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おすすめの1冊【フレンチ警部と毒蛇の謎】

ヤギ爺「ミスター、ミスター、なんかオススメの本ないやろか?去年、読書の秋に読書し忘れてん。せやから今のうちに読み始めたろう思って。」

ミスター・ペン
「ほう、読書か。いいじゃないか。で、どんなのが読みたいんだね?」

「そやな、飽きひんやつがええな。次々事件が起きるやつとかな。」

「そりゃ推理小説だな。連続殺人事件ものなら"自粛の夜”にピッタリだぞ。」

「いやいや、夜は目ぇ疲れんねん。昼間向けの明るい殺人事件がええわ。」

「…明るい殺人?」

「なんや、ややこしいトリックとかも肩凝るしな、そんなんもいやや。あと、人がぎょうさん出て来て、誰が犯人か考えるんのもしんどい。わかりやすいの、あらへん?」

「無茶苦茶だな。しかし、この“読書マイスター”にまかせたまえ。“読書マイスター”と名乗っているのは伊達じゃないというところをお見せしよう。」

「さすが、ミスター!」

「やあ、ありがとう、ありがとう。まず、わかりやすいといえば倒叙推理小説だ。」

「とうじょ?なんや、それ?」

「『刑事コロンボ』みたいに、最初から犯人がわかっていて、犯罪を犯す犯人側から始まる推理小説だ。」

「おう、それそれ!コロンボみたいなん、そんなん、考えんでええから好きやわ。」

「次に、殺人に“明るい”はありえないが、陰湿でもなく残酷でもないのにしよう。どこか滑稽さがあって“飽きない”となれば……、巻き込まれ型だな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤギ爺!いいのがあるぞ。『フレンチ警部と毒蛇の謎』だ!」

「ほう、フランス料理みたいやな?なんやわからんけど、毒蛇もおるんかいな。ええやん、どんなん?」

【フレンチ警部と毒蛇の謎】 F・W・クロフツ

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「これはな、恐妻家の動物園の園長がだな、暴言と浪費ばかりの妻へのストレスをギャンブルにつぎ込んでね、お金もギリギリ、家庭もギスギス。でも妻を殺すわけじゃない。なぜなら園長には、独り身で金持ちで病身で高齢の叔母さんがいるからだ。数ヵ月しのげば遺産が入るだろうと、それだけをめちゃめちゃアテにして過ごしているんだ。」

「なんや、同情したいような、したくないようなやっちゃな。」

「そう、園長という地位もあり世間体の見栄えもいい。けれど小心者で優柔不断で人目を気にするから、スカッとした部分のない男だよ。そんな男がある日、妻とは真逆のおしとやかな女性に一目惚れするんだ。」

「おっ、ロマンスもあるんかいな!」

「うむ、今のパッとしない日常がずっと続くと思っていた中年男が、数十年ぶりにときめいちゃったのだ。」

「どえらい奥さん持ちじゃ、そりゃ、しゃあないわ!」

「金の余裕もないけれど、彼女に会いたい、気に入られたい。そうなると男ってのはいくつになってもバカさ。デートするために借金しては、ギャンブルでたまたまツキがついて返す…って綱渡りみたいな生活をし出すんだ。」

「ツキがくるなんて、むしろ才能あるんちゃう?」

「ん?妻に気づかれないように平静をよそおっては抜け出し、金を借りては人目を忍んでレンタカーで遠出デートし、カードで一山当てて金を返す…うむ、確かに才能あるな…。とにかくだ、そんなある時、彼女が職を失って田舎に帰ると言い出すんだ。」

「ほう、さてはついに鬼嫁やってまうんか?」

「待て待て。とにかく、彼女の前ではかっこつけたいし、頼られたい。何より彼女だけには“俺が必要”って思わせたい。だから、いずれ入ってくるであろう叔母さんの遺産を担保に、彼女との家を買っちゃうんだ。」

「しょーーーーーーもなっ!」

「おかげで、叔母さんはいつ死ぬだろうかと、何度も主治医に探り入れに行くんだ、さも叔母さん思いの甥っ子ぶって。」

「アホや…。」

「ところが叔母さんは一向に死なないし、借金は増える一方。」

「ほいで、とうとう叔母はん、殺しよるんか?」

「いいや、まだまだまだ。まだここまではほんの導入だよ。」

「な、なんやて!?」

「ふふ、世間体を気にする気弱な恐妻家で、女の前ではかっこつけつつ裏では金策に走るその場しのぎの無計画。なまじっか常識的で優しいゆえに、思い切ったことが何一つ出来ない中年男が、どうして犯罪者になってしまうのか?そして、そもそも誰が殺されるのか?」

「誰殺すん?どうなんの?な、な、言うてえや。ついでにフランス料理だかなんだかは、いつ出てくん?それに毒蛇って出てこんやん?」

「『毒蛇の謎』ってからには、ちゃんと毒蛇は登場するさ。いいかい?動物園にも毒蛇はいるし、男はそこの園長だ。だが、この小説のタイトルのフレンチ警部は、まだ一向に出てこない。なぜかわかるかい?なぜなら、まだなーーーんにも事件は起きてないからさ。」

「……!?ほんまや!ほんま、まだなーーーーんも事件起きとらんやん!もう盛りだくさんに思うてたわ!」

「いやいや、これからどうしても犯罪者にならなきゃいけない状況に追い込まれていくのさ。でも、叔母さんは期待通り病死するよ。」

「ほな、遺産もろて一件落着ちゃうん?」

「なんのなんの、クロフツはすごいぞ、ヤギ爺。このあと二転三転して、ついにやっと犯罪が起きるんだ!」

「もう、おなかいっぱいやで?毒蛇とフランス料理、入らへんわ!」

「いやいや、メインディッシュはこれからだよ、ヤギ爺。気弱なやつほど見ててドキドキするものはないさ。とにかくこの園長の危なっかしさは秀逸さ!なんてったって、この男は主犯じゃなくて、はめられて片棒担がされる災難男なんだから!」

「なんやて!?主犯って、ほかにどんなん出てくん?誰が誰を殺すん?園長は何しよるん?あーー、気になってしゃあないわ!」

「だろう?ぜひオススメするよ。」

「ミスター、おおきに!これ読んでみるわ!」


(マガジンごと削除してしまった記事を、手直しして再投稿していきます)

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