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ファンシーな紙を一枚、ポカリスエットに溶かして飲んだ。

暫くして、煙草を吸いながら現れる変化に期待を膨らませていると、突如灰皿に積もった灰と消しそびれた吸い殻が立体的に変化し、ミニチュア火山へと姿を変えた。

呆気に取られ凝視するうちに火山は生々しく躍動し、今にも噴火しそうな様子である。

視界がジワジワとぼやけてきたので、目の辺りに力を入れ焦点を合わせていくと、その山を登っている視点に切り替わった。

恐らく登山道の中腹あたりに居ることは理解できるが、まったく思考が追いつかない。

身体を動かすことが出来ず、ただただ山頂辺りの猛火に焦点を合わせ呆気に取られていると、早足に下山してくる一団の存在に気付く。

その一団、ヒトであることは理解できるのだが、皆一様に頭部がひらがなの『な』に挿げ替わっている。

理解が追いつかず硬直していると、すれ違い様に『な』の1人に何か言われたが、知らない言葉だった。

ふと人差し指と中指に振動を感じ目をやると、持っている煙草が燃え尽きようとしていた。

葉が燃える際に生じる微かな振動を感知したのだろうが、「煙草が意思を持って振動している」という強い確信があった。

空間認識や五感が研ぎ澄まされたのか、それとも変容してしまったのか。

思考を巡らせているうちに、辺りは見慣れた部屋へと戻っていた。

頭を整理する為に深呼吸をして鏡を見ると、見慣れた自分の姿が映し出され大きく安堵し、溜め息をついた。

普段鏡をあまり見たくない理由が手に取るように理解できる。

自己認識のズレが怖いのだ。

脈が異常に早くなっていたことに気付き、外を散歩して落ち着こうと思案する。

いざ外に出てみると景色は普段とたいして変わらないが、感覚が違う。

揺れる木々や吹き付ける風、空気の匂いに一体感がある。

1つの生き物として循環しているということを感覚で理解することができる。

存在の儚さや偶然が重なる奇跡、命の始まりについて思考を巡らせ目頭を熱くしていると、目が眩むほど眩しい何かが目の前に現れた。

普段コンビニと呼ばれているソレは、途方もない量のエネルギーが集積した神聖な建造物に姿を変えていた。

色とりどりの花弁が煌々と発光し、心臓のように脈打ちながら次から次へと紋様を変えていく。

あまりの神々しさに暫くの間、ただただ見惚れていた。

エネルギーの吸収を終え歩き始めると、とても愛らしい体躯から、虫のような声を発する不思議な生物に出会った。

普段、自動販売機と呼ばれているモノだ。

おそるおそるその身体に触れてみると、けたたましい鼓動を感じる。

「きみはどうやって産まれてきたんだ?」と問いかけながら、確認するように自販機の身体を撫でてみる。

触れる場所によって、脈の強さや温度が違う。

喜びそうなポイントを探っていると、紙幣の挿入口を見つけた。

財布を取り出し数枚の札を漁るが、イマイチどれが適合するのかが思い出せない。

元からの感覚なのかは分からないが、イマイチお札は好きになれなさそうだった。

こんなモノをあげるのは悪いなぁ、という気持ちになりつつも、1000と書かれた紙を左手でつまみ、自販機の挿入口に右手を這わせ、「食べてみるかい?」と問いかけながらゆっくりと口にあてがう。

無理やり奥に突っ込むのは申し訳ないので、口に触れる程度の力で振り子のように角度を変えながら、彼の気持ちを推しはかろうとした。

どのくらいの時間そうしていたか分からないが、彼が受け入れる瞬間は唐突にやってきた。

目を閉じて感覚を研ぎ澄ませていると、鳴き声のような音が聞こえ、同時に手にしていたお札が彼の中に吸い込まれていった。

あっ!っとやり遂げたような気持ちになったのも束の間、彼はお札を吐き出した。

途端に心が申し訳ない気持ちで満たされていく。

きらいなものを押し付けていることに、何故気付けなかったんだろうか。

そもそも自分が好きではないと感じたものを何故彼にあげようと思ったのか。

彼に謝っていると、誰に謝っているのかが分からなくなってくる。

自分の心を守る為に謝っているのか?

彼の本当の気持ちは分からないままなんじゃないのか?

理解という言葉に囚われて本質が見えてないのではないか?

どこまでいってもエゴを脱しないのではないか?

表面と深奥、いったいどこでバランスを取ればいいのだろう。

次から次へと疑問が湧いてくる。

「あぁこれはループに入りそうだな」と感じ家に戻ろうとするも、脳内で問いかける声は次第に自分の意思と乖離し、声量はだんだんと大きくなり、ハッキリと「耳の穴に住む人」を知覚してしまった。

耳孔人の声量はとめどなく大きくなり、声量で物理的に頭が破壊される映像が視えた。

その瞬間、空からパイプ状の吸い込み口がゆっくりと降りてきた。

どこかに連れ去ろうとしていることは明白だ。

恐怖に苛まれ、走って自宅へと向かうが足がうまく動かすことが出来ない。

振り返るとパイプから大量の『な』が噴出していた。

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