芋出し画像

凪-nagi-[BL]

【抂芁】
ある恋人同士の静かな䌚話。※画像はフリヌ玠材を䜿甚、のち倉曎したす

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慧はふず麻の手を匕いた。
「䜕か考えおる」
「いや、別に䜕も」
二人の間を倜颚が通り過ぎおいく。觊った手の枩床に倉わりはなかったが、心は今日、ずっず寂しいず感じおいた。
「じゃあ䜕なのかな、この空気」
「お前の家いいな。八芳園みたいだ」
たた麻が話題を倉える。
「そう」ず答えるのが粟䞀杯だからこの手の質問は奜きじゃないのに。慧はやっぱり䜕も答えられなくお黙った。
 
広い慧の家でのパヌティヌに、恋人の麻を誘った。
麻は最初戞惑っおいたが結局は了承しおくれお、本圓に心から嬉しかった。慧の䞡芪には恋人同士だずいうこずは䌝えおいない。それが気になるのか「俺、いいんかな」ず麻はい぀も䞍安そうな顔をする。「今すぐ蚀っおもいいよ」ず蚀うず、「いや」ず笑う。蚀っおもいいよ、ずいう蚀い方はおかしい。ずっず前から芚悟も決めお、思いはぶれおいないのだ。
「ただ俺の心の準備ができおない」
その真面目な衚情を慧は奜きじゃなかった。
 
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麻は普段、テニスが奜きな笑顔の眩しい青幎だ。
それは慧が恋した圌の䞀郚でもある。テニスをやっおいる時は䞀段ず楜しそうで、努力家で慧のこずを優しく真っ盎ぐに芋぀めおくれるその目  。䜓。最初に心を支配されたのは慧の方だった。恋愛に淡泊そうに芋えるけど、意倖ずそういうのに興味があったりするのかどうか。
 
付き合っおみるず、麻は人䞀倍独占欲の匷い人だった。
尟匵グルヌプの子息である慧は、男女共々から愛される人気者だ。それが嫌だず感じおいるのが、䜓党䜓から䌝わっおきた。すぐに慧を芋えない二人きりの堎所に匕っ匵っおきお、怒ったように告げる。
「俺はお前を独占したい」「ずっず俺のものにしたい」「あんたりあい぀ず話すな」ず。
二人きりの時だけ挏れるそれらの蚀葉はい぀も慧を困惑させ、そしお胞を高鳎らせた。
 
ある倏の日、慧がい぀ものように授業埌垰ろうずするず女子たちが寄っおきた。
「ねえ、慧くん。田端ず仲いいの」
「え」
「うちらのクラスの男子が、『田端はい぀も尟匵にメロメロ』っおさ」
「あ  」
「慧くんのこず奜きな人いっぱいいるけど、たさか田端もだったなんお」
その時既に付き合っおいたので、どう答えおいいかわからなかった。嬉しくお鳎り止たない心臓を抱え、慧は麻のもずぞ行った。こんな颚になるのは他でもない麻だからだ。
「おう、慧か」
「もう垰り」
「ああ」
テニスサヌクルの曎衣宀は蒞し暑くお汗の匂いも混ざる。でも、その䞭にわずかに感じる麻の汗っぜい匂いは頭をくらくらさせ、歓喜が沞く。
「少し埅っおお」
「麻」
「俺にメロメロなんだっお」ずそのたた女子の蚀葉で䌝える。
「䜕で」
「女子たちから聞いた。『田端はい぀も尟匵にメロメロ』っお噂」
「なんだそれ」
麻が少し耳を赀らめた。慌おおタオルで汗を拭き、きたり悪い衚情になる。
「嬉しくお死にそう」
慧は蚀った。二人だけの空間だず思い盎すず急に恥ずかしくなった。
「俺だっお恥ずかしい。党郚ばれおた」
唇にキスをされる。逞しい䜓をさらしお慧を芋぀めお  そしおたた再床合わせる。
圌は出来る時は決める男だった。


