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VRChatにおける謎「Dahlia」調査記録〔②赤い世界〕 [Life On Mars?/Hotline Miami Sunset]

翌日私は、VRCの諸先輩方と遊んだ後、「Cat Tail」での一件を思い出し、何か情報をご存じないかと期待して現場に案内をした。

「こんな不可思議なワールドが在るんですよ。」くらいの軽い気持ちで紹介をしたのだが、その時に先輩から、ある衝撃の事実が私に伝えられた。

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「この扉の意匠。他にも見たことがある…」と言うのだ。

何だというのだろうか、国道沿いの電柱や、自販機に独自のシンボル・シールやステンシルを描き残す。即席バンクシーの如き風習が、このVR世界にも息づいていたとでも言うのだろうか。

そいつはご機嫌だと、案内されるまま考えていると、そのワールドへ到着した。

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「Life On Mars?」

話題では知っていた場所だった。

火星を模した、高品質なディティールで評価の高い再現ワールド。それが第一印象だった。

異世界めいた赤い風と、アンビエントめいた静かな曲を感じながら、辺りを見回す。怪しい雰囲気などは無く、逆に作成品質の高さから、どこかの学術施設が関わるワールドなのかも、と感じていた。

「ついて来てほしい」と先輩は言う。

スポーン地点のベースキャンプを離れ、赤茶けた大地を、調査ビーグルのように、我々はただまっすぐ進んでいく。
しばらく経った時、進行方向眼前に巨大なキューブが、霞んだ地平線より姿を現した。

「——随分、大きい。」自然と声が出た。

その大きさは、進めど進めど辿り着かない事からも、あきらかになってきた。
視界の6割を超えようとする時、キューブの足もとに揺らめく何かを確認した。
人?と最初に感じたのは、風の音に混じり、嗚咽のような、問い掛けの様な、何とも居心地の悪い音声がその遠方より聞こえてきたからだ。


photo by @anomarochan_222

日本語でもない、かと言って英語圏の発音でもないような、水中で、電話先に聞こえる街の雑踏の様な、不安定で、おぞけだつ、背を逆撫でされる音

それが途絶えたときに丁度、我々はそのキューブの足元に辿り着いていた。
揺らめいていたのは、外部へのポータルだった。「Hidden Dahlia」と書いてある。

その時の私はQuest単機使用者だったので、そのPCポータルにはその時に入れなかった。

キューブの腹に取り付き、巨大なシンボル意匠の中央にまで駆け上がったが、なにか起きるわけでもなく、裏面に回ってみても、収穫は見込めなかった。

拍子抜けだ、とは思わなかった。
通常、でここまでの隠し要素を設置したなら、何かの手がかりを残しておきたいのが人の心情だが、潔いほどに何もない。
それがかえって真実味のある不気味さを醸し出しているのだ。

そこは、赤い風の吹きすさぶ大地に、ただどこまでも巨大な方体が、裁定者よろしく我々を見下ろしている空間のみがあるのだった。


photo by @anomarochan_222

「次へ行こう」と先輩が言った。


「Hotline Miami Sunset」

乾いた大地より打って変わって、川沿いの都会。
似ているところがあるとすれば、夕暮れをイメージしているのか全体が赤い事だろうか。

一体ここに何があるのだろう。川向うに並ぶビル群を眺めながら、行ったこともないフロリダの風を私は感じていた。

川と並行して走る車用道。各車両が主の居ないまま駐車されているが、それらに交じって、映画やゲームの中でしかお目にかかれない、公衆電話機の並びに目が行った。

電話を掛けるように、と先輩が私にジェスチャーで促す。

おそるおそる受話器をインタラクトすると、辺りを包んでいた夕暮れの虫たちの喧騒が息をひそめ、世界が色を失っていく。火星で聞いた、あの不気味な音声に似た不穏な音源が、耳にこびりつく。

嗚咽しているのか、叫んでいるのか、呪っているのか、懇願しているのか。

VRCでもホラーワールドは、いくつも見てきたつもりだが、それとは違う温く冷たい汗が背中に噴き出る。

アバターには繕えない神妙な顔をして私が振り向くと、先輩が最後のポータルを開いていた。


Hotline Miami Sunset (Bus)

バスの中だ。

私たちがさっきまでいた川沿いの風景が窓の外に流れていることから、あの公衆電話のあった道路を走るバスに乗っていることがわかる。

赤い夕陽に染まる車内から、運転席をみやると、流れる電光掲示板の横に、件の花の意匠がある事が確認できた。

同時に電光掲示板に流れる文章に目が留まる。
英語は堪能な身ではないが、散らばる単語が不穏なもので出来上がっているのがわかる。

「Do You Like Hurting Other People ?」

おいおい、こんなスクールバスにも使えそうな日常の象徴たる交通バスにはずいぶん不釣り合いな行先案内だな、と近づくと、またもやぞわりと背が、けば立つ。

運転席に誰かいる。

わかっている。わかっている。アバターを模した人型のオブジェクト、NPC。わかってはいても、この不穏が続く環境で初めて出会った人型だ。不安になるなという方が無理だ。

眼鏡をかけた。女性。いや少女。

空ろとも言えない瞳で、道の先を見つめている。コライダーで運転席の中には入れない。

誰なのだろう?…でも、どこかで見たことがある…
私がVRの世界を探し始めたころ、VRChat自体に出会う前。


「今日はこの辺でお開きだよ。」と先輩が言うので、私たちはそれぞれのタイミングで落ちてゆく。しかし私だけは、赤に囚われたこの世界たちが、何か恐ろしいものの幕開けを示唆しているようで、いつまでも流れる景色と、無機質に流れる電光掲示板の文字を目で追っていた。


「Do You Like Hurting Other People ?」

(誰かを傷つけるのは好きかい?)




- The investigation will continue. -



◇無言者の走り書き

・LIFE ON MARS?


・Hotline Miami




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