見出し画像

「どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄」 展が楽しみすぎる - 茨城県近代美術館

茨城県近代美術館で2022年7月2日(土)~9月19日(月・祝)に開催される「どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄-100かいだてのいえとメディアアートの世界ー」がとても楽しみなので、ちょっとnoteに書き記しておきます。

いわいとしお・岩井俊雄について

絵本作家 いわいとしお

いわいとしおさんといえば「100かいだてのいえ」シリーズの絵本で見覚えのある方も多いでしょうか。2008年頃からいくつかのタイトルが出版されており、作者のいわいとしおさんのことはわからなくても絵本を見たことがあるということもあるかもしれません。

noteにも絵本のレビューがいくつかありました。

ほかにも絵本の作品に「どっちがへん?」シリーズもあり、私も手にしたのを覚えています。この頃は 岩井俊雄いわいとしお と表記されていたようですね。

今回の展覧会でも”どっちがどっち”とあるように、いわいとしおさんと岩井俊雄さんこの2人の作家さんはなにがどう違うのでしょうか?

メディアアート作家 岩井俊雄

ここまでは絵本作家であるいわいとしおさんについてでしたが、ここからはメディアアーティストととしての岩井俊雄さんについて紹介します。

岩井俊雄さんの作品は多方面に広がっていて人によって代表作が異なるように感じます。記憶に残る作品をいくつか並べてみましょう。

テノリオン

今でこそ各社から出ているグリッド状のボタンの音楽用インターフェースですが、このTENORI-ONは一足早かったし、中身も一風変わっていました。
音を奏でる楽器であり、ボタンのイルミネーションによるアニメーションや、その動きが誘発する音の連鎖など、楽器の枠を超えたデバイスです。

音楽(特に演奏が)好きな方には、この記憶が強いのではないでしょうか。

MPI x IPM

そして音楽好きならもうひとつ忘れられないのが坂本龍一さんとのコラボレーションが話題になったmusic plays images x images play musicもありますね。リアルタイムのCGとライブのピアノが織りなす不思議なパフォーマンスです。

エレクトロプランクトン

音ゲーのジャンルになるかと思いますが、Nintendo DSのソフトとして作られました。私も妹が持っていて一緒に関連イベントに行ったことがあるような気がします。

時間層シリーズ

このInstagramは時間層IIの設営風景だそうですが、岩井俊雄さんを一躍有名にした作品の一つと言えるでしょう。1985年に「第17回現代日本美術展」にて大賞を受賞したそうです。後述しますが、私もこの作品に間近に触れる機会があり感激した記憶があります。

このタイプ以外にも立体作品を回転させてストロボ光源を当てる時間層IV(うろ覚えです)も初めて見た時は驚きました。

ゾートロープ作品

時間層もゾートロープ的な手法を応用した作品ですが、岩井俊雄さんは高校生の頃から驚き盤(フェナキトスコープ)を自分で作り、立体ゾートロープという作品も発表しています。

中でも立体ゾートロープの仕事でもっともポピュラーかと思われるのは、三鷹の森ジブリ美術館の”トトロぴょんぴょん”かもしれません。

他にも初期のCG(コンピュータグラフィックス)を用いた作品や、新しいメディアを用いた作品など数々の足跡をメディアアート界に残した岩井俊雄さんですが、冒頭に現れたいわいとしおさんとして絵本作家の顔もお持ちなんですね。

展覧会の見どころ

作家にスポットライトを当て、その足跡を辿る展覧会というのはよくある形式ですが、ある意味異色とも取れる転身を遂げた いわいとしお x 岩井俊雄 の両面に光を当ててその変遷や実は共通する部分などをあらわにしてくれるのではと楽しみにしています。

そして筑波大学総合造形在学中からのメディアアートの歴史の道標となる作品がこうしてまとまって観られるまたとない機会になるのではないでしょうか。絵本から入った方でもきっとそのセンス溢れる手法や作品群は楽しめるはずですのでおすすめです。

会期も夏休みを跨ぎ長めですので、ご家族で、お子様と一緒に刺激的な体験となること請け合いです。

岩井俊雄さんへの想い

長くなってしまいましたがここからは自分語りです。
引き続きお読みいただけるなら嬉しく思います。

今回この展覧会を知ったのはインターネットでの告知が先だったか、自宅に届いた案内状が先だったか覚えていませんが、案内状が会場の美術館から届きました。

私も筑波大学芸術専門学群総合造形コースで学び、世代はかなり離れますが、岩井さんは大先輩という形になります。そうした縁もあり、OB・OG宛に案内が届いたのですが、受け取った時「水戸か〜ちょっと遠いなぁ」と感じたことも正直に書いておきます。