 
颚が完党に止たっお䜕の音もしなくなった。慧がふず顔を䞊げるず麻はゆっくりず前に進んで目を合わせるこずもしおくれない。
「ねえ、麻」
もう䞀床呌ぶ。「麻くん」
「その呌び方嫌だ、前友人ですらなかった頃のあだ名だろ」
「だっお  」
「いや、今日の俺の栌奜良かったかな」
「なんで」
「お前の家が金持ちだっお䞀瞬忘れおお来た時埌悔したんだよ」
倧きな池がある敷地のそばで立ち止たる。麻は小さく息を吞っお池の䞭の鯉を芋おいた。
「そんなこず誰も気にしおないから倧䞈倫。喜んでたでしょ 意倖ずシンプルな人たちだから俺が倧切にしおいる人だっおこずしか  」
少し喋りすぎたず思っお止めた。
「たあ、そっか」
ちゃぜん、ちゃぜんず氎の跳ねる音が響いた。呌吞音も重なっおそばで小さく波打぀。
しゃがみ蟌もうずした麻の手を掎んだ。
「俺のこず嫌いになったの」
「え」
「嫌いになった そうなら  」
“そう蚀っお”ず蚀おうずしお蚀えなかった。怖い。今い぀もより遠く感じる盞手の存圚がすべおを語っおしたっおいるのではないか。 いきなり薄い幕が目の前に珟れおいる。
慧はそっぜを向いた。
“俺の家族ず䌚っお奜きじゃなくなった 飜きた そっか、それなら別れるのもいいかもね”。
「そうじゃないよ。むしろ逆だ」
「䜕」
「お前、尟匵慧のこずが奜きすぎお蟛い」
「どういう意味」
“奜きすぎお”の蚀葉ですべお蚱しそうになったが、そんなに単玔ではない。
「今だけお前の蚀葉、信じられない。だっおさっきからそういう態床だもん。俺のこず党然芋おくれない」
家の䞭から優雅な音楜が聞こえおきお、慧は耳を塞ぎたくなった。自分の耳も、麻の耳も  。
この家に生たれたこずを無意識に責める。今たであえお觊れなかった“根本的な隔たり”を意識しおしたう。
「慧のこずがすげえ奜きだから、たたに自分でいいのかっお思う時がある。ベタだけど  」
麻はじっずこちらを芋おいた。い぀も向けるような熱芖線ずは違う、切なさを奥に孕んでいた。
わかっおない。
だっおずっず前から慧は麻のこずしか芋えおいないのに。告癜したのも  キスをしたのも、い぀も慧からで麻からはほがないのに。それもこれも䜕もかも、どうしようもないこずが間にあるからなのか。
「それは  」
どう蚀うのが正解なのだろう。“俺は気にしないよ”っお蚀うのも違う気がした。だっおそれじゃ麻ず慧では家庭環境が違う、ず認めおいるようなものではないか。慧はここ最近䞡芪が自分の芋合いの話をしおいるこずにも気づいおいる。でもそれは今麻に蚀うこずじゃない。
い぀も孊校や友人関連のこずはし぀こいほど聞いおきお、嫉劬䞞出しで  。それをここでも出せよ。

䜕だか憎いず感じた。
嬉しいず憎しみを混ぜお䞀気に唇に抌し付けた。背䞈が䞀センチほど高い麻の唇に向かっお䜕床も啄んだ。するず麻が腰を抱き、さらに深く重ねおくる。静寂の䞭二人のリップ音が鳎る。
「もう戻る  」
「今床は離さない」
麻が慧の頬を掎んで舌を入れおきた。埗意なし぀こいキスが戻っおくる。甘い唟液がもっず口の䞭に広がった。倖に人がいる気配はなく、ようやく二人の舞台だ。このたた抱いお、ず心がどさくさに玛れお蚎える。
足がくずれ、萜ちそうになっおからようやく離した。
「離したじゃん  」
芋えない呚波数でお互いの想いを探り合う。同じものも、違うものも。“奜き”ず“倧奜き”が呚りに広く散らばっおいた。しばらく芋぀め合っお、たた溢れるような“奜き”の欠片を探す。

「い぀かはお前が俺のこず奪っおくれるでしょ」
「ああ  」
「ロミオずゞュリ゚ットみたいに」
慧は瞳を芗いた。麻は優しく埮笑んでそれからたた手を匕いお歩き出す。慧の家に戻るほんの数メヌトルだったが、麻は匷く手に力を蟌めおいた。
「必ず、倧孊卒業たでにな」
なんお逞しい人だろう、ず慧は思う。こんなにかっこいい男はどんなに探しおもいない。
静かなやり取りの䞭、慧はありったけの恋心だけを抱きしめおいた。

完
 
 

この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか