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ー最近の新幹線整備についてー

 最近、新幹線の新規整備が急ピッチで進んでいます。今日は、そのことについて思ったことを書きます。

【1】 新幹線の歴史について
 新幹線のルーツは戦前の「弾丸列車計画」にありました。弾丸列車計画は昭和15年(1940年)から用地買収が開始され、一部区間も着工されましたが昭和16年(1941年)に開戦した太平洋戦争の戦局が悪化していった結果、1943年(昭和18年)に建設が中断されてしまいました。

 そして昭和20年(1945年)8月15日、日本は終戦を迎え、弾丸列車計画は未完成のまま一度終焉を迎えたのです。

 戦後、高度経済成長の過程で東海道本線の輸送力が大幅に逼迫したため、広軌の東海道新幹線が企画され建設されることになりました。時速200km を超える速度で運行が開始され、輸送力が大きく強化されました。その実績から、同じく輸送量が急増していた山陽本線にも新幹線が建設されることになりました。

 この2つの新幹線路線は輸送需要の増大に対応するために建設され、それが大きな成果を上げたことは明らかです。しかし、これらの成功は、輸送需要の観点からではない形で、いわば様々な利害が絡み合った形で、地方選出の国会議員や地方自治体等による新幹線の建設要望の増加につながりました。つまり、新幹線を建設することによって「新たな」需要を喚起させようという発想が主流となりました。

【2】 全国新幹線鉄道整備法の制定
 1969(昭和44) 年に発表された新全国総合開発計画では 7,200 kmに及ぶ新幹線網計画が盛り込まれ、地方や政治家の求めに応じるように 1970(昭和45) 年に全国新幹線鉄道整備法が成立しました。これに基づいて、新幹線建設の基本計画や整備計画については運輸大臣の諮問を受けた鉄道建設審議会が審議・答申して運輸大臣によって決定され、工事実施計画については運輸大臣の指示を受けた鉄道建設公団が策定し、運輸大臣によって認可されるものとされました。1973(昭和48) 年までに整備5線の計画が決定され、12 路線の基本計画が答申され、それらが完成すれば日本全国に新幹線ネットワークが完成するはずでした。
 ところが、1973(昭和48) 年に発生したオイルショックは日本経済に甚大な影響を与え、高度成長をストップさせる契機となり、それ以降の新幹線建設は大幅に遅延することとなりました。その後、主として建設の財源問題がネックとなって、推進する動きと抑制する動きの綱引きが続きました。それを解決する手段として、1981 (昭和56)年の整備法改正によって建設資金の地元負担が導入されましたが、翌1982(昭和57) 年には臨時行政調査会の答申を受けて整備新幹線の凍結が閣議決定されるに至りました。
 1980 年代後半になると、後にバブル経済と呼ばれたような景気の急拡大と国鉄の分割民営化による政治経済的変化が新幹線建設の凍結解除を後押しする形になりましたが、依然として財源問題は解決されませんでした。
 これに一応の決着をみたのは、1989(平成元) 年に決定された第1次スキームがJR・国・地方2の建設費の負担割合を明確化したことと、1990(平成2) 年に鉄道整備基金が設立されたことでした。
 しかし、これで問題がすべてクリアされたわけではありませんでした。国鉄時代に開業した東海道、山陽、東北(~盛岡)、上越の各新幹線に並行する在来線は経営分離されることなく、国鉄分割民営化以降も JR に引き継がれましたが、その後建設される新幹線は並行在来線の廃止ないしは分離が要件とされることになりました。つまり、新幹線建設にあたっては建設費の地元負担だけでなく、並行在来線を廃止することも前提条件とされたのでした。

【3】 並行在来線の経営分離
 新幹線建設費の一部を負担し、並行在来線に対する支援も行うことになった県や自治体は利用客とともに大きな影響を受けることになります。整備新幹線の着工決定によって、並行在来線がJR営業の廃止、そして自治体等による運営に経営分離されることになります。しかし、JRから引き継いだ区間は、だいたいが輸送密度が低く、線路等の資本費に耐えられるほどの需要は見込めません。実はJR 時代も企業内部による利益移転によって運営が成り立っていたはずなのです。
 ですから、当然、引き継いだ区間の経営環境は厳しく、県による線路使用料の免除・減額措置がなければ経営が成り立たない現状があります。さらにいえば、今後沿線人口の減少が進み、また昨今の寝台特急の廃止等によって今後の経営は一層厳しいものとなり、鉄路を維持するために国や自治体の負担もますます重くなっていくことが予想されます。

【4】今後の展望
 歴史的な背景からみれば、並行在来線分離問題の元凶は新幹線整備の目的が変質していったことにあると思います。地方や政治家の要望に応えて、在来線利用客がそれほど多くない地域に新幹線を建設した結果、経営分離した並行在来線の赤字状況はますます悪化の一途をたどってるのです。
 以上のことから、まず今後の新幹線整備計画については再度政策的な見直しが必要であると思います。次に、現在の並行在来線を維持していくためには各鉄道会社が、(1)新駅設置、(2)域外からの観光客の利用促進策、(3)鉄道業以外の「副業」の拡大と推進、などの取り組みを模索・強化することによって、収益性を高めていくことが重要であると思います。


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