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それ以上、デザインを語るな。病むぞ。

デザインへの無理解

デザイナーとしての矜持を持ち、非デザイナーの理解を得ようと、ここ数年奮闘してきた。

辛い。辛すぎる。この日々が。
理解されないことを、毎日、毎日説明する。

ようやく理解してきてくれた人は退職する。新しい人が来る。また振り出しに戻って説明する。
何年説明しても理解してくれない人もいる。どうしても表層のデザインだけをデザインだという認識を変えてくれない人もいる。

一方、同じデザイナーも事業や目的に無理解である場合がある。デザイナーが良いと思うデザインを作成して仕事を完了した認識になってしまう。しかし、それではユーザーに良いデザインを届けられない。

いくらデザインを追求しても、理解を得られない限り、思ったような形でリリースできない。ユーザーに届けるためには、ステークホルダーの理解を得ることを諦めてはいけない。


デザインという宇宙の端

社内で評価を高めても、他の領域に染み出しても、あくまで一人のデザイナーでしかない私にできることには限界がある。

ユーザーに良いデザインを届けるための鍵が、手の届かないところにある。
私のいる宇宙よりも外にある物体に働きかけようなんて、ブラックホールに飛び込むようなものだ。

どうするか?
デザインをデザインとして語るべきではない。


別宇宙人へ語るには

外国人と話すには、外国語と自国語を擦り合わせる。
エンジニアと会話する際は、別の表現をするかもしれないが、単純に仕様や挙動についてすり合わせを進めれば良いので、時間さえ掛ければなんとかなるだろう。

宇宙人と会話するには、音で会話が成立するかを確かめる必要があろう。
マーケターと会話するには、プロダクトだけではなく、サービスに流れる数字や事業のバイブスという、理解しにくい情報を扱わなければならない。
互いに敵対したい訳ではなく落とし所を探すのだという外交スキルが必要になるだろう。

さて、我々の科学が通用しない別宇宙人と会話するには、どうすれば良いか?

まず、諦めることだ。伝わる訳がない。しかし、事態が深刻であれば最善を尽くそう。開発に一切関わったことがない人と会話するときは、そういう心持ちでいることが必要だろう。まずは伝わらない現実を直視すべきだ。

そして、こちらの宇宙と向こうの宇宙。どちらが正しいなんてことを考えても無意味だ。相手をリスペクトすることから始めよう。


支配する力を使おう

幸い、私の勤務先は日本国内にあるので、以下の小手先のテクニックが使える。

「デジタル庁も行っていますよ。」
「ウェブアクセシビリティについての努力義務がありますよ。」
「このガイドブックを見てください。」
説明なんて、それだけで十分なのかもしれない。

自分の思想を持ち、自分の言葉で話すことも重要だが、自分が獲得できる信用など、高が知れている。こういう物を引用した方が効率的かもしれない。

HIGやMaterialデザインガイドラインも使えるかもしれないが、ちょっと専門的すぎるかも。和訳した物もあるけど読みにくい。


デザイナーとしての矜持など捨ててしまえ

ほぼ10年仕事としてデザインに携わってきた。学生時代を合わせると、人生の50%をデザインに費やしてきた。

それなりにデザイナーとしてどう在るべきか、という思想が芽生えているが、仕事においてそれらは、美しく機能するだろうか?

有言実行。さっそく名言を引用する。

我々がデザインについて話すとき、議論の本当の目的は形だけに限られず、形とそのコンテクストから生まれた調和の取れた全体、すなわちアンサンブルも含まれている。

クリストファー・アレグザンダー 形の合成に関するノート

Machine a habiter. 住宅は住むための機械である。

ル・コルビュジエ

デザイナーは自身が置かれた環境で調和することが、在るべき姿だろう。置かれた環境・その目的のためにデザイナーは存在する。


デザイナーは犠牲者になるな

しかし、デザインを犠牲にすることで、場を納めようとしてはいけないと思う。人間は複雑であり、どうしようもなく感情的な生き物だ。無機質に事を運ぼうとしても上手くいかない。

Form Follows Function. 形態は機能に従う。

ルイス サリヴァン

サリヴァンはそう言った。しかし、形態は機能に従属するだけではなく、機能に働きかけることが出来るのではないか。

デザインはビジネスに従属するだけではなく、ビジネスに働きかけることが出来るのではないか。デザインから始まるビジネス戦略だって、あるのではないか。

Form and Function is One.  形態と機能は一体である。

フランク・ロイド・ライト

ということで、プロダクトの配色設計を、全面的に改修する施策を実行に向かわせる事に成功した。タイミングが良いなど、外部要因による所も大きいが、これまで積み上げてきたプレゼンスキルが実を結んだ。

アクセシビリティが〜コントラストが〜と言葉で説明するより、ビフォーアフターで比較したら、何かと理由をつけて実行したいと思うだろう。

理由はすでに用意してある。事業的効果について聞かれれば、「獲得したユーザーに逃げられてしまいますよ。」という、擦り倒したテンプレートがある。

口だけでなく、手を動かし見せることも時には必要であろう。


口を動かすのに疲れた

仕事でデザインをやっていると、成果物をほいと公開する訳にいかないので、ネット上では口だけ人間になる。

口でデザインを説明することに固執すると、苦しくなるばかりなので、ほどほどにしておこう。あくまで余暇として楽しむ程度にしておかなければ、精神を病み身を滅ぼす。


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