第60回 短歌研究新人賞予選通過作『謝肉祭』

この時点で作者としての気づきも多々ありますが、感想などいただけるとありがたいです。(※印が掲載2首になります)

謝肉祭
火のことを言いたてるなら真冬日よ口内炎を引き受けてくれ
※会社には力こぶなど無用だがお稲荷様が屋上にいる
バス停の冬紫なたてがみに洗わない手で触れてしまった
皮だけを見てはいけないきっとあるアヒルもメロンパンも心の臓
※最近はバスまで角が丸くなり船の幼虫と見まちがう
モラハラも含めて僕は得意だが同期の彼は卵も産める
「相部屋でお願いします死人さんは眠るととてもお静かですし」
ひだまりはたぶん革命広場での公開処刑時にもふんだんに
煮崩れてゆくことでしょう座ってたばあちゃんいなくなって籐椅子
放課後の渡り廊下にいるような雰囲気だして手紙は読むな
まんなかがやや下がってもやさしさでテニスネットを許す人たち
ひょっとしていちど綺麗にたたまれて仕舞われていた秋口ですか
白いもの探しあぐねて幸福のしるしに入道雲に「アレ」って
背泳ぎの反復動作の切り取りで意見のあるひと手をあげなさい
夏休み搭載型の絵日記の詩と死と雨がまだ乾かない
くちびるの感覚だけで例えたら夕立あとの虹はくちびる
玄関だ置きっぱなしだビーサンだ おまえ最近、歯をみがいたか
戦うにしたって僕は素手だから準備できるの箸箱ぐらい
驚いた夏へいざなう約束はクニ、ウミ、ソラがすべて真っ青
ハツナツが僕の家にもやってくる停滞気味のウェブ経由で
仕事なら嘘の祈りも通じると言葉尻から音符は出せる
花籠に雨にまみれたちらし寿司 持ってあなたと行く謝肉祭
見上げればあなたのひとり舞台だがカンペは僕が出しているのだ
詩に酔うとうまく踏み分けられなくてグレーに見えるゼブラゾーンが
本当の昭和色したテラスでは働きバチが死んでいました
猫舌がくちびる付きで語るには今年の桜は火傷するとか
指先を切ったぶんだけ空にいる見ための月に擦り込むけれど
手探りがいちばん効率いいようで目を瞑るのはあなたが悪い
春だけど殺風景な地平ならお多福豆を転がすべきだ
ありがとう。僕の血肉になってゆくあなたが出したつまらないもの

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