VRChatにおける謎「Dahlia」調査記録〔①始まりの門〕[Cat Tail]
その日私は、VRChat内での飲料のギミックを調査していた。
納得のできる麦酒はどこかに無いものかと、カフェ、Bar、居酒屋等、問わずに調査を繰り返していた所、とある一軒の素敵なBarに辿り着いた。
https://vrchat.com/home/world/wrld_36b95c8d-8298-45a1-99d3-56c5881e985e
「Cat Tail」というクオリティの高い洒落た店であった。
よく調べてみると、Bar兼睡眠スペースという居住一体の作りであったが、VRCではよくある事なので、そこは何か感ずるところではなかった。
しかしそこと並び、もう一つの扉に目が留まった。
「関係者以外立ち入り禁止」の表示、それ自体は珍しくない。作者とその近しい関係者のみのプライベートスペース。番号によるロック、特定の順番を要する施錠、今まで見てきたワールドにもいくつかはあったものだ。
本来なら扉に触れることすら不躾な行為だが、探索者の悪い癖として、流れるように扉に指をかけ、気付いた時には行動は終わっていた。。
開いた。
驚きと気まずさを覚えながらも、視覚は空間内の情報を瞬く間に収集していく。
冷え冷えとした打ち放しの壁、業務搬入口めいた大型の扉。
物がある程度乱雑に置かれ、机には店員が休憩に使うであろう小物と、銃と肉切り包丁。
…
もちろん、VRCの世界にはヴァイオレンスや、いわゆるクライムサスペンスを扱ったワールドはたくさんある。
しかし、それはワールド全体が入口からその雰囲気を醸し出しており、今回の様な、いわば不意打ちの形でその暴力痕跡が目の前に突き付けられることは稀だ。
私はゆっくりと机に近づき、その上に並べられた違和感を眺めた。視界の最後にとまったのは、簡易的な録音機だ。
何が録音されているのか、何故置かれたままなのか、疑問に感じるより早く指先が動く。
しまった、と後悔は瞬時に訪れる。明るい社交的なBGMが短調のモノトーンに変わると同時に、急速に視界が色を失っていく。
不躾者が触らざるを得ない事を見越しての布石。
エサにかかった哀れな獲物は、戻れない好奇心の錠前をこじ開けられた。
世界の体温が下がる。重い空気が立ち込め、大きな搬入用扉には鮮やかな赤と黒の大きな紋章が出現する。
たじろいで二三歩下がると、視界の端で何かが蠢いている。
何かが詰まった死体袋が、宙づりでもがいている。
何なのだ、洒落た酒処を探していたつもりが、とんだ裏社会の尾でも踏んだのだろうか。それでは立入禁止も納得だと嘯きながらゆっくりと後退する。そこで入ってきた扉が開かないことに気付く。
まずい、咄嗟にリスポーンの手順を素早く起動するが、文様の扉の脇に気になるものがある。
「パスコード入力…」
好奇心は猫をも殺す。謎喰いの抗えない本能が、手を伸ばさせた。そこに数字は無く、文字さえ無い、あるのは花の意匠と思われる美しいシンボルが九つ、その全てが「Error」と触れる者すべてを否定する。
否定されてからが本番と身に沁みている。故に無軌道にキーをたたく、しかし非情にも扉は口を開かない。そもそも開かない演出の扉なのか?と疑い出したときに、入口のウェルカムベルが耳に入る。まずい、関係者でも、その逆でも、今にかぎっては誰とも会うべきではない。
撤退だ。
薄れゆく世界の中で、色褪せた文様だけが私を嘲笑っているようだった。
- The investigation will continue. -
◇無言者の走り書き
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