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バチカン高官が実刑判決を受ける徹底さ

2020年のことになりますが、聖人・福者等の承認手続きを担う列聖省長官だったアンジェロ・ベッチウ枢機卿(75)が、公金流用して、ロンドンで不当に不動産購入していた疑いで、職務を解任、枢機卿としての特権も剥奪されました。その後、本件の裁判がバチカンで続いていたようですが、昨年12月17日に結審し、「詐欺と横領の罪で5年半の禁固刑」が確定したそうです。この判決が、教皇庁にとっては驚きをもって受け止められている、というのが、以下の記事です。(Ichigo121212によるPixabayからの画像

「教皇庁 ベッチウ枢機卿の実刑判決に驚愕」ラクロワ誌、2023年12月21日

ベッチウ枢機卿は、列聖省長官になる前は国務省総務局(=国内部門)局長で、これはいわゆる「バチカンのNo.3」(おそらく、教皇→国務省長官→国務省総務局局長)と呼ばれる「大物」だったわけです。そこに実刑判決が下ったことは、バチカンの人々にとって全く予想外だったようです。弁護人は即刻控訴するため、実際に元枢機卿がすぐに牢屋に入るわけではないものの("Lessons from an unprecedented Vatican trial that sentenced cardinal to prison," La Croix, Dec. 18, 2023)、「教皇庁全体に『衝撃波』が引き起こされた」と伝えています。
確かに今回の事件は、不動産投資によりバチカンに与えた損害が1億9000万ユーロに上り、それ以外にも、横領した資金を家族に渡したり、アフリカで誘拐された修道女の救出の資金が流出したりといった容疑も重なっているとのこと。これらが裁判の過程で明らかになったことで、教皇庁の信用は大きく失墜、一大スキャンダルでした。

教皇批判の再燃

本件は、同枢機卿の事件とその後以上に、今回の判決が教皇フランシスコへの批判を再燃させている、と記事は強調し、焦点を当てています。
同誌が、匿名ながら、教皇庁の複数の役人に取材したところによると、今の教皇は、教皇庁のスタッフをあまり信頼してなく、その改革を進めていると受け止められているわけですが、それが「教皇庁の弱体化」と理解され、教皇庁にいる人間からは、現教皇は「権威主義的すぎる」と映っています。今回の厳しい判決も、「見せしめの犠牲となった」と見る向きがある、と記事は述べます。
実際、教皇は、さまざまな施策や公文書作成について、教皇庁の各省庁に担当させずに、直接、自分が信頼している外部の神学者らに頼むなど、教皇庁の役人たちをパスして、結局、教皇庁の誰も信用していない、と見られているようです。

◎所感

南米出身の教皇には、中央集権的な教皇庁のあり方、そうした全教会のあり方は適切ではない、また、第2バチカン公会議の教会観とも不適合だという確固たる信念が根本にあって、それがたとえば、今回の裁判結果のような極めて厳しい態度になって現れるのかもしれません。それへの賛否は各自の教会観、信仰のあり方に大きく左右されるでしょうが、それとは別に、教皇庁を中心とした現在のカトリック教会内で、現実として大きな分裂が広がっているのは事実。しかも、その裂け目はますます拡大しているかのようです。教皇庁が受け取った「衝撃波」とは、そういった種類のものだったかと思います。
第2バチカン公会議以前のトリエント・ミサについての明確な禁止と同様、現状をうやむやには済まさない、断固とした教皇の姿勢が見て取れます。この分裂した教会は、どこへ向かうのでしょうか?

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