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アーティストたちはどんな“ノイズ”を集め、どんな楽曲に仕上げたのか。 “音”を写真と映像で体感する「THIS SOUNDS GOOD?展 #渋谷x都市 #青森x農林水産業」

quantumとオトバンクが共同で設立した、企業のもつ個性を、音を通して資産化し、継承するブランデッドオーディオストレージ『SOUNDS GOOD®』。

2019年3月5日のローンチ以来、多くの企業や団体の“ブランドを象徴する音”を“音の資産”として捉え、アーティスト・クリエイターとコラボレーションして様々な形で展開することで、企業・団体と生活者、消費者の新たな接点を生み出してきた。

この度、『SOUNDS GOOD®』は青森県の特別協賛のもと、アーティストが集めた渋谷と青森の“ノイズ” (環境音・生活音) を写真と映像を通して体感できる「THIS SOUNDS GOOD?展 #渋谷x都市 #青森x農林水産業を、2020年10月22日 (木) から2020年10月28日 (水)までの会期で、CAELUM GALERIA(東京都渋谷区宇田川町4-8 昭和ビル2F)にて開催する。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、この春予定していた展示の開催を延期したが、昨今の状況を踏まえ、感染防止対策を十分に行った上で、上記会期、会場にて実施することを決定したものだ。

『SOUNDS GOOD®』における新しい取り組みである「THIS SOUNDS GOOD?」というプロジェクトの第一弾となるこの企画には、4名のアーティストが参加。渋谷を代表して荘子it (Dos Monos)、ermhoi (Black Boboi)、関口シンゴ (Ovall)、青森を代表して青森出身のナカコーが、各地域の“音”を独自に集め、そこから新しい“音楽”を生み出した。

果たして、彼らは各地域のどんな”音”に注目し、そこからどんな”音楽”を作り上げたのか。『SOUNDS GOOD®』代表の安藤紘と座談会形式で語っていただいた。


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写真左→右
ermhoi (Black Boboi)、関口シンゴ (Ovall)、荘子it (Dos Monos)、ナカコー、SOUNDS GOOD®代表 安藤紘

※当インタビューは、本来展示を予定していた今年3月の会期に向け、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が報じられる前に都内にて実施された座談会を一部再編集したものです。あらかじめご了承ください。


――今回の展示に関連する「THIS SOUNDS GOOD?」は、ブランデッドオーディオストレージ『SOUNDS GOOD®』における新しい取り組みとして発表されました。まず安藤さんから、これまでの『SOUNDS GOOD®』の活動を振り返った手応えは?

安藤:『SOUNDS GOOD®』は企業やブランドが持つ”固有な音”に着目したプロジェクトです。工場の製造ラインの音や駅の環境音などから「ASMR音源」を作り、それをアーティストの音楽制作に活用していただくことで、企業とアーティストとリスナーを新しいかたちでつなげてきました。また2020年8月にはより幅広い意味で“音の資産”を記憶し、様々なクリエイターとコラボレーションすることによって未来へと継承していくブランデッドオーディオストレージへとコンセプトを改め、音の資産を使ったブランディングの可能性をこれまで以上に広げていくための活動を進めています

レーベルをここまでやってきて思うのは、環境音や生活音を“音”として楽しむ人がまだまだ少ないということ。「音のブランディング」を広げていくためには、もっと日常の中のノイズを意識して聴く機会を作る必要があると感じていました。そこで企画したのが「THIS SOUNDS GOOD?」というプロジェクトです。今回の展覧会に参加していただく4名の方々は、その第一弾アーティストです。

――『SOUNDS GOOD®』と「THIS SOUNDS GOOD?」は微妙に立ち位置が異なっている?

安藤:『SOUNDS GOOD®』は僕らがノイズを収集して、それを時間をかけて「ASMR音源」に仕上げていくことに価値を持っています。しかし、「THIS SOUNDS GOOD?」ではアーティストの視点が価値になる。特定の場所で自由にノイズを集音してもらうことで、それぞれのアーティストが街や地域のどんな魅力を引き出したのか。そこを楽しんでいただくプロジェクトです。

――今回、集音する地域が渋谷と青森になった経緯は?

