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パレイドとわたし

 2018年7月18日、声優・夏川椎菜さんが「パレイド」という楽曲をリリースした。それ以前にもそれ以降にも、夏川さんは素晴らしい楽曲をたくさん出しているのだが、殊に「パレイド」はもはやわたしの人生のプロットポイント といってもいいくらい、わたしにとって意味の大きい楽曲になっている。そのことをこれを機に書いてみようと思う。

 2018年のわたしは、ほぼ生ける屍だった。ちょうどその半年ほど前に、うつ病の診断を受けていたのだ。
 仕事をしている時は必死でどうにか普通に振る舞えても、家に帰ると涙が止まらないし、夜は泥のように疲れていても薬がないと眠ることができないし、朝、これから家を出て普通の顔で仕事をしなきゃいけないと思うと絶望的な気持ちになったりして、人生罰ゲームすぎない?早く上がらせてくれ!という気持ちでいっぱいいっぱいだった。
 この状態になぜ至ったのかというのは詳細に話すと長くなるのだが、ありていに言えば自分の母子関係や、子ども時代の経験をきちんと整理出来ていないまま大人になって、その上相談支援の仕事(その当時は児童養護施設で、心理療法担当の職員をしていた)をしていて、結局、傷ついた自分の傷を放ったまま、見ないまま、人の世話を焼いてまわってたツケが回ったというところだった。
 目に見えて誰かの役に立ててないと生きる価値がないと思ってた(今も少なからずその気持ちはある)し、自分みたいな経験(虐待とか、いじめとか、発達の問題とか)をしてる人はごまんといて、それでも普通に生きてる人がたくさんいるんだから、わたしがそのことに囚われているのは甘えなんだと強く思い込んでいた(もちろん、臨床家としてのわたしはそう思わない。でもその考えをきちんと自分にも当てはめることはとても難しいのだ)。
 困ってる人を支える仕事がしたいと思ってたわたしは、その実、自分のことはまったく救えてなくて、それが恥ずかしくて情けなかった。

 アニメも音楽も大好きだったけど、自分で進んで調べて観るということがあまりできなくなった。そんな受け身な状態だった時に、TrySailの2ndツアーに悪友が誘ってくれた。
 TrySailのライブは行ったことなかったけど、好きだったし曲もまあまあ知ってたから誘いに乗ることにした。わたしが行ったのは名古屋公演だったのだけど、先に他の地方の公演を観ていた悪友から「ナンスの新曲がすごく良い。今一番きゅーたに聴いてほしい」と言っていた。気にはなったけど、でも日によってソロ曲も変わるし、そんな上手いこと聴けるかわからないから、あまり期待しないことにした。

 ライブはとても楽しかった。たまに「こんなに楽しい思いをして大丈夫なのかな……」と明後日の方向にネガティブになる自分の思考を引き戻しながら、3人が歌ったり踊ったりしているのを観ていたら自然と笑顔になれた。
 ソロコーナーになって、夏川さんがイントロなしで歌い出した曲は、私の頭の中のデータベースにはなくて、「あ、これか」と思って身構えた。
今、刺さった歌詞を挙げようと思ったけど、どのラインも刺さりすぎて、初めて聴いたその日は途中からペンライトを振ることも忘れて、ただ呆然と観ていた。自分の中の感情の、一番ぐちゃぐいゃな、自分でももう、それが怒りなのか悲しみなのかわからないくらいぎゅうぎゅうに押し込んであるところに、ざっくりと切り込まれたような気持ちだった。
 そのライブから実際に音源が発売されるまでは、少し期間が空くのだけど、ステージの上で、スカートの裾を握りしめて歌う夏川さんの姿がいつまでも消えなくて、困った。早くフル音源で聴きたかったけど、全部聴いて正気を保てるのか不安しかなかった。

 CDが届いた日、それを、自分が持ってる中で一番いい有線のイヤホンで聴いた。オタクにありがちな感情なのかもしれないけど、歌詞のどのラインも、その時の自分の気持ちを言い当てているようで、涙が止まらなかった。


 なんでもないことにしておきたくて、直視しないようにしていたいのに、それで揺らがずにいられるほど強くなくて、情けなくて、それでも誰かの役に立ちたい。自分のことすらままならないくせに、そんなことを思っていて、そんな自分は滑稽でやってられないとも思っていた。でもパレイドは、そんなわたしの背中を支えてくれた。背中を押したり慰めたりするのとは少し違って、めそめそしながらでも歩いていくことをそっと見守るような距離感で。
 そのことに、わたしは心底救われたのだ。

 あれから2年、働きながら病院に通ったり、カウンセリングを受けたりして、今はあの頃よりはだいぶマシな精神状態で生きていられている。忘れたいことをきれいに箱に詰め直す作業は、とてもしんどかったけれど、その力をくれたのも、パレイドだったと思う。夏川椎菜さん、本当にありがとう。

 ということを手紙にしたためてファンレターを送りたいと思ってもう1年以上経ちますね……重くなりすぎてしまうから、もっとライトに書けるようになるまで頑張ります。
 ちなみにこのオタクは、「ファーストプロット」でまたボロ泣きするんですけどその話はまた別の機会に。


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