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月経のデザイン5〜ピル処方ビジネスとUIデザイン〜

エロくない下ネタシリーズ。前回の続き。
私は限界インハウスUIデザイナー。開発体験を上げるには、何を改善すれば良いかを考えたいたときに、月経の存在に思い至った。

ここまで、
月経のデザイン1〜月経と開発体験〜
月経が生産性に及ぼす影響と、開発体験という考え方、そして月経を改善することによる社会全体の利益について
月経のデザイン2〜個人最適化に着手するまで〜
分野に限らずデザイン開発を進める上で必要な視点、標準化されていない月経に関する知識、議論する際の人間の捉え方、当事者に求められる改善への積極性
月経のデザイン3〜ピルというテクノロジー〜
月経・ピルのメカニズム、開発の歴史、ピルパニック、ピルのリスク
月経のデザイン4〜社会はテクノロジーを受け入れられるか〜
日本国内における認可・保険適用までの道のり、入手方法、性教育の遅れ、医師によるオンライン処方の動き
を見て来た。

今回は、これらを踏まえ、医師によるオンライン処方を実際に体験し、そのUIデザインを観察した結果を書いていく。

前回まではテクノロジー、今回はビジネスとUIデザインの話。

私は医学・薬学の知識は一切ない。実体験とネットで適当にしらべた情報をもとに書く。詳しくは引用元を参照して欲しい。鵜呑みダメゼッタイ。この記事はあくまで、個人が適当に書いている「note」であることを忘れないでほしい。当然責任も取れない。

前回の記事

医師によるオンライン処方とは


単なる通販との差

前回書いたように、単なる通販と医師によるオンライン処方は別物。

今のところ国内でピルを販売できるのは、医師か個人の2択。
そして、個人による薬の販売は違法。偽の薬でも何の保証も受けられない。つまり、医師の存在を確認できれば、消費者として安心してピルを入手できる。


不安が拭えないなら婦人科へ

ただし、対面での診察と比較すると、医師が把握できる情報が限定されるため、少しでも不安要素があるなら、オンラインではなく素直に婦人科に行くべきだ。

はじめてピルを飲む人や、身体や環境の変化でいつもと違う状態にある人、これまでピルの歴史で見て来たように、血圧が高い人、喫煙者も医師に直接見てもらった方が良さそう。医師の問診では、以下のことを聞くらしい。これらに少しでも心当たりがある人は、直接診てもらった方が身のためだ。

妊娠の可能性,授乳の有無,喫煙歴,喫煙量,高血圧の有無,血栓性静脈炎•肺塞栓症•脳血管障害•冠動脈疾患•心臓弁膜症の既往,最近の手術の既往と予定,脂質代謝異常,頭痛•片頭痛の有無,診断の確定していない不正性器出血,乳癌•子宮癌の既往,糖尿病の有無,胆道疾患•肝障害の有無,肝酵素に影響を及ぼす薬剤の服用の有無,肝腫瘍の有無など

低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤
ガイドライン(案)
 https://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf

観測者

今回のUI調査にあたり、調査する人=私の立場・目線を明らかにしておく必要がある。それによって、感じ方が異なってくるからだ。

26歳、会社員、女性、東京在住

5年以上同じピルを飲んでいる。これまで副作用が出たことがない。会社の健康診断で、毎年血圧検査、血液検査をおこなっており、引っかかった事もない。煙草も吸わない。

20歳前後の頃は、ピルを飲んでいると周りに言わないようにしていたが、20代中頃になると、周りで飲んでいる人がいる事を知って、あえて隠さないようになった。当然、見せびらかしたりはしないが、旅行の時に机に放ったらかして、他の人が見る可能性があっても気にしない程度。

はじめて婦人科に行ったのは、社会人になってから。月経痛がひどく仕事に支障が出たため受診。今では婦人科に行くことにも慣れ、歯医者に行くのと同じ感覚になった。

いつもの婦人科に行こうとしたら移転しており、ルーティーンが崩れ、行くのが面倒になり後回しに。そのタイミングで仕事が忙しくなり、とうとうピルを切らした。少し間が空いてしまうが再開したいのと、運悪く旅行の予定と月経が重なるので、今回オンラインでの処方を受けてみた。

