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「エンタングルメントにまつわる本当の不思議さ」への回答

下記の投稿を拝読した。

質問があったので、専門家ではないので自分の勉強も兼ねて、新たな疑問が生まれるだけのように思われるが、簡単に回答を書いてみたい(勉強も兼ねてなので間違っているかもしれません。)。(※簡単にと思って書き始めたものの、結局それなりに長くわかりにくくなってしまいました。)

■分からない点①:「粒子が二つに分かれる?」

「「これ以上分割できない最小単位の素粒子」を扱っているのに、二つに分かれるってどういう事??」かといえば、そもそも素粒子論は、素粒子の生成消滅により相互作用(力)が生じるという理論だからです。

古代ギリシアの「原子論」では、原子は不滅と考えられていたが、現在では、原子はもとより、素粒子も、消滅したり、新しく生成されたり、崩壊したりして、変化しうる存在であることがわかっている。

https://www2.kek.jp/kids/jiten/particle/interac.html

といった説明もあります。変化するものを“素粒子”と呼ぶべきではないという意見もあると思いますが、歴史的に素粒子と呼んでいるものの呼び方を変えるのも問題があるだろうし、この世には最小単位の変わり得ないものなどまったくない可能性もあるでしょう。変わらない最も基礎的なモノ(最小単位の粒子)の組み合わせで世の中ができているという世界感ではもはやないのです。

「どうしてその二つが同一な素粒子と言えるのか?」については、ご覧になった説明がよくなかったのか、そもそも分かれてできた素粒子は、普通、異なる粒子です。この文脈での最も一般的な説明は、Wikipediaの

スピン0の素粒子が崩壊して、2個の粒子、例えば電子と陽電子が放出される場合を考える。

アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス

というもので、分かれてできるのは電子と陽電子という別の種類の素粒子です。

一方で、実際のエンタングルメントの実験(ベルの不等式破れの実験)では、実験行いやすい光を用いている場合が多いです。この場合、2つの粒子は共に光子なので、同じ粒子です。

■分からない点②:「光速度を超えた事をどうやって確認するの?」

光速度を超えた事を確認するために、
「双方が同時に確定した」ことを確認する必要はありません。時空の2点(xx時刻のxxの場所が点で、それが2つという意味です。)の関係は、空間的(space-like)と時間的(time-like)に分けられます。光速度を超えたかどうかは、空間的に離れた時空の測定結果の関係により確認できます。簡単に例えると、空間的に離れた時空の測定装置の測定結果がいつも(何度行っても)同じであるとか、ある計算式で計算できる関係にあることが確認できれば、光速度を超えたと表現されます(後述の事前に決まっている場合を除きます。)。光速度を超えるというのは、そういう意味で使われています(たぶん)。

「証拠を突き合わせる過程で光速度で伝わる筈の時間が経過します。」というのはご指摘のとおりですが、証拠を突き合わせるのに時間がかかることは光速度を超えたかどうかとは関係がありません。測定結果は測定されたときに記録されるので、それを後に確認したとしても以前の時刻に測定されていたと考えられています(量子力学の解釈論としては、この点が一番の疑義のポイントですが、その点は本稿では無視して、一般的な説明に基づいてのみ説明することにします。一般的な理解でなく、測定結果の記録が重ね合わせ状態にあって、突き合わせる段階で射影が起こるとか、自動的に機械で突き合わせたときにも重ね合わせ状態のまままで人が結果を見たときに射影が起こるといった普通でない解釈のもとでは、光速を超えることはありません。)。その測定結果が記録されたときに空間的に離れていればよいのです。光速度を超えるというのはそれだけのことしか意味しません。そんなの普通の日本語の意味ではないと感じるかもしれませんが、そうした用語が物理学では一般的(量子力学の通常の理解の仕方(コペンハーゲン解釈))です(たぶん)。

多くの実験では、光を用いており、光源から反対方向(例えば左右)に光を飛ばします。光源からの同じ距離のところに光子の検出装置があれば、光の速度は左右で同じなので、同時に光子が検出装置に届いて検出されます。同時にというのは、光源や検出装置が静止した慣性座標系においてのことですが、それで検出が空間的に分離されていることは担保されるでしょう。

しかし、それだけでは十分ではないという批判がされました。日本物理学会の解説では、下記のように記載されています。

実験に付随するloophole(抜け穴)の議論が起きました。その抜け穴の主なものは (1)局所性の抜け穴と (2)未知効果による検出の偏りの問題です。1番目の局所性とは、まず系AとBが同一箇所にある場合、何らかの相互作用で「ベルの不等式を破るように系AとBが結託する」ことは原理的にないとは言えないので、それが起きていないことを保証するためには「系AとBは十分引き離す必要があり、その間を光が通過する時間以内に実験を終える必要がある」というものです。(これは「未知の第5第6の力が発見されたとしても、光速度を超えることはできない」ことは前提にしています。)

https://www.jps.or.jp/information/2022/10/2022novelprize.php

文脈が異なる(光速度を超えた事を確認する方法の説明という文脈ではない)ことから分かりにくいですが、実験装置が動作する時間を短くしていけば、その動作している期間の間に2つの実験装置の間を光が届くことができなくなるので、光速度を超えたことが担保分できるということのようです。

具体的には、論文には

In this experiment, switching between the two channels occurs about each 10 ns. Since this delay, as well as the lifetime of the intermediate level of the cascade (5 ns), is small compared to L/c (40 ns), a detection event on one side and the corresponding change of orientation on the other side are separated by a spacelike interval.

A. Aspect, J. Dalibard, and G. Roger, Phys. Rev. Lett. 49,1804 (1982).

と書かれています。2つの測定装置の間を光が進むには、40ナノ秒かかり(約12メートル離れているということだと思います)、一方で、測定装置は10ナノ秒ぐらいで切り替わっているので、測定間は空間的に分離されているということのようです。

より厳密な実験を行なった“Strong Loophole-Free Test of Local Realism”という論文では、600から800ピコ秒(1ナノ秒未満)ぐらいの間のみ測定行われるような実験を行なっているようです。光の光源から検出装置の間の距離はわかっているので、光速度で距離を割れば検出装置の届くまでの時間はわかります。この実験では、光源から検出装置まで150メートル近く離れていて、光ファイバーを通すので光速度も低下して、約800ナノ秒後に到着するようです(前述のリンク先のPDFファイルのFig3をご覧ください。)。測定内容(光の偏光の向き)は、光が飛んでいる間に、乱数発生器によりランダムに決めます。これが、光を発してから約400ナノ秒後です。乱数発生器は、150メートル近く光源から離れているので、400ナノ秒では光源から光は到達できません。したがって、光源から発せられた光が乱数に影響することはありません(測定対象の光と乱数は空間的に分離されています。)。生成された乱数がもう片方の検出装置(乱数発生器と検出装置はペアで、2つあります。)に影響することもありません。その理由は、乱数発生器から他方の検出器までは光速で600ナノ秒ぐらいかかる距離にあり、光の生成からの時間では400+600で1000ナノ秒近く後になってしまうので、そのときには、光源からの光は既に測定装置に届いて測定されている(1000ナノ秒>800ナノ秒である)からです。このように装置間の距離と動作のタイミングを制御することにより、2つの実験結果(2つの光子の偏光の測定)は光速でも相互に影響を与えられない(空間的に分離されている)ように実験しています(読み間違えていたらごめんなさい。)。自分で忘れた頃に読み直しても理解できないような説明になりなしたが、まとめると、ナノ秒レベルで制御できれば、光も普通の粒子と同じようのどこの位置に存在しているか具体的に把握できて、いろいろな事象の位置と時刻から、空間的に分離されていることを確認できるといえるでしょう。

もう一つの疑問の

片方が確定したら(観測結果が出たら)、もう片方が確定するというのも、この前提条件では論理破綻しています。
何故なら、もう片方は「測定しなくても観測結果が現れる」事になるからです。

エンタングルメントにまつわる本当の不思議さ

については、「確定する」と「観測結果が現れる」は違う意味ということをお伝えしたいと思います。「確定する」は、測定したらどういう値になるかが決まるという意味です。そのあと、測定してもしなくてもかまいません。「観測結果が現れる」のは、当前ですが、測定した場合だけです。

これで、疑問にはいったん答えたものと思いますが、しかし上記で述べた、空間的に分離されていることの担保方法は、光速度を超えた事確認するための本質的なことではありません。本質的なのは、ベルの不等式が成り立たないという実験結果です。wikipediaには

ベルの不等式を検証する実験を行った。その実験でアスペは、ベルの不等式の一種であるCHSH不等式(英語版)が破られていることを示した。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%9A

と書かれています。日本物理学会のサイトには、

受賞理由は共通していて、複数光子の量子もつれの実験、それによるベルの不等式の破れの立証、そして量子情報科学を開拓し基礎づけたという業績でした。

https://www.jps.or.jp/information/2022/10/2022novelprize.php

と書かれています。そこから光速度を超える話につながるのは、理論的な話です。一般的には、局所実在論(局所性を仮定した隠れた変数理論)が正しくないということが間にはさまります。ベルの不等式と局所実在論の関係については、検索するといろいろ解説が見つかるでしょう。しかし、とても難しくて、普通に理解できるものではありません。例えば、

