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夏川椎菜「ログライン」誰得レビュー


※これは2019年4月にツイロンで書いたものを転載したものです。


ログラインとは、物語の内容を要約した短文のこと。


“いい子でいたいだけのボクが
ワガママを覚えてジシンをみつける物語”

というわけで、夏川椎菜さんの1stアルバム、「ログライン」の全曲誰得レビューを書いていきます。120%主観だけです。ご本人が語る「ログライン」についてはナタリーなどでインタビューを読んでみてください。(https://natalie.mu/music/pp/natsukawashiina)
それでは。

1.パレイド
夏川ワールドの始まり。「グレープフルーツムーン」や「フワリ、コロリ、カラン、コロン」でいろんなことを試してきて、その中でもこれだ!!って思ったものを打ち込みました、みたいな3rdシングル。ナンちゃんが歌うワタナベハジメさん作詞の歌はハズレがない。静かに始まるAメロ、自分のどうしようもなさをぽつりぽつりと俯いてこぼすように歌うBメロを経て、感情を振り絞った叫びみたいなサビが突き刺してくる。忘れたふりをしてきた弱い自分のことを思い出させてくるけど、それでも歩き続けることを肯定してくれる、そんな歌。
MVがとっても良いです。雨の夜の遊園地のきらきらは眩しい。あとTrySailの2ndツアーのBDに、ライブのソロコーナーで披露した映像があるので、ぜひナンちゃんが歌っている映像を観てほしい。


2.ステテクレバー
ナンちゃん作詞曲。
本当にナンちゃん?!ってびっくりするくらい攻撃的な言葉を捲したてるような歌い方。ナンちゃんの中にこんなものが隠れていたのかと思うと震えるし、その一端に少し触れられたことにぐっと来る。斜に構えて社会もみんなも見下して、でも皮肉ってるだけなんじゃなくて、自分が生きたい方向への舵を手放さない強さの曲。


3.ナイモノバカリ
2ndシングルのカップリング。ワタナベハジメさん作詞。自分が持ってないものをたくさん挙げ連ねて、ここにないなら探しに行こう!という曲。もうすでにステキな持ち物をたくさん持ってるのにな……とオタクはちょっぴりさみしくなる。それでも、いきいきわくわくと新しいものを探しに行くのならそれはきっとナンちゃんにとって楽しいことなんだろうなあ。
何がかわいいって、「かっこいい」という言葉を「かっくいい」と歌っているところ。きゅんってなる。


4.イエローフラッグ
これもまたワタナベハジメさん作詞。ステテクレバーに負けないくらいなかなか攻撃的な歌。やさぐれてるようなステテクレバーよりも、こっちは反発、反骨、抵抗が大きな柱。同調圧力と真っ正面から戦ってやるぜ、っていう真っ直ぐさがかっこいいしどこまでもついて行きたくなる。いつものナンちゃんからは想像がつかないような強気な言葉を捲したてるサビが爽快。弱くなりそうな気持ちを奮い立たせてくれる歌です。ライブではメガホン?で歌って欲しいし、グッズにフラッグが欲しいです。黄色いの。


5.gravity
1stシングルのカップリング。
とってもかわいい。ただただかわいい。重力という意味のタイトルなのに、歌詞の雰囲気がとてもふわふわしてる。でもそこにぐっと惹きつけられるんですよね。これぞまさにグラビテーション。サビの入りの「ねえもっと 引き寄せて!」が可愛すぎて毎回天井を仰ぐ。
どうしてナンちゃんは一人称がボクの曲がこんなにも似合うんだろうか。


6.キミトグライド
ワタナベハジメさん作詞の歌はハズレがない。聴くと泣いちゃうから迂闊に外で聴けない曲(当社比)。
たんぽぽの綿毛をふっと浮かべる風みたいな柔らかい声で歌われているのに(ナンちゃんはこんな声も出るんだね)、歌詞に滲み出るのは、あの日無力だった自分のことを見つめて、叶えられなかった願いを惜しむ気持ちだし、そのときの痛みや激情を胸に抱えて生きているような寂寥感。
全部を捨てて嘘をついて無茶をしてまで、守りたかったものは何なんだろうね。想像の余地はたくさんあるし、きっと誰しも少しは思い当たることはあるのかもしれないし、思い当たる、という時点でそれはもう手の届かないことなんだよなあ、と泣きそうになる。Bメロ終わりで、B♭ A G F E……と音が下がっていくんだけど、そのせいで、2番の「さよならできない 今は」というフレーズに、もう手を離さなきゃいけないけど、あと少しだけ、と希う気持ちが強く表れているようで、やっぱり泣いてしまう。


7.フワリ、コロリ、カラン、コロン
2ndシングル。明るくポップなEDM。歌詞の韻の踏み方がすごく綺麗。言葉がまるい音になって降ってくる感じがする。アルバムの中では、前曲のキミトグライドで過去に引っ張られた気持ちをきちんとここに引き戻してくれるという、結構大事な役割をしている曲だと思います。


