙川 おき○ノ干〈ヒ〉ヨウ時ハ〈や●〉 そこもしレウカ
◆〈5句「も」を朱筆で抹消して左傍,朱筆〉も 〈「も」右傍,墨筆〉ガ
10.0467 ∥5句訳注「田」「実」左傍。
  ちまき       大江千里
のちまきのをくれておふるなへなれとあたにはならぬたのみとそきく
▼のちまきの をくれてハヱル 苗ジヤケレド あたにはならぬ 田の実とナニカシラズきく
1.68.1
10.0468
  はをはしめるをはてにてなかめをかけて
  ▼は○ノ字はをはし゛め○ニオキる○ノ字をシマイニ○オイてなかめ○ト云コトをカクシ題ニシテ
  時の哥よめと人のいひけれはよみける
  ▼ジセツの哥○ヲよめと人ガいひマシタニヨツテよミマシタ
            僧正聖宝
はなのなかめにあくやとてわけゆけは心そともにちりぬへらなる
▼はなのなか○ヲ めガタンノウスルカと○思フテ わけゆクトコロガ 心○ガ何カシラズイツ〈ヨリ抹消〉シヨニ ちツテシマ〈1字抹消〉イソウニオモハルヽ
1.68.2
〈面空白〉


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