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第一エッセイ集『憧憬の道、造形の街』

15
完結済み、全15編。 大学の登下校中に考えたことや、妄想。旅先で我が身に降りかかった災厄や、まことしやかに囁かれる噂。創作をもって、現実社会に静かな怒りを表明する。フィクションあ…
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2023年6月の記事一覧

「鬼」

赤提灯の点る処に、鬼居たりけり。 鬼はその獰猛な性格や、猟奇的な殺意を無尽蔵に隠し持ち、潔白の衣を纏いながら爪を研いで居たり。いつ如何なる時も血溜りを残すことはなく、気だるげな目で川の水面に漂白剤を注ぎにけり。 長い年月を経て、鬼に物言いできる人間は、あゝ、消滅——。その巨悪に立ち向かうことをハナから諦め、媚び売る愚か者を散見。 電気街の騒騒しいネオンサインの果てを探すと、鬼の国がある。『萬之国』という名前である。 思えば、“鬼”などという名前をつけて分断を招いてきた

「18歳」

はじめにとある時期、刑務作業のようなものをして金を稼いでいたことがあった。死を待つだけの受刑者のように、長時間にわたって単純作業をやっていた。目の前にある窓を大きなカラスが鳴きながら横切っていくと、それだけで僕はドキリとした。ただ、本当に頭を使わないでできる仕事で、日給を受け取れるのは有難かった。常に気を張りながら仕事をすることは、非常に疲れる。だから、この仕事は楽ではあったが、絶対にオンリーワンにもナンバーワンにもなれないと思った。確実に機械で代用できる仕事。だが、とある職

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大学で久々に顔を合わせた友人が、帰り道に妙なことを言い出した。 『俺さ、シモキタの駅で、見ちゃいけないもの見ちゃった気がするんだよね』 私は怯えを必死に隠しながら、「どうせ見間違いだろ? お前昔から変なこと言ってるから心配だよ」と言った。しかし友人は、食い気味に『お前は見てないからそんなことが言えんだ!』と叫んだ。 「いきなり大きな声出すなよ。そんで、何を見たんだ?」 私は一旦、彼を落ち着かせるために質問を投げかけた。 彼は鳥肌の立った両腕を擦りながら、声を落として喋り出した