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【エネチェンジ】有償新株予約権発行を深読みする

こんにちは。MAKOです。
先日エネチェンジから「資金・キャリアコミット型メガベンチャーインセンティブ」が発表されました。

【導入背景】
日本のグロース市場において上場後に株価が低迷するケースが多く、また収益基盤の弱いグロース企業では、報酬面で大企業及び未上場スタートアップに劣後する実態を鑑み、エネチェンジが時価総額 1,000億円以上の「メガベンチャー」となるために米国企業と同等の株式インセンティブパッケージを導入する。

【導入スキーム】
・参加者は、条件達成時までの資金ロックアップと条件達成時までのフルタイム勤務を条件とすることで、目標達成に向けて資金面・キャリア面でのフルコミットメントを求める設計とする。
有償SOの一部を共同創業者CTOの有田一平からの譲渡とすることで、希薄化を防ぎつつ経営上の役割におけるバトンタッチを明確化する。
・現代表取締役 CEOである城口洋平がその他参加者合計と同数の 350,000株を取得することで、経営責任を明確化する。
・上場時におけるリターンと同レベルの約 10 倍のリターンを実現(時価総額1000億円時)。

【有償新株予約権行使条件】
A:売上高130億円かつ経常利益10億円
B:時価総額1000億円

C:東証プライム市場へ上場
※Aを達成し、かつBorCを達成する

以上が「資金・キャリアコミット型メガベンチャーインセンティブ」の大まかな概要になります。中身については城口CEOの動画と補足説明資料を参照すれば十分理解できると思いますので、本記事ではそれをさらに詳しく掘り下げていきたいと思います。

深読みその1(信託型SOの代替)

以下の記事でも少し触れましたが、信託型株式報酬(SO)が課税対象となったことを受けて、エネチェンジは納税負担を従業員に負わせる方針を採用しています(つまり信託型SOのメリット低下)。


今回の有償新株予約権は、信託型SOの代替となる新しいモチベーションを創出する報酬システムとなる可能性があります。城口CEOを含む48名の従業員が総額6.4億円(半分は城口CEO)を自己負担して行い、時価総額が1000億円の際のリターンは64億円に達する見込みですので、信託型SOの代替としては十分過ぎるほどの規模ではないかと思います。

深読みその2(有望人材の囲い込み)

信託型SOが課税対象になったことで、執行役員を中心としたモチベーションの低下とエネチェンジの求心力低下が問題となっていた可能性があります。エネチェンジの執行役員は各業界の一流人材を集めており、これらの人材を維持することは容易ではないでしょうし、ここには記載されていませんが、エンジニアなど他の従業員についても同様の問題が生じる可能性があると考えられます。

実際、未上場ベンチャーのCTOへのオファーを受けている方もいらっしゃったようです。そのため、今回の有償新株予約権は人材流出を防ぐ上でも十分な役割を果たすと考えられます。

上場企業の安定した立場のまま未上場スタートアップと同等のリターンを得られるわけですから、これを上回る条件を出せる企業はなかなか無いのではないでしょうか。JTC勤務の私からすると羨ましい限りです。。

深読みその3(城口CEOの持株比率)

現在の城口CEO持株比率は22.46%(6,948,900株)ですが、今回の有償新株予約権行使により25%程度(8,523,900株)になります。

有田氏との共同CEO体制から城口氏単独のCEO体制へ移行する際、支配力を強化する意味も含め、持株比率をもう少し高めておく必要があったかもしれません。有田氏の株式売却に関する詳細は以下の記事をご参照ください。

なお、城口CEOとしては2年前の公募増資の際、流動性強化のためとはいえ自身の持株の一部も手放していたので、手放した株式を取り戻すという意味もあります。持株比率向上はエネチェンジへのコミットメントに直結するのでポジティブに捉えています。

深読みその4(株価低迷)

ご存知の通り、2021年11月の株価急騰以降、エネチェンジの株価は低迷を続けています。エネチェンジからの良いIR情報も株価上昇にはつながらず、上昇のきっかけを掴めていない状況です。

その理由は明らかで、アメリカを起点としたインフレによる金利上昇がマルチプルを縮小させ、将来の成長期待が株価に織り込みにくくなったためです。よって、現在の金利水準では、機関投資家が小規模なグロース企業や赤字企業に投資することは難しい選択肢であると考えられます。
IPO後、時価総額が100〜300億円規模にとどまることを「死の谷」と表現しますが、エネチェンジはまさにその「死の谷」に陥っています。機関投資家の関心が薄くなり、個人投資家の需要も減少しており、負のスパイラルに陥りつつあります。社員の視点を上に向けるためにも何らかの契機が必要だったと言えます。エネチェンジの48名の社員が相応の株式を保有することで「死の谷」を乗り越えようという意図かもしれません。

時価総額1000億円達成条件

なお、「死の谷」を乗り越えるには良い決算を出し続けるしかありません。有償新株予約権行使条件に「売上高130億円かつ経常利益10億円」となっているのはその為と思われます。

「売上高130億円&経常利益10億円達成したら時価総額1000億円になるというのか?」

いえ、それはないと思います。前回の記事でも書いたように売上高130億円、経常利益10億円程度であれば、来年度もしくは再来年度には達成できるレベルの条件であり「5年〜10年のキャリアコミットメント」との整合性が取れません。
少なくとも城口CEOは時価総額1000億円達成のためには、更なる売上高と経常利益の積み上げが必要だと考えているはずです。

逆に言うと「これだけの数値を積み上げれば時価総額1000億円は達成できる」という売上高と経常利益が城口CEOの頭の中にあるとも言えます。では時価総額1000億円にふさわしい売上高と経常利益とはどれほどの数字なのか推定してみましょう。

PER20〜30倍程度が現実的

先日の以下記事において、先行指標として弁護士ドットコムのPER133倍を採用して検証を行いましたが、おそらく城口CEOはそんな楽観的には考えていないと思われます。

例えばエネチェンジと同じグロース市場に上場したビジョナルのPERは30倍、同じくグロース市場に上場したエニーカラーのPERは22倍です。
※どちらも現在はプライム市場に鞍替え済

両企業共に売上高、経常利益、利益率など大変素晴らしい決算を出し続けていますが、現在の金利水準ではPER20〜30倍程度の評価しか受けていません。

ビジョナル
エニーカラー

この現実を見るとやはり弁護士ドットコムのようなPER133倍の評価が得られると考えるのはあまりにも楽観的過ぎると言えるでしょう。

では現在の金利水準をビジョナルやエニーカラーと同等のPER20〜30倍程度とした上でエネチェンジの時価総額1000億円に相応しい売上高、経常利益を逆算してみました。

【検討条件】
・時価総額:1000億円
・PER:20〜30倍
【検討結果】
売上高:200〜330億円(利益率15%仮)
経常利益:30〜50億円
 ※≒最終利益と仮定

今期の売上高が65億円のため、エネチェンジが掲げるYoY30%成長が続くとすると5年程度で達成出来る数値です。

65億円×1.3^5≒240億円

「5年〜10年のキャリアコミットメント」との整合性が取れてきましたね。

5年〜10年は超保守的な予測

5〜10年はかなりの期間になりますが、城口CEOは出来ない約束はしないタイプの人なので、最悪(最長)のケース、つまり確実に時価総額1000億円を約束できる期間と考えて良いでしょう。直近の売上高YoYは70%を超えていること、また今年から米国の利下げが見込まれていることからも、実際はもっと前倒しされるはずです。

では仮にもし今後金利が半分になり、PERは40〜60倍程度の評価が適用された場合の検討結果も見てみましょう。

【検討条件】
・時価総額:1000億円
・PER:40〜60倍
【検討結果】
売上高:113〜166億円(利益率15%仮)
経常利益:17〜25億円
 ※≒最終利益と仮定

これなら2年で達成出来る計算となります。

65億円×1.7^2≒188億円

一点注意が必要なのは2025年度以降、段階的に有償新株予約権の費用が計上されるため、売上高の3%程度と軽微ではありますが最終利益がやや圧迫されます。
また、今後のガイダンスでは営業利益から株価報酬費用を控除した物を使用するとのことなので、頭に入れておきましょう。

計画の確度を上げるための有償SO

しかし、結局のところこれまでの記載内容はエネチェンジが毎年30%以上の売上高成長(そして経常利益の増加)を達成できるかどうかにかかっており、城口CEOの頭の中にある計画を実行出来るかはエネチェンジ社員のモチベーションに左右されます。そのため、48名ものメンバーに有償新株予約権を付与したのでしょう。

逆にいうと他にやれることは全てやってきているとも言えますし、これですベーのピースが揃ったとも捉えることができます。

有償新株予約権で変わること

城口CEOは毎回の決算資料でも分かる通り、株価に強い拘りを持っている方です。城口CEOと同様の株価への拘りを残り47名が持つということはとても大きな変化です。

・株価上昇に寄与するIRとは何か
・IRを出すタイミングは適切か
・SNS広報活動は十分か
・EV充電器は他を圧倒しているか
・電力切替数を最大化する方法
・機関投資家、個人投資家が求めるもの
・株価低迷原因は何か

これらを48名が日々考えながら業務理取り組むことで社内の雰囲気はガラッと変わると思います。自分たちが関わった業務のIRが公表されて株価がどう動くのか、それを多くの社員が意識することで様々なものが最適化するでしょう。

公募増資が抑制される

隠れたメリットとしては有償新株予約権に時価総額1000億円が条件となったことで、株価下落を招くもの、例えば公募増資が抑制されます。社員が株主と同じ目線を持つようになるということですね。

さらに新株予約権を行使できるのは2026年4月以後とあるため、今後2年間は株価の希薄化が伴う公募増資はほぼないと言っていいでしょう。

もし公募増資が必要になったとしても株価への影響を社内で徹底的に検証するはずです。

2024年エネチェンジ年初所感

最後に、今年の城口CEOの年初所感では「時価総額1000億円奪還」と明確に書かれていたのが印象的でした。

去年の年初所感でも、時価総額1000億円に触れていましたが、「ユニコーン像の折れたツノが見つかった」という比喩的な表現に留まっていたため、今年の「奪還」という言葉には少し驚きました。

先述の通り、城口CEOは実現可能なことだけを約束する人物ですので、1000億円の達成にかなりの自信を持っていると思われます。
さらに、「世界一」という表現。これは海外のチャージポイントオペレーターの時価総額低迷により、相対的にエネチェンジの価値が上昇していること、そしてEV充電事業において世界で初めて黒字化を達成する見込みであることが、この「世界一」という言葉を支持した要因だと思われます。

2024年、私たちも「翔く年」としたい。世界で戦えるレベルまで事業の完成度を昇華させ、世界一を目指せる事業をつくっていきたい。そのためにも、国内市場での競争を完勝すること、そして、世界レベルで勝負できる事業に注力していきます。

以上、長文となりましたが、国内市場での競争完勝も日本のEV充電インフラのためにも是非最後までやり遂げていただきたいです。
本日は以上です。

P.S.
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