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プロ野球選手が衰えるとき

選手が衰えていくのは、徐々に緩やかにいく場合と、ある日急に今までできていたことができなくなるパターンの2つがあるのではないか。

今年引退を決めた亀井は開幕戦で三嶋からサヨナラホームランを打って「今年一番の当たり」と笑わせたけど、本当にそうなった。速い球についていけなくなってたので本人の報告以前にすでに新聞辞令では引退が囁かれていた。故障も多かったし仕方ないところだろう。この感じは阪神の糸井にもある。先日のCSで代打で出てきた糸井は巨人投手の速球にまったく合わなかった。振り遅れていた。あれだと何回振ってもスタンドには届かないだろう。ベテランはまず速い球についていけなくなる、それを証明しているシーンだった。古い話で恐縮だけどヤクルトで引退した鈴木健の引退試合の打席、なんとか打たせてやろうと投手は半速球を投げ続けるのだが、全部振り遅れてファールになる。前に飛ばない。何球も粘ってようやく前に飛んだシーンを思い出すが、あれも「ベテラン打者の最後は悲しいなぁ」と思ったものだった。

さてこの人の場合はどうだろうか。突然衰えたパターンに思えるのだが。

以前にも書いたが、僕は小林誠司という巨人の捕手のプレーが好きだった。YouTubeにもいくらでも転がっているバズーカ肩、微妙なコースをストライクに変えるフレーミング技術、見ててうっとりするプレーの連続だったからだ。打撃は良くて2割2分から3分そこそこ。しかし守備での貢献の凄さがその貧打をカバーしていたと言っても過言ではないだろう。その小林に異変が起きたのが2020年春。

開幕でいきなり骨折した。そこから長い期間かかって帰ってきたときにはもう昔のキレがなくなっていた。平凡なキャッチャーフライを落とす、見せ場の盗塁阻止のシーンでボールをこぼす、そんなシーンが増えていた。その後も怪我に悩まされ、原監督から「試合に出れないのなら野球選手ではないね」と酷評される始末だった。心機一転2021年は会心のシーズンになるはずだったが様子がおかしかった。

盗塁阻止はもちろん、バントを素早く拾って足の速い選手を2塁で封殺したり、帰塁が遅いランナーを刺したり、といった小林らしいシーンもあるのだが、それ以上にミスが目立つシーズンとなった。パスボールの多さ、サイン違いだろうけど信じられない逸らし方をしたこともあった。打撃ももともと良くないがとにかくヒットが打てず打率は1割を切った。要は10回打席に立っても1本打てないということだ。さらに送りバントもできずに小フライを打ち上げたこともある。四球も選べない。一言で言うと「いいところがない」状態になってしまったのだ。

イップスという言葉がある。今までできてたことができなくなる。どうやって投げたり打ったりしていいのかまったくわからなくなる。精神的なものだ。いまの小林を見てるとそのイップスになったのではないかと思うくらい集中力を欠いたプレーが続き、思わず目を背けたくなった。極めつけはCSでのあるプレー。この試合で小林はマルテの盗塁(エンドラン?)を見抜き、ウエストして見事に2塁で刺した。それだけ見てるとああ昔の小林だと思えるけど、この試合で彼は阪神の坂本を三振に取ったときにまだ2死なのにベンチに帰ってしまった。解説者は「苦手の打者から見事に三振をとって自分に酔ったんでしょ」と言われたが僕は単純に「ああ集中力ないな」と感じた。いわゆる「うろがきた」ように見えた。勝ったからそこまで問題にならなかったけど、あのシーンに小林の捕手としての衰えを感じた。そしてバントでランナーを送れずキャッチャーフライを打ち上げた。うまく言えないけど、ああ終わったなと感じた。

続いてCSでのヤクルト戦。山口の外角のボールを片手で取りに行ってまたパスボール。ランナーが2塁どころか3塁までおとしいれる大きなミスとなった。解説の古田が「これが盗塁阻止のシーンなら僕も片手でワンバウンドを取りにいくこともあるが、このボールで打者はフォアボールなのになぜこんな軽率なプレーをするのか」と首をかしげた。僕はあの2死でベンチに帰ろうとしたシーンを思い出し慄然とした。ボールカウントもわからなくなったのではないかと。まさかとは思うが。結果的に満塁までいきなんとか抑えたが、この回で原監督は小林をはずした。もう使われることがないのではないかと思えるくらい冷徹な懲罰的な交代だった。

まだ32歳。老け込むには早いし、キャッチャーというのはベテランになればなるほど味も出てくるポジションなのでまだ活躍の場はあるはずだが、こうも精彩を欠いたプレーを見せられると来年に期待できないし、もしもイップスだとすると本人も自信をなくしているだろうから引退もありえるなと思えた。僕がいま小林に言えるのは指名打者制度のあるパリーグへの移籍を直訴した方がいいと思う。そして捕手としての試合勘や緊張感や集中力がなくなっている原因が、いまの原監督の起用法にあるのであれば、正捕手でいけそうなチームに絞ること。そうすればあと5年はやれるのではないかと思うんだ。

小林のあの肩、キャッチング、インサイドワークの妙技をまた見れるのであれば別に巨人にこだわる必要はないと思う。来年も原監督は続投するので小林が今以上に出場できることはもうない。打てないキャッチャーに興味がない上に、守備も怪しくなってきた元ドラ1のベテラン捕手に来年はもっと厳しい風が吹くことは間違いないからだ。僕は彼の名を惜しみ、最後の一花を割かせる場所が与えられないことを惜しむ。まだやれる、というところを見せてほしい。そう願ってやまない。

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