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Note 122: 映画「DUNE/砂の惑星」観るべし!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるSF映画「DUNE/砂の惑星」は、今年何を置いても観に行くべき、映画の中の映画一本だ。特に家でNetflixを見て映画好きだと思っている人が(それが悪いと言っているわけではない)、映画館で観る映画の大迫力を改めて知るのに最も好適だ。

フランク・ハーバードの半世紀以上前のSF小説の、二度目の映画化である。ぼくは原作を、中学生の時に父に薦められてナナメ読みした。大まかな筋は覚えていたつもりだったが、完全に忘れていた。奔流のように出てくるSF設定や新造語に惑わされて、しょうしょう圧倒されてしまったように思う。

まったく異世界の話のように見えるが、1万数千年後の未来ということになっている。その間に人類は電子計算機を打ち壊す運動を起こしている。で、そんな状態でどうやって宇宙旅行するかというと、それはメランジという香料(麻薬)によって脳力を覚醒させた計算人間が行っている。人類の宇宙進出と共に共和制はなくなっていて、ローマ時代のような帝政国家になっている。戦士たちはシールドという電気的な鎧を身にまとっていて、このシールドは銃弾のような速い物体は通さないから、戦いは剣で行う。

以上はネタバレではない。全部省略されているのだ。小説の上下巻の部分を、映画2本に短縮するのだから当然だ。長々しいテロップやナレーションで紹介するような無粋なことはしていない。

じゃあ予備知識がないと楽しめないかと言うと、そんなわけはない。ふだんぼくは町山智浩さんの映画解説を聞いて、xxはxxの暗喩だとか、xxはxxだという時代背景がある、という膨大なウラ知識を知らされて、ああ俺なんか映画の楽しみを1%も楽しめていないのだなあ、と思うが、そんなわけはない。むろん知っていれば知っているなりの楽しみがあるが、知らなくても楽しめる。膨大な裏設定が醸し出す凄み、瘴気のようなものを感じるだけで楽しめる。

「指輪物語」ほどではないが、この作品にも造語が頻出する。初めて見た人にはリサーン=アル・ガイブとマフディーとクイサッツ・ハデラッハと「本物」の関係が分からないだろうが、そんなの原作を暗記するほど読み込んでいる人でも分からない。映画の登場人物が異国の言葉を話しているエキゾチズムを楽しめばいい。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は2本の映画に詰め込むためだけでなく、重要なモチーフをバンバン刈り込んで、むしろ必要以上にミニマリズムにしている、という批判もあるが、そこがいいと思う。ゆったりとした時間、セリフ回しが楽しめる。ストーリーも凝り凝りではなく、展開はむしろストレートである。この映画を難解という人は、難解そうに見えるものは難解なはずだと言う思い込みを持っているんじゃないか。

とにかくこの砂の世界……超高画質で楽しめる、映写時間のほとんどを茶色が占める茫洋とした空間と時間を楽しんでもらいたい。

「スター・ウォーズ」に似ている、という批評が多い。当然で、ルーカスは「DUNE」から多くのものを「スター・ウォーズ」に取り入れているし、ドゥニ・ヴィルヌーヴは青春時代に「スター・ウォーズ」に夢中になったそうだ。

しかし、ぼくは先日思い立って「スター・ウォーズ」を見返したのだが、途中で退屈になってしまった。ep.1/2/3、7/8/9が訳がわからないのは承知していたのだが、若い頃あんなに夢中になった4/5/6が退屈でしょうがなかった。SF好き、お子様向けのサービス、ガジェットが出てくると気持ちが萎えてしまうのだ。

これは作品に問題があるのではなくて、ぼくの側に問題がある。ぼくは真面目なたちで、SFにも特撮にも真面目さを求める方だ。だから「2001年宇宙の旅」や「惑星ソラリス」や「アンドロメダ……」や「ウルトラセブン」や「シン・ゴジラ」や「ダークナイト」が好きで、サービスが多いSF映画がくすぐったくて見られない。これはSF者としては大きな欠陥と言われても仕方がない。でも、そういうオトナぼく以外にも多いと思うよ。

「DUNE」にはそういう甘さがない。コーヒーに砂糖もクリームも入っていないし、デザートも付いてこない。肉は骨付きだし、チキンライスに旗も立っていない。でも、SF映画なんかをそんなに大真面目に、真剣に撮るところこそ、少年の心を保ったままオトナになった人の仕事として好ましく思える。

もう1日1回、変な時間帯にしかやっていない。来週の水曜ぐらいに打ちきりになる映画館も多そうだ。ぜひ、この映像体験を味わってもらいたい。飛ぶぞ!

(この項目終わり)

会社員兼業ライターの深沢千尋です。いろいろ綴っていきますのでよろしくです。FaceBook、Twitterもやってますのでからんでください。 https://www.amazon.co.jp/l/B005CI82FA