安藤:これは偶然が重なりました。「THIS SOUNDS GOOD?」を立ち上げるときから、最初は渋谷という街を舞台にやろうと決めていました。それとは別に、たまたま青森県庁さんから、『SOUNDS GOOD®』についての問い合わせをいただいたんです。青森県庁さんは農林水産業従事者の確保などのため、従来とは違ったかたちで農林水産業の魅力を若者に訴求できるプロジェクトを探していらっしゃり、我々にご連絡をいただいたという経緯です。
もともと僕らとしても、「THIS SOUNDS GOOD?」は行政や商業施設を持っている企業に合うプロジェクトじゃないかと感じていました。そこに青森県庁さんからお話をいただいたことで、渋谷と青森という対象的な2つの地域のコラボレーションというアイデアが生まれたんです。これは絶対面白いものが生まれると思ったので、ぜひやりましょうということで今回の展示に繋がりました。

会場では「THIS SOUNDS GOOD?」のグッズ販売もするのですが、それも渋谷と青森の写真を並べたTシャツだったり、ステッカーだったりと、この機会にしか実現しなかったであろうものになっています。

――参加されたアーティストの方々は、「特定の街や地域の音を集めて、そこから音楽を作る」というプロジェクトの概要について、当初どう感じましたか?

荘子it:僕は東京ガスさんの音源を使った『SOUNDS GOOD®』のコラボレーション楽曲にも参加しています。基本的に自分はヒップホップのトラックメイカーで、サンプリングで音楽を作るのは慣れっこですから、そのときからプロジェクトへの参加に違和感はなかったですね。

ただ、普段はいろんな音楽をザッピング的に聴いて、自分が使いたいと思った音を使うっていう作り方をしています。その点、『SOUNDS GOOD®』はサンプリングする音源が指定されていたから、これは初めての経験でした。どちらかというと、自分の音楽を作るって言うより、ほかのアーティストのリミックスをやる感覚に近かったかもしれません。

今回、渋谷の街に繰り出して音を集めるっていうのは、自分でサンプリングソースを探す感覚に似ていました。だから、こっちのほうが普段の音楽の作り方に近いっていう意味での違いはありましたね。

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ermhoi:街で音を集めるということは自分でもやったことがあって、そのときはICレコーダーにイヤホンを刺して歩きました。これが面白かったから、私もプロジェクトのアイデア自体には抵抗はなかったです。心配だったのは場所が渋谷ということで、「どれだけうるさいんだろう?」ってくらいかな(笑)。

――音楽の素材になる“音”がちゃんと集められるか。

ermhoi:そうですね。ただうるさいだけになったらどうしようとか。でも実際に音を集めながら歩いてみると、普段から街の音を聴いているつもりでも、実は無意識に選んで聴いているんだなと思ったくらい、ものすごくたくさんの種類の音があふれていました。

私は朝の時間に絞って歩いたんですけど、できあがった素材を聴いてみたら、朝の光を感じられるような、エモーショナルな音になっていて、そこから音楽を作っていくのもスムーズにいきました。面白い経験でしたね。

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関口:僕も何年か前に別の企画で電車の音を使ってトラックを作るっていうのをやったことがあるんです。ただ、そのときはもらった素材で音楽を作ったから、今回のように自分で音を集めるっていうのは、すごく新鮮な体験でした。

集めた音を聴き返したときに、「自分はこういう音が好きだったんだな」とあらためて発見できたというか。僕は集音の日が雨だったということもあるんですけど、水の音がけっこう多く入っていて、トラックでもそれをけっこう活かしています。

――街での集音ということで、ハプニング的に録れた音を作品に活かした、と。

関口:レコーディングしているときでも、偶然生まれたいいテイクを使ったりするのが好きなので、今回のトラックもそういうふうに作っていきました。

――ナカコーさんは青森の農林水産業の音から音楽を作られたわけですが、集音にはどのくらいの期間をかけたんでしょうか?

ナカコー:僕の場合は1か所じゃなくて、1泊2日かけて青森をあちこち移動しました。長いところでは1時間以上かけたエリアもあります。

安藤:渋谷とは違って、「農林水産の音を集める」というテーマがありましたから、県庁さんに集音に適した場所を数十か所ほど選んでいただき、さらにこちらで厳選させていただいたんです。

――その中で「1番時間をかけた場所」は、どこだったんでしょうか?

ナカコー:弘前市の青果市場ですね。

安藤:すごかったですよね。朝早かったですけど、一気に目が覚めました。僕からは音を集めているナカコーさんがなんだか喜んでいるように見えました。

ナカコー:リンゴの競りですよね。膨大な量のりんごがあって、そこでおじさんたちが競りをしている。僕は青森出身ですけど、独特な言い回しで何を言っているのかわからないんですよ。でも、みんな声が良くて。「いい声だな」と思いながら、ずーっと録っていました。

この青果市場だけじゃなく、青森はどこもイレギュラーというか、普段の日常とは全然違う場所での収録でした。テレビでは観たことがある場所もありましたけど、実際に行ってみるとこんなに違うんだっていう発見がありましたね。

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――それで言うと、普段からよく知っている渋谷でも、実際に街を歩く中で発見できたことはありましたか?

荘子it:僕は平日の夜だったせいか、海外の人の声がいっぱい入っていました。これだけ聴くと、日本の街の音っていう感じがしない。かなりカオティックで、抽象的な“国際都市の音”と言ったほうがイメージとして近かったんです。トラックを作るときには、そこから“渋谷の音”らしさをいかに出していくかと考えました。

ermhoi:私はあえて朝を選びました。渋谷は夜のイメージがあったから、そのほうが面白い音が集められるかなって。出勤ラッシュに遭遇したかったんですよ。それで実際に音を聴いてみたら、想像していたよりもはるかに足音が多かったんです。びっくりするくらいの数で、かなり興奮しました。

関口:これは偶然ですけど、僕は雨が降ったことがいい影響を与えてくれたと思います。街の表情が変わるので、みなさんと違う音を集めることができてラッキーだったかなと。

――集音した素材から、どのくらいの分量を完成したトラックに使ったのでしょうか?

荘子it:僕は貧乏性なので、集めた音はほぼ無駄なく使っています。

ermhoi:私は結局、8曲作りました。

荘子it:えっ、1曲じゃないの!? オレより貧乏性(笑)。

ermhoi:あちこち移動しながら集音したんですけど、ほぼ切らずに通しで使っている音もあれば、切り刻んで使っている音もあったり、いろいろなかたちで使っています。どれも聞き返すと思い入れがあって、捨てられなかったんですよね。そしたら、8曲になっちゃった(笑)。

安藤:僕も完成したものを聴いてびっくりしました。それぞれの場所で録った音を使った曲がそろっているという感じです。「朝の渋谷」のアルバムを作っていただきました(笑)。

関口:僕は逆にほとんど切ってしまったと思います(笑)。集めた音から「いいな」と感じたところだけ抜き出して曲に入れました。

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ナカコー:僕は集めた音のファイルをそのままサンプラーに入れて、それを演奏したものを録音するという方法で作りました。だから、どこの音をどのくらい使ったかというのは、わからなくなっています。

――「THIS SOUNDS GOOD?展 #渋谷x都市 #青森x農林水産業 」でも展示されるMV(ミュージック・ビデオ)ですが、みなさんも観るのは今日が初めてとのこと。それぞれかなり印象が違いますね。特に荘子itさんとermhoiさんは渋谷駅周辺で集音している様子が映っており、歩いたエリアもかなり近かった。しかし、朝と夜の違いがあることで、映像と音楽から受ける印象は同じ街とは思えないほど違っています。

荘子it:僕は渋谷のカオスな感じを出したかったので、できるだけ短い時間に情報量を圧縮して入れました。通行人の声も海外の人が多かったので、ビートもそれに合わせてヒップホップ的なものにしています。

ermhoi:私は8曲それぞれで曲調を変え、サンプリングの仕方も変えていきました。自分としても「こういう方法があるんだな」っていう学びにもなったので、すごく楽しい作業でした。MVはダイジェストなのでわかりにくいかもしれませんが、時間がある方は全曲通しで聴いてみてください(笑)。

関口:渋谷によく行っていたのは10年くらい前で、今は騒がしくない場所のほうが好きだから、僕の場合はお二人とは違った場所での集音が多かったですね。

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座談会会場にて初めて、会場でも展示されるMVを鑑賞


――神社で集音している光景が印象的でしたね。渋谷の街の違った一面を引き出していました。

関口:でも、今、二人のMVを観たら、「そこ録りたいよね!」って気持ちがすごくわかりました(笑)。自分も同じエリアを歩いていたら、似たような場所にマイクを向けたくなると思います。

――街のどこにマイクを向けているかという意味でも、まさにアーティストならではの視点が垣間見える映像でした。

安藤:ちなみに、アーティストの視点を大切にするため、こちらから時間の指定などはしていないのですが、渋谷は3人ともたまたまバラバラでした。撮れ高がそれぞれ違っているので、映像もそれに合わせてテイストを変えているんですよ。関口さんはあえてノイジーじゃない映像にしたりと、ちょっとずつ工夫しています。

――青森は青森で渋谷とはまたガラッと違った雰囲気のMVになっていましたね。

ナカコー:自分のMVはほとんどの人が見たことがないような世界を映しているから、この映像を見てもらえるだけでもありがたいですね。

安藤:特に2日目は雪も降って寒かったですけど、林業のシーンで木が切り倒されたときの音なんて、木が雪に跳ねる響きがいい感じになっていました。

ナカコー:集音しているときは緊張しました。失敗が許されない現場ですから。何本も切ってもらうのは心苦しいじゃないですか。これは競りもそうでしたけど、青森の現場は全部1発勝負でしたね。その緊張感は音にも出ているかもしれません。

――みなさん、集音する前から作りたい音楽のイメージは固まっていたのでしょうか?

