地学が人の心を揺り動かす

伊与原新さんの「月まで三キロ」という本を読みました。先日読んだ小野寺史宣さんの「まち」に続いて、本屋大賞の11位以下の作品です。表題作含む6話からなる短編集なのですが、どの話にも地学の話が盛り込まれていて興味深く読むことができました。
私自身、理科系の大学に行ったこともあり、比較的理科は好きな科目の部類に入るのですが、地学だけは今ひとつのめりこめませんでした。
地層や地震などの話と、気象と宇宙が1つの科目で括られているのが不思議で、全体を結びつけるものが感じられなかったせいか、暗記科目の印象が拭えませんでした。
社会人になってからも、生物や化学、物理は何かしら仕事で必要になったり、プライベートでも先日紹介した「アリストテレス 生物学の創造」のような本を読んだりするなど、馴染みはあるのですが、地学だけはほとんど縁がなく過ごしていました。
ということもあり、地学は中学くらいの知識で止まっているのですが、それでも面白く読むことができました。
この物語に出てくる主人公たちはどちらかというと不器用に生きている人や、離婚や死別などで大切な家族を失い、これからのことに悩んでいる人が多く出てきます。
月などの宇宙や地層は、そういう人の感情の起伏とは無縁で、無機質に感じます。壮大さや雄大さだけでは、落ち込んでいる人の心を救うのは難しいように思います。
この短編集にはそれぞれ地層や気象、天体に詳しい人が出てくるのですが、その人たちが月も地層も何万年、何億年の間に変化しているだけでなく、あたかも今なお生きているかのように少しずつ変化していることを熱く語っているのが大変印象的です。そのように語っていく中で、無機質な地層や月の見え方も変わってきて、主人公たちが少しずつ希望を見出し、前向きになっていくことで私も前向きな気持ちにさせられました。
地学は気象分野を除くと、産業や日々の生活から最も遠い分野であるように感じていましたが、伊与原さんの小説を読み、印象が変わりました。地層や宇宙が人の心を動かすことを発見したので、これから興味を持って掘り下げてみようと思いました。

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