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希望があるから生きられる

<ムービージュークボックス13>

すべての努力が無になった。傍観者は、「理不尽」「不条理」という言葉を探し出し、同情する。

しかし、それらの言葉では言い尽くせない、崇高な努力の結晶は残る。

そこに、希望を見出し、前に進む力になっていることを知ろうという作品に触れた。

1920年代、「女性は感情的で、理性的な判断ができない」とされていたアメリカの話が、映画「チェンジリング(2008)」。クリント・イーストウッド監督、アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチなどが顔をそろえた。

©︎pinterest

当時、ロスでは、約20人の少年が、行方不明になっていた。

警察は連続誘拐・暴行・殺人事件とは思わず、「家出したんだろう」「そのうち、帰ってくる」「子供を誘拐してなんのメリットがある」とか、あくまで事件性はないという誤ったイメージで初動捜査。行方不明少年の捜索に懸命になっていた。

捜索には、時間がかかった。怒りの被害家庭が、騒ぎ出した。警察は、”子供が無事帰ってきた”という好ましいケースをつくりだす必要があった。

とんでもない話だが、警察がつくった”自称息子”を、シングルマザー(Aジョリー)に引き合わせ、警察の名誉挽回をはかることになった。

「この子じゃないような感じがする」と母親が否定した。集まった新聞記者の前で、「しばらく離れていたから、そんな感じになるのも無理はない」と警部が彼女をさとした。

DNAのない時代、母親は、自分の本当の息子を取り戻すために、”自称息子”の
ウソをあばく必要があった。

歯医者に子供を連れて行き、治療あとから実子でないことを認めてもらった。そして、小学校へ連れて行き、自分の座っていた席すらわからない児童を見て、担当の先生に「大統領の前でも、あなたの子供でないことを証言してあげるわ」と言われ、彼女は警部に訴えた。

「証拠がない。証言だけじゃ、当てにならない」警部が全否定。

彼女が記者発表すると言ったとたん、「この女は、精神異常だ」と精神病院に入れられた。

©︎imdb.com

「ここは、私の部屋だ。出ていけ」と叫び続ける同室の女に苦しめられることになった。

静かにしていると、うつ病の診断。怒ると、鎮静剤を投与。暴れると、電気ショックで抵抗力を奪った。

ここで、つぶされたら子供に会えなくなる、この一念で耐えた。

気持ちが弱くなり、人間としての尊厳を失いそうになる日常で、「自分は間違っていた。この件で警察を訴えない」と署名すれば、退院させてやると、院長から言われた。

それでも、彼女は拒否した。

彼女のことが気になっていた社会運動家の牧師(マルコヴィッチ)が、消息を絶った彼女を精神病院から救い出すことに成功した。

この頃には、警察に抵抗する彼女の話が牧師を通じて広まり、彼女を支援する市民の輪が広がった。無償で支援してくれる弁護士も現れた。

しかし、同情でもなく、裁判沙汰でもなく、どこかで生きているはずの息子を、彼女は必死に求めていた。

マルコヴィッチ©︎imdb.com

一方、カナダからの違法滞在者がいるとの通報に、警察が動き、土に埋められた20人近い遺骨を発見。失踪事件が連続殺人事件に変わり、警察の失態が明るみに出た。警部は停職に、警察署長は解任された。

そして、誘拐された少年の中に、彼女の息子がいたことがわかった。
しかし、脱走して生きのびた少年もいたことを知った。

「なにも失うものはない」

希望が見えたことが、彼女の力になった。


<映画好きのためのトリビア>
⭐️この事件は、警察の汚点だったこともあり、事件関係の資料が処分されそうになっていた時、ある警察署員が、脚本家(当時テレビ作家)に知らせたことで、資料が保存され、事実をつないで脚本化された
⭐️映画評論家は、脚本の”穴”を見つけるのが仕事:①警部に反抗した人物の精神鑑定は、警部ではなく、精神科医が行うべき②警察と連携している精神病院はあり得ない③警察の顧問医が、容疑者の診断をすることはあり得ないなどと指摘。事実とかけ離れた”実話”と、映画の評価を下げた
⭐️しかし、(映画評論家の不自然だという指摘とは異なり)実態は、非合法な警察の体制が、1920年代にはあったのが実実だった。
⭐️映画化に興味を示したのは、「ダビンチ・コード」「天使と悪魔」で有名なロン・ハワード監督だったが、スケジュール調整がつかなかった。
クリント・イーストウッドに打診。自分が育った「大恐慌時代」の原作なら、
監督したいという希望を持っていたイーストウッドは、二つ返事で引き受けた
⭐️主役には、アンジェリーナ・ジョリーの他に、リース・ウイザースプーンやヒラリー・スワンクが候補だった。ジョリーは、この時代の雰囲気と容姿を持っているということで、イーストウッドが決定した
⭐️ジョリーは、6人の子供を持ち、子供を誘拐された母親役は演じたくないと、最初は断った。しかし、彼女の強い意志、"to get it right(正義を貫きましょう)"という言葉に共鳴して、仕事を受けた
⭐️「チェンジリング」というタイトルは、”子供をさらって、身代わりの子供を置いていく”というヨーロッパの民話に由来

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