荘子it:サンプリングで曲を作る以上は、事前にイメージがあったとしても、作っていくうちに崩されていきますね。想定外の雑音がいっぱい入っているから、それに身を任せているうちに最初のプランから外れていきます。これはその過程を楽しむ作り方とも言えます。

ナカコー:自分も特にイメージを決めていたわけじゃなくて、サンプラーに素材を入れてから考えようってところからスタートしました。そこから何回か演奏して良いテイクを録り、それを何本も重ねていきながら、「これだったら曲になるかな」とまとめていく。そういう作り方でした。

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――まさに演奏しながら形にしていったと。

ナカコー:そうですね。そのうえで木が倒れる音みたいな、映像的にも使える印象的な音を入れていき、全体のバランスをとってお渡ししました。

ermhoi:さっきも言ったように、私は素材に合わせて曲調も変えていきました。工事現場の音だったら、そこに存在しているリズムを抽出して、シンセドラムで叩かせるとか。環境音だったらサウンドスケープみたいにそのまま流すとか。やれることを全部やりました。だから、こんなに数が増えちゃった(笑)。

関口:僕はみなさんとは違って、自分が普段から作っているようなインスト曲に使える素材を探しに行った感覚のほうが強かったかもしれません。わりとイメージが先行していました。

――そこもアーティストによって微妙に違いがあるのが面白いです。これから今回の音楽や映像に触れる人たちに向け、「ここに注目してほしい」というリクエストはありますか?

荘子it:僕は1回、映像なしで音楽だけで聴いてみてほしいかな。視覚っていうのは強いので、映像を観ちゃうと印象が具体的になってしまう。音だけを聴いて、どんな風景の音か想像してもらってから、映像と合わせて聴いたときの違いを楽しむっていうのはあると思います。

ermhoi:「これはあの場所の音かな?」っていうのは、音楽を作った本人には体験できないんですよね。音だけを聴くっていうのは、初めて聴く人にしかできない楽しみ方だから、ぜひやってみてほしいです。

関口:僕はいつも作っているインスト曲に近いものにしているので、みなさんが普段聴いているタイプの音楽にも、環境音はこういうふうに合うんだっていう発見を楽しんでほしいです。トラックメイカーが自分のiPhoneで録音した環境音を使うみたいな手法は、今は世界中のアーティストがやっていることですから、これが“音”そのものを楽しむことへの入り口になってくれたらうれしいです。

ナカコー:僕は集めた音そのものも面白かったですけど、自分自身も知らないし普段は入れない場所に行くことができたから、「こういう世界もあるんだよ」っていうところを、まず楽しんでもらえたらいいかなと思います。

――最後に安藤さんにお聞きします。新型コロナウイルスの影響により日程延期になった展示を、今回いよいよ開催することになりました。現時点ではどのような展示を考えてらっしゃいますか?

安藤:この4名のアーティストに集めていただいた音は全部で70種類くらいあるんですよ。それが一気に聴けるというカオスな体験は、展示会じゃないとできない。映像に加えて写真も展示することで、これが“渋谷の音”だ、これが“青森の音”だ、ということを体感できるようになります。会期を延期してでもリアルな展示の形でやりたかったのは、これが理由です。

楽しみ方は自由でいいと思っています。写真から気になる音を聴いてもらってもいいし、映像をずっと観てもらってもいい。思い思いの方法で、ここでしかあり得なかったコラボレーションを楽しんでもらいたいと思っています。


取材・文:小山田裕哉 撮影:鈴木大喜


■THIS SOUNDS GOOD?展 #渋谷x都市 #青森x農林水産業 開催概要

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開催日 : 2020年10月22日 (木) – 10月28日 (水) 11:00 – 20:00
会場 : CAELUM GALERIA (HOXTON STUDIO) https://hoxton.jp/studio/caelumgaleria
入場料 : 無料
主催 : SOUNDS GOOD®
特別協賛 : 青森県
参加アーティスト :
 #渋谷x都市 荘子it (Dos Monos) / ermhoi (Black Boboi) / 関口シンゴ (Ovall)   #青森x農林水産業 ナカコー
※今後、状況に応じてイベントの中止や変更などが発生する場合がございます。実施に関する詳細に関しましては、ご来場前にSOUNDS GOOD®のSNSから最新の情報をご覧いただきますようお願いいたします。
Twitter : https://twitter.com/soundsgoodlabel
Instagram : https://www.instagram.com/sounds.good.label/

当展示に関するプレスリリースも合わせてご覧ください。





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