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ロスパンの教科書の制作にあたって

※ ロスパンの教科書についてのお話です。
https://rebake.me/blogs/news/986

6年前、rebakeのサービスを開始する際に多くのパン屋さんにお邪魔して日々のロスの話を伺いました。

店舗の方の考えは千差万別でしたが、ロスに対する様々な想いや関心は有りました。

一方で、社会的にはまだまだ関心が高まっているトピックではありませんでした。

当時はまだ、SDGsや食品ロスといった言葉がコンビニの店頭に並ぶほどの市民権を得ていなかった時代です。

ロスの発生は、自己否定をされているのと同じ

ある店主の方は言いました。

「ロスは本当に嫌な気持ちになる。材料も製法も研究し、何より心を込めて最高のものを作っているのに食べてもらえないなんて自己否定をされているみたいだよね。」

確かに、様々な工夫を凝らすのはもちろん朝から晩までパンと向き合い、文字通り人生の大半をかけた作品であるパンを食べてもらえないということは、自己否定と感じるに違いありません。

個人的な関心は食品ロスの削減にありました。

食品ロスの問題の軽減や解決こそが、私たちが取り組むものだと思っていました。

一方で、食品ロスを減らすという行為は売上を減らすことにつながり、またそれは人の食い扶持を減らすことにつながるのではないか。そんな疑問を持っていました。

しかし話を聞いていくうちに、売上を減らさずに食品ロスを減らす方法があれば、自己否定をなくすことができ、ロスを無くすこと自体が人を幸せにする可能性があるのかもしれない。

またそのような仕組みの存在は、食品ロスを減らすということ以上に人間に価値のあるものになるのではないか。

そういう風に思うようになりました。

そんな考えの下に試行錯誤を重ねた末に、rebakeは生まれました。

「食品ロスがあるということを知られたくない」

サービスを開始するにあたり、たくさんの店舗の方に連絡をさせていただきました。

興味を持っていただいた方が少なかったのは、自分たちの実力が不足していたので仕方がありません。

けれど、食品ロスに悩んでいるという話を事前に聞いていた方からも、色良い返事は聞かれませんでした。

「んーーーちょっとなぁーーー。今は忙しいからまたね。」

大人のまたねは近未来ではないということは、当時の甘々な自分でもさすがにわかっていました。

様々な方とお話をすると「食品ロスがあるということを知られたくない」ということを、ほとんどの店主が思っているということがわかりました。

ロスを減らしたいという想いは多くの方が持っているものの、同時に知られたくないという思いも少しある。そんな状態でした。

それでも、何人かの方にご一緒していただけると手を挙げていただきました。

そういった方の協力のおかげで、サービスは一応開始することができました。確か最初は5店舗だったと思います。

この時にご一緒していただいた方には本当に感謝で頭が上がりません。

そこからは、少しずつお店にお声がけをしてご一緒していただける方々を探していきました。

それでも変わらず、

「余っていることを知られたくない。」,「焼いてから時間がたったパンをお出しするのは申し訳ない。」,「ロスになるものを食べてもらうなんてとんでもない。」,「うーんいいことやってるけど今はいらないかな。」

そんなお声を多くいただくことは続いていました。


ロスパンが発生する仕組みを理解してもらうことは難しかった。

他方、rebakeを開始してからはパンの購入者の方からのメッセージやお声も多数いただくようになりました。

勇気を出してくれた店舗の方のご支援で開始したrebakeですが、初めは至らないところばかりだったのでサービスに対して厳しい意見を多くいただきました。

同時にロスパンに関するお言葉も多くいただきました。

「捨てるはずのパンなのにそれでお金儲けをするの?」,

「捨てるくらいなら寄付すればいいのに。」,

「世界には飢餓で苦しむ人がいるのに作って食べずに捨てるってどういうこと?」


それについては、もっと自分たちが説明をすればよいと思っていましたが、なかなかそういった部分には手が回りませんでした。

中には、そんなお声をお店に直接言う方もいらっしゃいました。

そして、ロスパンに関する私達の説明が不足しているとお叱りを何度もいただきました。

確かに、私たちの説明は足り無かったんだと思います。

昔よりそういったお声は減ったとはいえ、まだ足りていないというのは、rebakeのことを説明するたびに感じます。

全国の善良なパン好きの方はロスについて知る機会が無いのはもちろんですが、知らせる人はいないからです。

私たちは売上で運営しているため、「食品ロスへの関心の向上」ということにお金や時間を無限にかけることはできません。

しかしここ数年は社会も少しづつ変わり、行政機関が音頭を取り様々な取り組みをしてくれています。

そのおかげで食品ロスに対する社会の意識は大きく変わりました。コロナウイルスが蔓延した際の飲食店への関心の増大もありました。

今では、当初たくさんいらっしゃった「ロスは隠すものだ」ということを100%心から思っている方は非常に減ったと思います。

ただ、それでも一般に食品ロスは気にするべきものだということは伝わりましたが、それがどういう背景で起こるのかということを知る機会はほとんど無いように感じています。



多くの仲間の力によって、今ならロスパンについての発信が可能になりました

そして、私たちの状況もちょっとだけ変わりました。

当初5店舗しかいなかった協力いただける方々が、1000店舗を超え、日本のパン屋さんの10%以上が仲間となっています。

私たちがとてもじゃないけど出来なかった「食品ロスへの関心の向上」の発信が今、知っている方に協力をお願いすることで出来るかもしれないと思いました。

それで、このロスパンの教科書を作りました。

店舗の方が面と向かって言うことはできない問題も、私たちなら出来るのではないかと思いました。知り合いの店舗の方が増えたので、お店に来た方に何かを伝える手助けくらいは出来るのではないかと思いました。

いくつかの仲間であるお店に協力をお願いしました。「ロスパンのことを伝える本を作りたい」と。

今では、そういったことに前のめりで協力してくれる方がたくさんいます。

快諾してくれた方はすぐに実際に思っていることを伝えてくれて、それを本に書きました。

パン好きの皆様にも協力をお願いしました。

簡単なアンケートを作り、ロスパンに対する考えを募集しました。

すぐに数百件の回答が集まりました。

それを本に書きました。

そうしてできたのが、このロスパンの教科書です。


小学生でも、大人でも、誰でも簡単に短時間で読めるよう簡潔に、私たちが知っているロスパンの現状をまとめました。

短くても、そこにはたくさんの情報が詰まっています。

そして、「ロスを出す人は作りすぎ」ということでなく、私たちの選択の結果だということを書きました。

他にも、実際のパン好きの声とパン屋さんの声と、それに店頭での1日がどんな様子かがわかる動画も入れました。

手間をかけて一生懸命作りました。


これで何かが変わるとはまったく思っていませんが、

私たちを信じかかわってくれた皆様がいるということは、6年前と少し変わったことだと感じました。


そして、冊子をほぼ無料で配布出来るっていうこともちょっと変わったことだと思います。これも、いくつかの企業の方の共感していただき実現することができました。ありがとうございました。(企業様はこちら)

この先も同様に、何かが変わったなぁと感じる瞬間が来るかもしれません。今は変わるとは思っていないけど。

未来を見て過度な希望は持っていませんが、これからも取り組み続け、振り返った時に何かが変わるきっかけだったな、と思えるようにしたいと思っています。

一人でも、多くの方に手に取っていただければと思っています。

是非、見てみてください。

ロスパンの教科書についての詳細はこちらです

一緒に配布いただける方や、興味がある団体の方のご連絡先はこちら>>