おじいちゃん家
小さいころ、母方の祖父母の家に行くのがとても楽しみだった。なぜなら、とにかく楽しいからだ。
何がというと、主に親戚が集まる時に行くからなのと、おばあちゃんがとにかく楽しい♪よく喋る、人望がある、太陽のよう、いつもみんなの中心にいる、孫からも「おかあちゃん」と呼ばれる人だった。
近くに大学があり、学生の下宿を貸していたり、刺繍の教室を家でしたり、伯母2人や我が家でもそれぞれ教室を開いたり、「おかあちゃん」は、いろいろと顔の広い人だった。
一方、おじいちゃんは、存在感がそんなになく、お酒をよく飲み、洗濯物をよく畳み、長男の苦労者で、進学せず早くから働き、弟たちの学費を稼いで勉強できなかったので、年老いてから絵や英語、フランス語、仏教等とにかくいろんなことを極める勉強熱心な人だった。
それを祖母を始め、子どもや孫からも役に立たないと言われていた。いわゆる冴えない存在ではあった。
従兄弟や親戚が、「おじいちゃん家」に正月や夏休みによく集まっていた。私は孫たちの下から2番目でした。
そして同年代の従兄弟も多く楽しかった。
その反面、喧嘩や楽しくないことも多々あり、居場所がないと感じることもいっときはよくあった。それが自分の弱いところでもあった。
今から思えば、そんな時に、おじいちゃんの存在感に救われたような気がするし、そこに自分のアイデンティティがあるような気がしている。
それは、おじいちゃん家の応接間や、いわゆるリビング(掘り炬燵があった)、その隣の部屋、台所のダイニングテーブル、2階の部屋、いろんな居場所があった。
そこにおじさんやおばさん、従兄弟がさまざまな場所にいて、食事したり、お酒を飲んだり、話したり、遊んだり、お買い物についていったり、散歩したりしていた。
そのどこかで居心地の良い場所を見つけることができていった。
そんな時に、おじいちゃんは、お酒を飲みながらいろんな話をしてくれた。
戦争の話や生きるか死ぬかの手術をした時の話、私の母が生まれなかったかもしれないという話、私が産まれた時の話など、もちろん同じ話をすることもあったけど、楽しかった。
夢中で話してるおじいちゃんを見てるのが楽しかった♪そしてすごく居心地がよかった。
周りのおじさんや従兄弟は酒飲みの相手をして大変だなという感じに思っていたみたいだけど、従兄弟が多い私にとっては、貴重なおじいちゃんとの2人の時間だった。
自分の居場所を見つける術を、「おじいちゃん家」で得たような気がする。
他の従兄弟たちは「おかあちゃん家」と言っていたけど、私は「おじいちゃん家」と言っていた。
小さい頃から、なんとなく、おじいちゃんみたいに、たくさんの親戚に囲まれた老後を送りたいと思っていた。
そんなおじいちゃん家は、阪神大震災で被災し家は半壊した。そして、「おじいちゃん」と「おかあちゃん」は、空き家になってる東北の伯父さんの家に引っ越した。
その間、二度ほどおじいちゃん家に行った。
一度目は大学卒業後、フリーターをしている時、青春18切符を使い、関西の自宅から東京の大学の頃の友達の家で一泊し、おじいちゃん家に行った。
まる2日電車乗って長かったぁ〜。でも1人旅楽しかったあ。芝刈りを必死にして手の皮が剥けたのと、お寿司屋さんに連れてってもらったのを覚えている。
二度目は、その数年後、志が定まり、引きこもり相談のボランティアしながら東京でフリーターをしてる頃、おじいちゃんが入院をしたのでお見舞いに行った。
病室でこけて額を怪我してだいぶん元気がない様子だった。
おじいちゃんに会ったのは、その時が最後になった。
その時におじいちゃんに言われた言葉は一生忘れられない。
私の顔を覗きこんで、
「お父さんにもお母さんにも似てないなあ。…自分の顔やなあ」
志定まり、東京に引っ越してすぐの頃、父親が永らく兄弟でやっていた会社が倒産して、独立するから一緒にやらないかと誘われた。
私は、やりたいことを見つけてやり始めたところで、そんなこと無理だと思った。とはいうものの親の誘いなのでさすがに心苦しかったが、断った。
自分でやりたいことを見つけ、そのために動き始めて、親元から遠く離れ、家業を手伝うことを断った。もう、親の死に目にも会えないだろなと思った。
経済的にも精神的にも、生き方としても、アイデンティティが確立した頃だったので、おじいちゃんの言葉は、とても嬉しかったのを覚えている。
そして、時間が経てば経つほど、その言葉を鮮明に思い出すようになった。
私が生きていくうえで、大事にしていることは、
・自分の私利私欲やいいとこ見せようではなく、周りの人が目立つようにする。
・評価されなくても、嫌われても、誰にどういうふうに思われても、地道に、子どもの未来を一番に考えること
言葉にすると陳腐になってしまうが、縁の下の力持ち、大きな存在感のおじいちゃんが、私の原風景となっている。
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