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空き巣と番犬~タントラマンへの道(第34話)

空き巣と犬

身体の急速な成長の他にも、後の人生に大きな影響を持つようになった出来事があった。

引っ越してきて間もないころのこと。
平日の日中、母に連れられて母の実家に遊びに行っていたのだが、帰宅してすぐに母が何か異変に気付いたようだった。

普段はきちんと整理されている机周辺が散らかっていたのだ。
泥棒が入ったのか?
悪い想像は当たっていて、通帳と印鑑が無くなっていた。

110番するとすぐに警官が2,3人やって来た。
捜査によると、玄関は閉まっていたが廊下の窓ガラスが切られていて、
その切り口から手を入れて内側にあるカギを開けて侵入したようだった。

廊下に大きな靴の足跡が残されていたのがその推測を裏付けていた。

被害金額は当時の父の給料一か月分以上とのことだった。
犯人は給与支給日(振込日)直後を狙ったのだろう。

当時はATMはまだそれほど普及していなかったので預金を引き出すには窓口で手続きを行う必要があったのだが、警察による聞き取り捜査では犯人は男性ということくらいしか判らなかったようだ。

警察による捜査が実施されている最中に、父が帰宅した。
自宅前にパトカーが停まっているのを見た時は、どんな気持ちだったのだろう。
後に言っていたのは、強盗だったら殺されていたかもしれないので空き巣で良かったということだった。
確かにその通りだった。
もし、実際に強盗に入られたとしても、自分はタイガーマスクのように反則の限りを尽くしてでも強盗を殺していただろう!
等と妄想した。

不安そうにしているオレと妹に対し、警官は「絶対に犯人を捕まえてあげるからね」なんて言っていたが、犯人が将来どこかでつかまることはあるかもしれないが、我が家での犯行を機に捕まることは無いだろうと冷静に思っていた。 

予想通り、その後警察からの連絡は無く泣き寝入りするしかなかった。
ほどなくして父から再発防止案が発表された。

それは、「犬を飼おう!」だった。
今から思うに、戸建ての社宅に引っ越すことに決まった時から犬を飼いたいと思っていたのかもしれない。
なぜなら、父方の祖父が常に犬を飼っていたので、父も犬と共に育って来たという経歴があるからだ。

オレたち兄弟も、祖父のところに帰省した時に犬と遊ぶのが大好きだったので、犬を飼う案には大賛成だった。
母は特に犬好きを表明していたわけではなかったが、今回の事件に関しては留守を預かる者としての責任を感じていたようだった。
番犬雇用案は満場一致で可決された。

番犬候補はすぐに見つかった。
祖父に事情を説明したところ、祖父の家の近所でちょうど子犬が産まれたので貰い手を探しているという話を祖母が聞きつけて教えてくれたのだ。
しかし、これも運命だったのだろうか、その子犬が我が家の番犬になることは無かった。

もう一頭の候補を今度は祖父が直々に見つけてきてくれたのだ。
その子犬の飼い主は近々北海道に移住して、サラブレッドを育てることになったのだそうだ。
アイリッシュテリアの雌を飼っていたのだが、野良雄との間に(少なくとも飼い主の立場としては)望まぬ子が出来てしまったのだという。
子犬は何頭か産まれたのだが、最後の一頭がまだ残っていたのだ。

祖父は、自らも北海道で育ったということもあったのだろう。
あるいは、実際に子犬同士を見比べてみて、こっちの方が良いと判断したのかもしれない。

というわけで、我が家に配属が決まったのは、アイリッシュテリアのお母さんと謎の野良雄との間に産まれた合の子(愛の子)であった。

(つづく)












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