『暗い越流』の批評な日常
第六十六回推理作家協会賞短編部門を受賞した若竹七海『暗い越流』(二〇一三年)を彼女らしい作品と感じた読者はどれほどいるだろうか。無論若竹の作風が既にして多彩なものとは承知しているが、それでも尚そうした疑問が湧く程に本作は異彩を放っている。それは松本清張風のタイトルや、それに呼応した筆致を言いたい訳ではない。例えば冒頭、死刑囚を応援する手紙が弁護人に届けられるが、差出人の動機はすぐに虚偽と見抜ける破綻したものだし、犯人は虚偽の証言を残し真相を告げないまま物語は閉じられる。本作