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僕が後輩にゴリラと呼ばれた日 高層マンションの壁を登った男の手記

筆者のあだ名は、「ドンキーコング」。
見た目は、全くゴリラっぽくない、黙っていれば「知的」に見られる。初対面の人に話すと必ず驚かれる。そして必ず、理由を尋ねられる。

今日は、筆者が後輩たちにドンキーコングと
呼ばれるようになったありし日の
エピソードを紹介したい。

あれは、1月の中頃である。

中学・高校時代からの旧友たちと、
カラオケ後に、京都駅近くのすき焼き店で、
心と身体、そして旧交を温める
(毎年恒例、やすいつ就職すんねんトーク、もとい同期からのパワハラ公開説教が行われたことは言うまでもない)。3次会も盛り上がった。

筆者は、浮かれ気分で帰宅、しかし、
ポケットに手を突っ込んだ瞬間、
その異変に気づく。あるべきものがそこにない。

鍵を落としたのである。
一瞬にして、血の気が引いた。

頭に浮かんだのは、ただこの1点。
「論文を出さなあかん、体調整えるためにも、
どうしても部屋の枕で寝たい」

秒の閃きで、部屋に帰る為の方程式を導く、
そしてそれを解く。「現象にはすべて理由がある……実に面白い」by福山雅治『ガリレオ』より

まったく面白くない。実に面白くない。

前の学生についてくスリップ・ストリームを
使えば、オートロックの攻略は容易。鍵忘れるから、いつもやっている。(オシャレな学生になりたくて、ロフトとオートロックの部屋を選んだ。
しかし、入居して愕然とした事実。
(豚に真珠、男子学生に、オートロック)

問題はその後だ。今回は、難攻不落、モンスターウォールを攻略しなくてはならない。田舎暮らしが染みついているから、窓の鍵は、ずっと開けっ放しである。そこに勝機をみた。

当時は、改修工事を行っており、4階に工事用の足場が設置されていた。あそこから、パワープレーで、よじ登れば、5階のベランダから、部屋に帰れる。

「このミッションはポッシブル」
これが筆者が瞬時に導いた答えだ。

学生マンション、男子が住む
5階の角部屋に、よじ登って侵入する
メリット=ゼロ。馬鹿のやることだ。高を括っていた。だから窓の鍵は開けていた。

夢にも思わなかった。まさか自分が、
昇る費用対効果の極めて低い
学生マンションをよじ登って、
部屋に帰る日が来ようとは…
(タイパだコスパだと騒ぐZ世代よ、
俺の生き様をみろ)

あの日、わたしはバカだった。お縄のリスク覚悟に学生マンションの壁を昇る泥棒をバカにできない
ぐらいに。

だが、青年よ大志を抱け、そして
月に向かって飛べ!

正気の沙汰ではない。今思うと、
命のリスク&リターン全く釣り合わない笑

だが、人間とはときに、非合理な衝動に
駆られる生物なのだ。

ヒトは時に、無性に、登りたくなる。
そして、確かめるのだ、この瞬間を、
生きているその証を。

4階が近づく。足場はある、しかし、プロ鳶職を想定した足場である。当然、落下防止の安全バーはない。ともするとプロの、彼らでさえ、命綱を繋いでいたのかもしれない。

ざわ…ざわ… 
非常階段の踊り場から、足場へと渡る。
ざわ…ざわ

ざわ…ざわ…おそる、おそる、一歩ずつ自室の
階下まで進む。ざわ…つくこころへ自己暗示を。

この頃、筆者はジム通いの最盛期、
ベンチプレス90kmを挙げられた。
懸垂も負荷つきで10回以上連続でできた。
これ余裕やろ。

「お願いマッスル、めっちゃ部屋寝たいから
筋肉にお願いだ!」bgmが鳴る

そう、頑張るあなたは美しい。

1つ、大きな想定ミスをしていた。
少し、ジャンプすれば、5階ベランダの手すりに
届く、しかし、冬場で手が凍りそうに冷たい。

そして、下をみると足は竦む。

なんとか、仕上がった。気合を入れて、
お願いマッスル、最後は、筋肉にお願いだ!

ジャンプ一閃、5階の手摺に手をかける、
あとは自重との闘い。
「肩にでっかい命乗せてんのかーい。」
命からがらなんとか、ベランダから転がりこむ。
ベッドスライディングする。転がりこみセーフ。

そして筆者は安らかに、眠った。
加藤広康、享年26歳、ここに眠る。

この日を境に、筆者は修士号とドンキーという
新たな生を得たのだ。安いもんだ、後日引かれた
管理費の1万2000円ぐらいは。

「蛮族と呼ばれた男」という小説を百田先生にぜひ、執筆のご検討をお願いしたいところである。

読んでくださった方、ありがとうございました!
本、noteでは日々の気づき、考察、読書記録から
今回のような軽いエッセイを連載していきます✨
引き続き、よろしくお願いします。

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