その後、今度は岩井さんから直々にEメールも届き、案内状のお手紙のような内容に加え、展覧会公式のInstagramを始めたから見てほしいと最後に書いてあったので見てみたところ、「これは観に行かなければならない」とはっきり気持ちが変わりました。

Instagramの何がそんなに響いたのかというと、上にも書きました時間層IIの設営風景で、この作品はたしか受験生時代に入手した資料などに載っていたりしたのでしょう。わりと早くから記憶に残っています。製作時期を考えると恐ろしいことに私が5歳の時の作品ということになりますが、大学生になるかならないかの頃にこうした作品や岩井さんのような作家さんを意識できたのはラッキーでした。

そして大学に入学後、その時間層IIと衝撃的な再会をしたのです。私の大学入学は1999年でその年度末、ホログラフィーの作品や研究をしていた三田村畯右教授の退官記念展がつくば市美術館で開催されました。

その展覧会では三田村先生の作品はもちろんですが、その教え子たちの作品も一堂に会するとても濃い展示となり、岩井俊雄さんをはじめ明和電機タムラサトルグラインダーマンなどなど錚々たるメンバーとなりました。
そしてその展覧会準備に駆り出されたのは私たち在校生でもありました。私はすかさず岩井俊雄作品の搬入お手伝いに手をあげ、その機会を得ることができました。

岩井さんの作品が届いた時トラックから降りてきた木製コンテナには世界を転々とした証ともいえる国際輸送用のラベルが貼られ、開ける前からとても強い存在感を放っていました。木箱の蓋を止めるネジをインパクトドライバーでゆるめて抜きつつ箱を開けると厳重にしかしシンプルに梱包された作品がゆっくりと姿を表しました。

今回公式インスタグラムによると所蔵先が転々とし細かな修復もされたということで、この木箱も新しいものになったような気がします。

当然ご本人立ち会いの下、指示を受けながらその作品を美術館に設置していく中で、作品そのものの作りや仕組みに感心したり、作家というものの強い意志や拘り、考えのようなものにも触れました。もちろん終始穏やかだったと記憶していますが、どこの馬の骨ともわからない一年生の私を信用してその準備に関わらせてくれたことは忘れません。

ちょうど2000年ごろの話なので、今ほど気軽に写真を撮ったりということもなかったので(探したら見つかるかもしれませんが)パッと取り出せる記録がないのがとても残念ではあります。

製作当時を知る方の話では、時間層IIはBetaMaxというビデオカセットを使いブラウン管モニターに光源となる映像を映してその光が回転する円盤を照らすことで思いもよらない不思議な世界を装置の中に浮かび上がらせます。

公式インスタによると、今回の展示ではブラウン管モニターは健在で貴重な本物を使用するが、ビデオデッキについてはキャプチャして修復された映像をメモリーカード等に収めメディアプレーヤで再生しているそうです。

そうした細かなアップデート情報に心躍らせ、この作品にとてもワクワクした何年も前の自分の気持ちを思い出しました。確かこの時、小中学生の頃にとてもハマったウゴウゴルーガの大ファンであることも岩井さんに伝えられたのだったと思います。

その後学生時代に大変お世話になった篠田守男先生のお宅で箪笥の上に所狭しと並ぶ、総合造形OBの作品の中に、岩井さんのFLIPBOOKを見つけたこともあります。昔のCGは1フレーム表示するのにも時間がかかり動かす場合はそうしたレンダリング結果をフィルムに撮影して映写するのが一つの方法でしたが、そのフリップブックは1フレームごとに印刷された物を束ねて、パラパラとめくると滑らかに動き出すのです。

そしてそろそろ最後にしますが、忘れられないエピソードとして、私が2008年ごろに取り組みはじめた子ども向けのプログラミングワークショップで岩井さんにゲスト講師をお願いできないかと一緒に活動していた友人と問い合わせてみたことがありました。その時の答えはノーで「今僕は段ボール割ピンの工作に夢中だから」ということでした。残念な気持ちは忘れませんが、だんだんいわいとしおさんになっていく過程だったのでしょうね。

そんなことを思い出しつつ、いつ展覧会を見に行こうかとワクワクしてこんな長文を書いてしまいました。

ぜひメディアアートや子ども向けの絵本に興味のある方は足をお運びください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?