8.Daisy Days
1stシングルのカップリング。アルバム用にremixされていて、ブラスの音が華やかになってます。
決断はすぱっとしたい、強気にいきたい、大人になりたい、できることならいつも明るくいたい、だけどなかなかそうばかりではいられないなあ、という気持ちを明るく歌ってくれてます。そんないろいろある日々をナンちゃんは愛しているんだなーってのが伝わってくる曲です。


9.チアミーチアユー
ナンちゃん作詞曲。タイトル通りの応援歌。
「トガった方がオモテに出てなきゃ」「ムチャできないほどダイジなジジョウもないでしょ?」と煽りに煽ってくれます。でもタイトルを見るに、そうやって自分自身のことも鼓舞しながら、聴いてるわたしたちを応援してくれて、尚且つ“応援ください!”ってことだとすると、早くライブでぶち上がりたくてたまらないです。
ライブのコールがあるみたいなので詳しくは夏川椎菜さんのアメブロをどうぞ。

10.シマエバイイ
フワコロが陽のEDMなら、こっちは陰のEDM。バッキバキに低音効いてておしゃれ。でも歌詞がなんかこう、ぐさぐさ刺してきて苦しくなる……。とにかく後ろ向き。過去も現在も未来もぜんぶ破り捨ててしまいたいって叫んでる。どこにも救いがない。でもサウンドがおしゃれなのでついつい聴いちゃう。

11.ラブリルブラ
3rdシングルのカップリング。ちょっと不思議なナンちゃんの声が楽しめます。
この曲単体で聴いても、不思議な世界観の中のドタバタ劇が思い描けて楽しいんですけど、パレイドのカップリングだったことを念頭に置くとまた別の風景が浮かび上がってくる気がします。どっちにせよ、いろんな想いをぎゅっと抱える女の子を夜のパレードに連れ出す明るいサウンドが、おもちゃ箱をひっくり返したみたいに広がるので、聴いててわくわくしちゃうし、何もなくてもなんとなく口ずさんじゃう。


12.グレープフルーツムーン
1stアルバムの最後から2曲めが1stシングル。これだけでドラマチックが溢れてる。こちらもアルバム用にremixされていて、こっちはストリングスがより厚くなって、ボーカルを包んでいるかんじ。歌詞も改めてじっくり噛みしめると、これだけで短編小説みたいで、情景描写の細やかさがすごい。今のナンちゃんが歌うグレープフルーツムーンをライブで聴きたいですね。


13.ファーストプロット
満を持してのリード曲。ナンちゃん作詞。
ログラインというタイトルのアルバムの最後にこの曲が置かれている意味はとっても強い。すべてがきちんと繋がって、1つのお話の筋になっていく。初めてのアルバムなのに整いすぎではないか……と感嘆してしまう。おまけにファーストプロットは、パレイドのアンサーなのではないかと言った人がいたそうなんだけど、そう踏まえて歌詞を噛み締めるとまた、胸が締め付けられる。
わたしたちは、夏川椎菜さんという人間のことを、メディアに出てること以上のことは知らないんだけど、この曲のような、ナンちゃんの作詞曲にはきっと、本来ならわたしたちには見せないはずのものが隠れていて、それに触れるたびにオタクはおろおろと勝手に、例えばナンちゃんのこれまでのことに想いを馳せたり、はたまた過剰に歌詞に感情移入して、自分の気持ちを照らしてもらえた気持ちになってみたりするんですけど、ナンちゃんはそんな様子のわたしたちのことも笑って、この先の、物語の続きへと連れて行ってくれるんだろな、と思わせてくれる曲です。
そして何よりMVがすごい。あんまりネタバレしちゃうとあれなんですけど、出来るだけこれまでのシングルのMVを観てから視聴してほしいなと思います。


---アルバムを通して思ったこと
たぶん、私はナンちゃんの楽曲そのものや、さらにその詞を書いたり、歌ったりしたナンちゃん自身にめちゃくちゃ重たい感情を持っているし、勝手に歌詞の内容を自分に強く引き寄せて泣いたりしている自覚はあるんですけど、そういうの抜きにしても、アルバム全曲通していろんなことを想わせる余地がある作品だなあと思います。声優さんの楽曲なのに、たぶん声そのものの力よりも、言葉の力のほうが強いようにすら思う。なんなら声自体も、言葉に力を与えるための手段であって、それゆえか、アルバムを聴き終えたあと、なんとなく、小説を1冊読み終えたような気持ちになったりもした。 これをナンちゃんがどこまで自覚しているのかは未知数なんですけど、秋から始まるワンマンツアーのタイトルが、物語の転換点を意味する「プロットポイント」であることを思うと、たぶんこう感じたことはあながち間違いではないと思う。
転換点の先で、どんな物語が待っているのか。ストーリーテラー夏川椎菜さんの後を、オタクは迷わず着いていくのでした。

つづく

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