職業:WebサービスのUIデザイナー
よく使うアプリ:Slack、Twitter、Notion、Youtube、Amazon、シーモアなど
尊敬するアプリ:Notion、Wolt、Tinder


スマルナ


概要


消費者としてのニーズ

月経の日程をずらしたい。
ブラウザ上でも利用可能だが、今回はアプリを使用する。
アプリのデザイン・運営会社のサイトのデザインがいけてそうだと、デザイナー間で話題になったのが決め手(純粋な消費者の動機じゃないw)
Androidユーザー


UI

全体の流れ


インストール→新規登録


本人認証への誘導

本人未承認情報のマイページ

本人認証
綺麗なUI。ちゃんとしたアプリという印象を受けるので、安心につながりそう。

問診・予約
目的に応じた情報設計が分かりやすい。

この後、オンラインで診察。

診察のカルテ・ログ


このピル飲んで大丈夫?

後から、先生の名前が分かるので、本物の医師か検索を掛けれる。

一回、検索をかけて居ないじゃん!となったが、姓名の間に余白を開けないとヒットしない。


届いた

医師の名前を、スマルナが勝手に使用していない限り大丈夫。

企業への信頼

運営会社を信用できるか?医師の名前を勝手に使用するような企業か?



DMM


概要


消費者としてのニーズ

いつも飲んでいる種類の低容量ピルを希望。
PCを利用
いつも飲んでいる種類がDMMにしかなかったのが決め手。


UI

会員登録後

TOPページ
診察予約画面

診療科目選択後、下部にカレンダーが表示される

日程の表示

日付を押すとモーダル表示

確定すると、予約確認画面が表示される。
配送先、決済方法など。

(スクショ撮り忘れた)
オンライン通話機能で、まずオペレーターに繋がる。
その後、医師につながる。専用のチャットアプリっぽい


診察後

履歴


領収書発行を押すと明細が出る。

受診する時に、医師の名前をちゃんと確認していなかったかも。
受診後だと、医師の名前が分からないので検索もできない。
本当にそこに、医師は居たのか?


このピル飲んで大丈夫?

病院名は明細に書いてあったので分かった。以下、医師の求人サイト。居そうな気はする。


何はともあれ、届いた。

なんか巾着に包まれている。

どこからどう見ても、いつも大変お世話になっている持田製薬のフリウェル配合錠ULD/21錠。また、手元に以前処方された物のパッケージが残っているので、違和感がないか見比べられる。

初めてピルを飲む人は、人生で初めてピルを手に取る訳なので、不安かもしれない。


企業への信頼

結局、その企業を信じられるか?偽物を販売するような会社なのか?


その他


定期便

ちなみに、定期便は縛りなどはなく、Web上で解約可能。
期限も明記されている。決済前にオペレーターが案内してくれる。

料金など



個人的感想

服用するのか?

私は、どちらの企業も信頼し服用する。

UIデザイン

UI設計の感想として、「スマルナ」の方が安心感は高かった。
不安要素を片っ端から潰してくれている、また情報設計がユーザーのマインドに沿っていると思う。
私はピンクがそこまで好きではないけど、いやらしいピンクでなく、綺麗に配置されているので、嫌な感じはしなかった。

ブランドイメージ

長期的に関わる会社と考えると、ブランドイメージも気になるポイント。

DMMというと、「エロからエコまで」何でもやる会社というイメージ。イケイケドンドン、わっしょいわっしょい♪消費者からすると機動力があり、ニーズにいち早く応えてくれるイメージ。また、貫禄を感じるので、自分達が不利益になるようなヘマをしないイメージ。

スマルナの運営会社であるネクノイのことは知らなかった。新しい感じの会社。DMMと比較するとクリーンでスマートなイメージ。生理用品の配布を画期的な方法で進めている。消費者からすると、銭ゲバではなく、社会や消費者のために貢献してくれるイメージ。

個人的な会社への好感度は、ネクノイの方が高い。



なぜスマルナにしなかったのか

結局私はDMMで低容量ピルを買う。DMMに長期的にお金を入れることになった。その理由が以下。

取り扱いのあるピルを見逃した

先に旅行のために月経を調整したく、スマルナをインストールしたものの、いつも飲んでいる低容量ピルがないと思って、DMMオンラインで注文してしまった。あとから、取り扱いがあったことに気づいた。

