「昭和史サイエンス」(4)

自己欺瞞が進化した理由

 なぜ自己欺瞞が進化したのでしょう。他者をだますにはまず自分自身を先にだましておくことが、非常に効率的だったからです。人の心は意識と無意識に分かれ、無意識こそが本心なのですが、その思いを他者にストレートに伝えると、パーソナリティを疑われるケースが生じてしまいます。意識レベル上で言語能力を獲得したことで、自己中心的で身勝手な本心を他者に悟られないように「翻訳」して伝えるテクニックが大幅に増強されました。これが自己欺瞞です。
 文筆家のケヴィン・シムラーとジョージ・メイソン大学准教授ロビン・ハンソンの共著『人が自分をだます理由』(原書房)も、この点で参考になります。重要な箇所を引用します。

 私たち人類は、隠された動機に基づいて行動できるだけでなく、そうするべく設計されている種である。私たちの脳は私欲のために行動するように作られている一方で、他者の前では利己的に見えないように努力するのである。そして、私たちの脳は他者を惑わせるために「自分自身」すなわち意識にさえ真実を明かさない。自分の醜い動機など知らなければ知らないほど、他者からそれを隠すことが容易になる。本書で検討する論題はこれだ。
 したがって、自らを欺く自己欺瞞は、好ましくない振る舞いをしながら「よく見せる」ために脳が用いる策略であり戦略だ。もっともなことだが、こうした二面性をわざわざ告白する人はほとんどいない。けれども、腫れものにでも触れるように避け続けているかぎり、人間の行動について正しく理解することは不可能である。

 自分の醜い動機を他者から隠す最良の方法は、まず自分の意識からも隠すことです。換言すれば、自己欺瞞が進化したということは、人の心のなかには、醜い動機が数多く存在していることを物語っています。
 

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