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スピリチュアルに『ハンナ・アーレント』を読む

アーレントが想定する意思(自由意志)は五次元にあります。

アーレントの考え方を、意思・範例・活動・図式・刺激、という五つのキーワードでつかむと、次の図の右側に配置したようになります。

この図は独学の具体例の一つにすぎません。

とくに、第七章『精神の生活』で、キーワードを追跡しておきます。

アーレントは、単なる刺激に過ぎないものに加工を施すことでひとまとまりの対象に仕上げる能力を「構想力」と呼んだ。それは『カント政治哲学講義』によれば、「「抽象的」でイメージを欠いた思想に対して、現象の世界からとってきた直観を提供する」能力である。また、そうして「構想力」が目に見えない対象に与えたものを彼女はカントの議論を援用して「図式」と呼んだ。「図式」とは「外部から不可視である限りは思考に属しており、形象に似ているものである限りにおいては感性に属している」特殊なイメージである。つまりそれは視覚を伴わない抽象的な対象に与えられる一種の形象である。――p.253

唯一解をもたらさない「思考」でもアーレントには重要だった。なぜなら、「構想力」の与えた「図式」に名称を付与し、「類比」を用いて検討するという基本的な人間の精神的能力に基づいたそのプロセスは、様々な対象をコミュニケーションの経路に乗せ、目に見えない経験ですら実在する現象として「共通感覚」の対象にするためである。換言すれば他者の経験という形のない対象を精神にもたらす能力は、「物語」化されたそれがかつて実在したこと、さらにはその経験をした他者が確かに実在することを私たちに了解させる。――p.257

「愛」が「持続性」を伴って対象の把握を可能にする能力だとすれば、「意思」から「活動」への移行の構図は次のように説明される。すなわち、行為への移行によって葛藤する「意思」が消滅した後、より強い「結合力」を有した「愛」によって「活動」は保持される。「愛」の提供する「結合力」は、対象とともにやすらう、あるいは対象とともにありつづける「持続力」をもたらすため、開始された「活動」のプロセスは維持され続けるだろう。
活動」が「愛」の対象となる理由は、本書の第五章に示されている。すなわち、「活動」がひとたび開始されると様々な関係性や「過程」が形成される。「関係の網の目」の中での人格暴露が伴うのである。行為者はそれを「愛」し、そのプロセス自体を「公的幸福」として享受するだろう。仮にその過程で不本意なことが生じても、「活動」の構造上それからは逃れられない。それでも過去を振り返り、自身が「何者」であったのかを問い、「思考」することで、過去から逃げることなく「愛」し続けることができる。これが「意思」から「愛」への移行によって持続される行為の構図である。――pp.266-267

まず、特定の「活動」が開始されれば行為者の人格や「原理」が開示される。さらにそれは、後に「物語」として言語化され、「思考」の対象として人々に語られ、記憶されるかもしれない。そうして記憶された「物語」は、それを目にしなかった者にもそれが伝える内容を了解させる。中でも特に広く知られ、記憶されたものは「範例」となる。「物語」の主人公が「何者」であるのかばかりか行為に付随する「原理」を伝えることで、別の「活動」で示されたものの「判断」基準を提供するのである。また、そうした「原理」に寄せられた多くの好悪に関する弁別的反応もそれは併せて伝達する。こうして新しい別の「活動」が提示した「物語」の是非を個人が「判断」する手掛かりも与えられることになる。――p.272

森分大輔『ハンナ・アーレント』(ちくま新書)

以上、言語学的制約から自由になるために。

今回の記事は、次の二つの記事とよく似た作りになっています。