赤の魔力・威力・影響力

ウイリアム・モリスデザインの「イチゴ泥棒」の赤い生地と
赤い刺しゅう糸でちょこちょこ手作りを楽しんでいます。

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今まで「赤」は私のパレットにはない色でした。

「赤」のイメージは
情熱的、燃える色、積極的などなど。

アグレッシブな色なので身に着けるにも勇気が…。
ましてや作品製作ではちょっと差し色で使う程度がほとんどでした。


でも最近どうも気になる…。
苦手意識をもったままでいいのか、赤の魅力をもっと体感するべきでは?


キルトをはじめておよそ30年。
自分はもちろん生徒さんや業界の諸先生方の作品に触れてきて
「どんな方にも色の変遷がある」
と感じています。

ピカソの「青の時代」などは超有名ですが、
巨匠同様、日々の暮らしや変化で色に対する好みや感性は常に変わっていきます。


今作っている作品の色合わせは「今の自分」にしか出来ないもの。

だからこそ今の感性を大切に。

今好きなもの、今使いたいもの満載で作りたい。


ということで今回は『赤』と『赤の刺しゅう』について改めて調べてみました。


『赤の刺しゅう』というと白地の布に赤糸と白糸だけで刺した「レッドワーク」が真っ先に思い浮かびます。

古くは15世紀から始まり、19世紀から20世紀前半にかけての近代ヨーロッパではレッドワークのサンプラーが数多く作られました。

(*サンプラー(sampler)とは運針から始まりアルファベットや様々なス  テッチの技法を1枚の布にまとめたもの。)


なぜ多くのサンプラーが赤糸で刺されたのか…。

赤は目立つ色、強い色。

昔から赤い刺しゅうは祭りの衣装に華やかさを添え、家から魔を払うものでした。


赤の染料はヨーロッパではセイヨウアカネの根から取られました。

複雑な媒染過程を経て色素を定着させると繊維の奥深く入り込み、他の色よりも光や水に対してよく耐えたことも頻繁に用いられた理由の一つでした。



また刺しゅうデザインとしてアルファベットが定番なのは、視覚的に美しいだけでなく自分の衣類やしまう袋に名付けが必要な時に刺しゅうするためでした。

現代と違い衣類の洗濯は公衆洗濯場に持ち込んだり、また使用人に任せたりするものでした。

多くの洗濯ものの中から見分けが付く印が必要で、目立つ刺しゅう糸で自分の名前を予め刺しておく必要があったのです。

(現代の様に油性マジックでササっというわけにはいかないですものね。)


「必要に迫られて」始まったことを美しいものに昇華していく。

本当に素晴らしい‼


キルトもそうですよね。

生地が高価だったからインテリアや洋服で使ったものを最後まで大切に使いきるために始まったツギハギの針仕事。

パターンやデザインを工夫し部屋に彩りを添える美しさを兼ね備えたものや、女性の参政権が無かった時代の意思表示のツールとして昇華されていきました。



話を「赤色」に戻して…

赤は強い色、魔を払う色と前述しましたが、日本でも古来から同様に

魔除けの色、呪術の色と言われています。


神社の鳥居の赤はまさに象徴的。

昔は赤ちゃんに赤い産着を着せ、病を遠ざけ丈夫に育つよう願ったそうです。


また「ハレの日」にも欠かせない色ですね。

紅白饅頭やお赤飯、お祭りや祭日の垂れ幕など暮らしの中の佳き日、お祝い事には必ず赤色があります。


そんなベースがあるからなのか、まっさらな白い生地に赤い刺しゅう糸を刺していくときは、気持ちがしゃんとするような清々しさやどこか厳かなものを感じます。

(合わせて針を指に刺して出血し白い布地を汚さないように…という緊張感も!)


針を動かす時、時代をさかのぼってサンプラ―を一所懸命に刺した少女たちや限られた材料を工夫して日常に美を添えようとした女性たちの想いと繋がっているような気がします。


強い色、赤で魔を払うものを作りたい

とか

赤色の持つ力強さを取り入れたい 

というのが今の私の気持ち…⁇なのかどうかは分かりませんが、

心の赴くまま好きな色や素材で愉しく手作りを続けていける事に感謝!


赤だけでなく自分のパレットに今まで無いと思い込んでいた色も

今後の作品作りにはぜひ登場させていきたいと思います。


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子供が保育園に入園するため全ての持ち物に名前を付けなければならなかったとき、「自分のものと分かるよう刺しゅうした時代」があった事にならって下着にピンク色の刺しゅう糸で簡単な図案を刺しました。

本当にシンプルな図案なのに出来たのは初回だけ。

次からは結局サインペンの出番になってしまいました。(涙)

夢見る『丁寧な暮らし』は程遠く…が今も続いています。



【参考文献】

・「イニシャル&モノグラムの刺繍」 ユキ・パリス  文化出版

・「赤い刺繍とアンティーク・テキスタイル」 高橋亜紀  誠文堂新光社

・「色の心理学」 佐々木仁美 監修  株式会社枻出版社