フロレンティア2 ローマ Taxi Driver

このままずっと佇んでいる訳にはいかず、俺は重たいスーツケースを持ち上げながら階段を登り駅の外に出た。どうしようと焦りと不安がごちゃごちゃに混じり合う。

するとたまたま若い警官達がたむろっているのを見つけた。『パスポート盗られた お金盗られた。』と騒いでみたが、それなら警察署へいけと軽くあしらわれてしまった。
ここローマではよく有る事なのだろうか?
普通、警官が「それは大変だ!」と言って警察署まで連れて行ってくれないか?俺はこの時不満だった。大事なかばんを盗まれた時に警官を見つけたというのに、こいつら。

なんとか警官のひとりに地図を書いてもらい 警察署へ向かう。

重いスーツケースをガラガラと石畳の上をひきずりつつ、でも、なかなか 辿りつけずにいた。売店のおばちゃん、通りすがりの人 いろいろな人達に尋ねたが 警察署は見つからない。
後でわかった事なのだが、歩きではむちゃむちゃそこから遠かったのだ。警官たちがたむろっていたので、その辺にあるものだと勝手に思っていた。

俺は重たいスーツケースを引きずり トボトボと歩いていた。これが石畳だからうまく運べない。あれほど憧れたイタリア石畳の街並みが一気に気に食わなくなった。

先程までは脇から冷や汗が溢れていたのが、今度は額や顔中から脂汗が噴出する様になった。ガタゴトガタゴトと重いスーツケースが石畳に当たる。そうして1時間は探し回っただろうか。するとむこうからTAXIがすごいスピードで現れて俺の前でUターンした。俺が驚いているとまるで俳優みたくかっこいい若いイタリア人のTAXI DRIVERが 『どうしたんだ?』 と尋ねてくる。

先程まで尋ねまわった時に使った本、ひとり歩きのイタリア語をみせて 
『Dove la Questura? Rubarto la Borsa.』
(警察署はどこですか? かばん盗まれた。)
という箇所を指差した。

すると この若いかっこいいお兄さんが後ろのトランクを開けて荷物を載せろと ジェスチャーする。
俺は ひどく疲れていたので ここでまた騙されてスーツケースも取られるんだろ。重たいだけだし大した物入って無いわ。
『もういい どうにでもなれ』と思いながらトランクに重いスーツケースをほうり込んだ。

すると 俺を助手席に乗せ このお兄さんTAXIでかっ飛ばしてくれた。
疲れ果てていた俺に ある種の爽快感を与えてくれたんだ。
そしてこのイタリアのかっこいいお兄さん ちゃーんと 警察署まで乗せてくれた。警察署ってこんな遠い所にあったんだ。それも外から分かりにくい。

いくらになるか分からなかったが、とりあえずお金をタクシードライバーのお兄さんに渡そうとするとこのお兄さん受けとらない。 絶対受け取らないんだ。
そして固い握手の後、別れを告げ たぶんイタリアは気をつけてと言っていたんだと思う。
そしてタクシードライバーのお兄さんは、かっこいいまま去って行った。
俺はこのお兄さんのおかげでイタリアを嫌いにならずに済んだ。

俺は重いスーツケースを石畳に転がしながら警察署の扉を開けた。

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