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軽い認知症の母が水道を出しっぱなしにしてしまう

同居している弟が母を叱ったようだ 
ちょっとほっこりする話 

母と藤を見に行こうと実家に行った。母は90歳。59歳の弟と二人暮らしだ。
 耳がほとんど聞こえず日々めまいに苦しめられているが、歩くことはでき、認知症もあるにはあるが比較的軽いのではないかと思う。
 実家に着くとテーブルの上にメモ用紙が乱雑に置いてあった。弟が耳の聞こえない母に書いたもののようだった。
 中に一つ、「水を出しっぱなしにしても水道代なんて大したことないからいいです」と書いてある紙を見つけた。さっき水道の横に、「水を出しっぱなしにしてはいけません」と紙が貼ってあったのを思い出した。
 ははあ、母が水を出しっぱなしにしたんだな。そう思ったのだ。
 水を出しっぱなしにしたりガスをつけっぱなしにしたり、母はこのところそういうことが多くなっている。
 
 藤を見て帰ってきたら、夜勤明けで寝ていた弟が起きてきた。そして私にさっきの紙を見せ、「これ」と笑っている。
「水道代なんてたいしたことないからいいです」
 朝見た紙だった。
 弟はその下のくちゃくちゃっと書かれた青い字を指さした。そこには母の字で、
「よくない ドウシマショウ ごめんなさい ドウシマショウ」
 と書かれていた。
「水道出しっぱなしになっててね、僕がひどく怒ったの」
 弟は言った。
 どうもそのあと反省して、母あてに置手紙を残したようなのだ。
「ドウシマショウ ごめんなさい ドウシマショウ」
 あとから見たらその返事が書かれていたという。
 
母のくちゃくちゃの字を見て弟は笑っている。
「お母さん、かわいいでしょ」弟がそう言っている声が聞こえた気がした
 

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