アイロニーの多様性と可能性

木原善彦先生の「アイロニーはなぜ伝わるのか?」という本を読みました。
アイロニーというと、皮肉と訳されることが多いですが、それだけではなく、言いたいことの逆をいうことを広く捉えることで、さまざまなメッセージになりうることがわかりました。
アイロニーというと、少し性格がひねくれた人が嫌味のようなことをいうときのことを想像していたのですが、そればかりではないことがわかりました。
例えば、お手洗いの「いつもキレイに使っていただきありがとうございます」も、本当に伝えたいメッセージが「汚したらダメだ」ということからいうとアイロニーと言えるのでしょう。
最近ブレイクしたぺこぱの突っ込まないツッコミもアイロニーの色合いが出てくることがあります。例えば、タクシーのネタで、ボケのしゅうぺいさんが運転手役になって、お客様役である松陰寺さんにぶつかっていったときに、松陰寺さんが「どこ見て運転してんだよ、と言えてる時点で無事でよかった」というのも1つだと言えます。
これは優しいツッコミとか、突っ込まないツッコミなどと言われますが、本当は「無事で良かった」というのは「気をつけろ」というメッセージのアイロニーと見ることもできると思うのです。しゅうぺいさんが「無事でよかったなら良かった」とアイロニーと捉えておらず、字面通りに捉えているのが面白いのですが、日常会話であればアイロニーと見れるはずです。
また、松陰寺さんのツッコミは漫才そのものに対するアイロニーにも見えてきます。小ボケをかましたあとの「どこ見てんだよ」的なツッコミが古臭いというか、面白くないことを皮肉っているようにも見えます。こういうのは単に性格が悪い人のひねくれた表現には見えません。
そうやって考えると、アイロニーは単に相手をチクっと刺すだけでなく、期待を伝えることもあるし、ユーモアをもたらすこともあれば、問題提起することもあるなど、さまざまな利用シーンがあることに気づきます。
ただし、大勢の前でアイロニーを使うのは難しく感じます。1人ひとりが正確に意図を解釈してくれるとは限らないし、場合によっては悪いように捉えることも起こりうるからです。
そういう点からいうと、相手との関係性であったり、言葉の通じやすさなども考慮に入れる必要がある気がします。
その関係性ができている場合においては、普通に表現するよりアイロニーのほうが極めて有効に働き、相手に印象づけることができると思います。
使い方を間違うと大変なことになりかねないですが、アイロニーの可能性をもっと追求することで、コミュニケーションに良いスパイスをもたらすのではないかと再認識しました。

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