正直、CHSH不等式を導く部分で一体どこに局所実在論の特徴が現れているのかが明らかではない書き方になってしまいました。ここで少しその辺りの補足をしたいと思います。

局所実在論とベルの不等式

という記載があるページがありますが、読んでもよくわかりません。そのように理解困難な内容なので、報道やYouTubeの解説動画などで説明されないのは当然です。しかし、これが一番重要なところで、前述した「空間的に離れた時空の測定装置の測定結果がいつも(何度行っても)同じであるとか、ある計算式で計算できる関係にあること」が実験で示せても、それは光速度を超えて伝わったのではなく、もともと(事前に)そういう関係にあっただけかもしれないので、光速を超えたことの実証になりません(もともと一か所の光源からの同時に発せられた光なので、特定の関係にあっても何の不思議もなく光速を超えたことにはなりません。)。光速を超えたことの実証のポイントは、時間と距離の関係からなにかを示すことではなく、ベルの不等式という測定結果間の相関係数の値を確認することになります。繰り返しになりますが、その理由は、普通に理解できるものではありません。そのため、理由はわからないが賢い人たちが正しいと思っているのだから「局所実在論→ベルの不等式が成り立つ」という命題は真であると信用するのがよいでしょう。

「局所実在論→ベルの不等式が成り立つ」の対偶は、「ベルの不等式が成り立たない→局所実在論正しくない」になります。そのため、ベルの不等式が成り立たないという実験結果から、局所実在論でない量子論が正しいかもしれないという話につながります。ここのところは、量子論が正しいということが導かれるわけではなく、局所実在論でない理論の中で、一番奇妙でない(巧妙に理論を組み立てなくてよい)理論が量子力学というだけのことです。

そして、「片方のスピンの向きが確定したら、その確定情報がもう片方の粒子に瞬時に伝わりスピンの向きが確定する」というのは射影仮説と呼ばれる量子力学の公理から導かれるものです。wikipediaでは

物理的なメカニズムを想定せず、単に公理として与えられる数学的な処理として扱う(射影公準または射影仮説と呼ぶ)。

波動関数の収縮

と説明されています。何か根拠があって(説明ができて)導けるものではないのです。「片方のスピンの向きが確定したら、もう片方の粒子のスピンの向きが確定する」というのは、物理的なメカニズムではないのです(相互作用の結果ではありません。)。物理的なメカニズムではないので、光速の制限をうけることもありません。こうした説明の流れで、光速を超えたことになるのでしょう。

■分からない点③:「瞬時っていうけど、離れた2点には同時は存在しないハズでは?」

ご認識のとおり、離れた2点に客観的な同時はありません。前述したように、空間的に離れた測定結果の関係について述べているのみです。あえていえば、任意の空間的に離れた時空の2点には、その2点が同時刻になる慣性座標系があるので、その慣性座標系からみれば、時間をかけずの(瞬時)に伝わったということになります。そのため、瞬時と表現されてもまあ良いかなと思われているのだと思われます。

「かなり離れた場所(例えば地球と木星の間)であっても、光の速さを超え瞬時に情報が伝わる」というのとは違う

最後に、エンタングルメント(量子もつれ)状態の測定によりもたらされるものは、一般常識的な意味での情報が伝わるというのとは違います。情報が伝わるのと、状態(波動関数)が確定する(伝わる)のは違うことです。まず、単なるエンタングルしているスピンの向きの測定では、ランダムな結果が伝わるだけで、伝えたいと思う意味のある情報が伝わるわけではありません。ランダムな結果を受け取っても、それだけでは何の意味もないでしょう。次に、量子テレポーテーションは、意図した(伝えたいと希望する)量子状態を瞬時に遠隔地に伝えられる技術ですが、情報を瞬時に伝えられるわけではありません。世界で最初に完全な量子テレポーテーション実験に成功したと言われることもある古澤さんも、

もつれの影響は、ある種、光のスピードを超えているところもあるかもしれないですけれど、実際の情報として存在するためには、最終的に通信をしなければならないので、通信自体は、光や電波のスピードを超えることはありません。

量子コンピュータの可能性――量子テレポーテーションのパイオニア・古澤明氏に聞く

と言っています。

追記

私が回答を書いている間にいろいろChatGPTに聞いて解決されているようであった。と思ったが、日付を見直したら、私が回答を書き始める前のことだった。

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