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西成で資本主義の果てを思う

天王寺駅に降りたった僕を出迎えたのは、夏空を切り出して大地に突き立てたかのような巨大な建築物。あべのハルカス、日本ではじめて地上300メートルに達した超高層ビル。爛熟した資本主義のバベルの塔。

友人と待ち合わせたメトロの動物園前駅まで700メートル歩く。安宿が何軒も立ち並ぶ。たぶんドヤというやつだ。トタン壁の教会。開店前のパチンコ屋にならぶオッチャンたち。コンビニの前で寝転ぶ人もいる。

僕「でも想像してたよりふつうやな」

友「まぁここが本当にやばかったのはもう昔の話なんだろう」

高度経済成長からバブル期にかけて、この街に集まった多くの日雇い労働者たち。中心となる世代、戦後復興期に金の卵と呼ばれた若年中卒労働者たちはすでに後期高齢者となっている。かつて「労働者の街」だったここはもう「福祉の街」だ。

友「パチンコ屋の前に並んでた連中は生活保護を受給してるんだと思う」

僕「ほとんどの人が生活保護受けてるとしたら、ここではベーシックインカムが導入されてるも同然 !もしかしてここは資本主義後のユートピアなのでは?」

友「生活保護はポスト資本主義じゃない。修正資本主義だ」


【ポスト資本主義】
資本主義キライだけど、いまさら社会主義とか言うのも恥ずかしいよねって感じの人が夢見る資本主義の次に来るかも?な社会や思想のこと。知らんけど。

【修正資本主義】
資本主義が弱肉強食すぎると革命とか起こってヤベーので社会主義的な要素をとりこむことで延命をはかること。

商店街を歩く。店は居酒屋が多い。歩行者はほとんど高齢の男性だ。

友「この街の男女比は偏っている」

僕「江戸と一緒やな。吉原のかわりに飛田か」

友「ドヤは家、居酒屋は団欒、飛田新地はSEX、家庭の機能を代用してる。ある意味共有経済だな。」

僕「うわぁ切ない!」

【共有経済】
個人や企業がもつモノや場所、スキルなどの有形・無形資産を貸し借りする経済。カーシェアとか、民泊とか。

スーパー玉出の横に屋台のようなものがあったので見に行くと、70代ぐらいの女性が違法コピーらしきCDと DVDを売っていた。その後ろでは数人の男性が発泡酒で酒盛りをしている。

友「こんにちは。さだまさしないですか?」

女性「ないなぁ。来週でよければ持ってくるけど」

僕「お父さんたち楽しそうっすね。いいなぁ」

女性は「あんたも飲むか?」と言ってクーラーボックスからクリアアサヒを500ml缶を取り出して僕に手渡した。「えっいいの?金は?」「ええのええの」「わーい!あざーす!」

プシュ!ごくごく

僕「ぷはぁー!美味しい!ここはやっぱり資本主義の果てだ!コレ!贈与経済だよ!お前も飲む?」

友「ふーむ、たしかになぁ。あのCD屋は市場経済ぽくもあった。俺はビール苦手だ」

10月はじめの暑い時だったので冷えた発泡酒は美味しかった。この街は外で飲んでいる人が多いので歩きながら飲んでても目立たない。なんだかとても愉快な気分だ。街に座ってるオッチャン達に手を振って挨拶すれば振り返してくれる。

【市場経済】
市場を通じて売ったり買ったりする経済。本質的には価値の差を利用した交換。需要と供給によって自動的に価格がきまる。ミクロ資本主義ともいう。

【資本主義経済】
市場経済のすごいやつ。もうけを出すために作る物を作って売る経済。無限の拡大・成長を志向する。価格は資本家がきめる。

【贈与経済】
見返りを求めずに他者にモノやサービスを与える経済。家庭内とか友達関係ならわりとあるかな。

三角公園という公園についた。あちこちで酒盛りが行われている。この街はなんて自由なんだろう。近くの一つのグループに声をかけた。

僕「こんにちは!僕たちもご一緒していいですか?」

オッチャン「どうぞ。この椅子すわり。飲むもんあるか?」

クリアアサヒをくれようとするのを断る。お金持ちには見えないけど、太っ腹だ。しかしなぜこの街はクリアアサヒなんだろう?安くて飲みやすいから?

「いつもここで飲んでるんですか」

「そうや。みんな顔見知りや」

公園に行けばいつでも友達に会えるなんてとても素敵だ。この街では歳をとっても結婚しなくても子供がいなくても孤独にならなくて済む。ローカルコミュニティが生きている。しばらく話をして、僕らはオッチャンたちにお別れした。職安を目指して歩く。ほろ酔い気分の僕は足取りも軽い。

僕「やっぱりここはユートピアだ!日本中が西成になればいいのに!に〜し〜な〜り〜!」

友「お前はこの街に夢を見過ぎだ」

夢を見過ぎ。たしかにそうだった。

職安の近くの道路に倒れている70代ぐらいのオッチャンを見つけた。男性がそばに立って「この人ずっと動かへんねん」と心配そうに言うので、脈をとってみる。生きていた!

僕が大声で「たいじょうぶですか!?救急車よぶ!?」と聞くとオッチャンは目を閉じたまま「うるさい。ほっとけ。」と力なくつぶやいた。日焼けして、骨と皮だけに痩せた身体には鮮やかな入れ墨。腕にはいくつもの注射痕。たぶん覚醒剤だろう。本人がほっとけと言う以上、救急車を呼ぶわけにはいかないか‥

「これ!水!のんでな!!」

オッチャンは小さく頷いて水のペットボトルを受け取った。オッチャンは心配だったけど、お酒を貰って水をあげたことでこの街の贈与経済の輪に入れた気がした。

職安の周りにはゴミが積み上げられていて、ゴミの中に寝ている人がいる。たぶん生活保護を受けていない人だ。自分の意思でそうしてるのか、アクセスができていないのかはわからない。

この街は、資本主義の果て。ユートピアでもあるがディストピアでもある。

資本主義が成熟し、超少子高齢化が進むこの国。いつか迎える未来はどんなものだろう‥

僕らが目指すべきものは‥

僕に出来ることは‥

ヒントはこの街にある気がする。友人をメトロの駅で見送って僕はまたハルカスのほうに歩き出すのだった。 


この記事は実際に西成に言って見聞きしたことをポスト資本主義という切り口で再構成したものです。参考文献↓



えっいいんですか!?お菓子とか買います!!