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ブルー、ブルー、レッド、イエロー

【概要】

・実話をもとにしたもやっとエンド

・恋人に少し不安を感じている女の子とその恋人と不仲の先輩

・若干の背徳感



薄暗い道を歩いている。たった一つの公園に向かって。目的が特にあるわけではない。でもあの公園が、今の凛花の行き先には丁度良いのだ。

涙はあまり出なかった。こうなることを予想していたからかもしれない。思えば相手の態度に悲しくなったことだって度々あったではないか。
医科大学院生で忙しい恋人。そんな彼を凛花は尊敬している。高校の先輩であった時からそうだ。彼は何も悪いことはしていない。ただ自分のことで忙しくて年下の凛花に構っていられないのだ。
『凛花、ごめんね。今日も先に寝てていいよ』
凛花はいつも笑って頷いて送り出す。
お互い好きだから同棲してるわけだし。解消したいのであれば言ってくるはずだし。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
でもその慰めもとうとう期限が切れる時が来てしまった。
昨日、空いてる日があるか思い切って尋ねた。
『ないかな。今すごく忙しくて、凛花もわかるよな』
諭すように、優しく言う。そうやって抱きしめられると、声が喉の奥から出なくなってしまう。その繰り返しだ。

浮気が発覚したわけでも、恋人と喧嘩したわけでもないけれど、突発的に家を飛び出し、こうして歩いている。

*******

公園に着いた。自動販売機でコーンスープを買ってベンチに座る。
でも、この後どうしたらいいのだろう。どっちにしても、別れるにしても一旦家に帰らないといけない。帰るのか、あの寒い家に?
気が重く感じていると、視界に男の靴が入った。
まさか……。来てくれた? 
と淡い期待をして顔を上げるとそこにいたのは康平だった。
「尾崎か、こんなところで何してるんだ?」
「康平先輩!」
思わず立ち上がる。康平先輩は恋人と同学年の先輩だ。確か彼と折り合いが悪く、何度も対立していたというのを聞いたことがあった。
「会うなんてな」
「すみません」
まだ半分以上残ったコーンスープを持ってその場から逃げようとした。
「待て、理由があってここにいるんだろう」
直接嫌いな相手ではないのに、こんなに気まずい。なんで呼び止めるのか、行かせてくれ。一人になりたい。
「だったらお前が先約だ」
意外と律儀な人なんだと思った。
「恋人と喧嘩でもしたのか」
「喧嘩じゃありません」
「じゃあなんだ」
この人に話す必要はない。聞いてくるのがおかしい。
「アイツは自己中心的なところがあるからな。その割には調子がいい奴だしわけわからん」
ベンチに座り直してただただ相手の話に耳を傾ける。
「確かに学園内でも教室内でも人気だ。でも俺からしたらただの能無しホストだ。お前見ている限り、あまり大切にされている感じもしない」
「そっ、そんなこと!」
声が自然と大きくなる。あまりにも酷い言いようだ。私の大切な恋人なのに。
「じゃあなんで家を出た」
普段あまり人に興味がないはずの康平先輩から質問攻めにされるなんて。何か企みがあるのか、ただ気になるだけなのか。
「別に教えたくないならいい。なんとなくわかるからな」
「えっ」
「出た理由。気持ちの整理だろ」
「そんなんじゃないですよ……」
少し怒ったような口調で言った。
「たまには一人になりたいじゃないですか……」
「それを気持ちの整理って言うんだろ」
ますますイラついた。なんだよ、なんでもわかったようなふりしやがって。
「自分を慰めるのに疲れたんだろ」
思わず下を向く。確信に触れていた。早くどっか行け。
「そんなにわかったように言うなんて気持ち悪いです」
「だろうな」
それっきり彼はもう何も言わなかった。ただ隣で立っていつの間に買ったコーヒーを飲んでいる。
夜風が肌に当たって気持ち悪かった。静かに時は流れていく。先に沈黙を破ったのは康平先輩だった。
「とりあえず、電話だけでもした方がいいんじゃないか。アイツは嫉妬深いだろ」
今度は凛花が黙っていた。なぜかスマホを取り出す気にならない。コーンスープはもう冷えている。
突然ポケットの中でバイブレーションが鳴り出した。おもむろに表示を見ると、恋人の名前。
「アイツか」
上から声がする。
「出てもいいぞ」
泣きたくなった。康平先輩のその言葉がこの余韻をすべて吸い取っていくような気がして。悲しい。
『着信拒否』のボタンが目に入った。


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