送料込みを見逃した・キャンペーンを踏まえて詳細に計算しなかった

総額をちゃんと計算してくれるユーザー以外は、キャンペーン中はDMMに近い値段になっていることが理解できなさそう。

スマルナ:
12シート1括払いの場合、3,580円→今はキャンペーン中で3,163円
キャンセル・返金不可・送料込み
診察料:1,500円
12周期分:44,460円→今はキャンペーン中で39,456円

DMM:
2,703円+送料:550円(毎回)=3,253円
途中解約OK
12周期分:39,036円

乗り換えにもお金がかかる

ピルを飲んだか飲んでないかを、アプリで管理したいという気持ちもあり、乗り換えようかなとも考えたものの、また1,500円を出すことを考えると、とりあえず良いかな…と思ってしまった。1,500円のアプリと思うと高く感じてしまう。



宿題:自分がスマルナだったら

DMMに潤沢な軍資金があることは想像に難くない。価格競争をするにも限界がある。

自分がスマルナのデザイナーだったら、何ができるのだろう?
ブランドイメージを伸ばす?SEO頑張る?

たとえば…

今の日本でピルを飲む人というのは少数派であり、ユーザーは「思想」や「趣向」にこだわりがあり、「能動的」な人が多いと思う。

一案として、イケてる・ファッショナブル・先進的なイメージを出していくなら、先進的なイメージの他ブランドとタッグを組んで、「医療」の領域から「生活」に入り込んでいこうと考えるかもしれない。

例えばTENGAの女性向けブランドとコラボするとか?

ピルによって望まない妊娠・望む妊娠をコントロールする先に、存在する子供・しない子供の幸せがあるとしたら、

その子供の性教育の課題に切り込むとか?日本の場合、大人にも教育が必要なレベルだし。

ピルを飲むライフスタイルの提案というか、文化を作っていく方向へ行ったら、DMMと差別化できそうな気がする。というか、今までDMMが築き上げた「エロ」とは別のエロ・性との向き合い方を提案できたら、それ自体が価値になると思う。それに応じた機能・事業が展開されていけば、着いてくる人は一定数いるんじゃないかと。しらんけど。

スマルナとは一切接点がないし、事情も知らないが、これはUIデザイナーとしての宿題として、定期的に考えたい。

* * *



月経のデザインの総括

ここまで5回に渡って、月経のデザインについて考えてきた。

月経のデザイン1〜月経と開発体験〜
月経が生産性に及ぼす影響と、開発体験という考え方、そして月経を改善することによる社会全体の利益について

月経のデザイン2〜個人最適化に着手するまで〜
分野に限らずデザイン開発を進める上で必要な視点、標準化されていない月経に関する知識、議論する際の人間の捉え方、当事者に求められる改善への積極性

月経のデザイン3〜ピルというテクノロジー〜
月経・ピルのメカニズム、開発の歴史、ピルパニック、ピルのリスク

月経のデザイン4〜社会はテクノロジーを受け入れられるか〜
日本国内における認可・保険適用までの道のり、入手方法、性教育の遅れ、医師によるオンライン処方の動き

月経のデザイン5〜ピル処方ビジネスとUIデザイン〜
ピル処方ビジネス、UIデザイン、ライフスタイルの提案?、エロとは?続く


書き始めた時は「デザイン」なんて大袈裟かなと思ったが、書き出すと滅茶苦茶に深かった。ここまで考えて、どのようなフローでピルを服用し、どのように生活するかを考え始めると「デザイン」と言って良いと思う。

また、テクノロジー・ビジネス・UIの話まで絡んできて、これをデザインと呼ばすに何と呼ぶ?


今後も、エロや下の話を外側から冷めた目で観察し、新たな視点が生まれないか模索していきたい。

エロくない下ネタシリーズは続くーーー。


つぶやき

今度はキンタマの歴史について調べるか。卵子の次は精子をやらないとバランスがとれない。私はどこから来たのかといえば、父親のキンタマから来た訳だし。続



参考記事

低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤 ガイドライン(案)
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf

オンライン診療の適切な実施に関する指針
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf

新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の 時限的・特例的な取扱いについてhttps://www.mhlw.go.jp/content/000620995.pdf


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