首相の任命権とは(2)

先日このタイトルで投稿しましたが、十分に考えていなかった部分があり、正しい内容とは言えないので訂正します。

宇都宮健児弁護士などが、日本学術会議法会員に対して首相が任命権を持っているのは天皇が首相や最高裁長官に対して任命権をもつのと同じだから、拒否権はないのが当然と述べているのですが、これだけでは足りないのではないかと考えるようになったからです。

泥棒にも三分の理と言おうか、宇都宮さんの発言を報じるネットのニュースには5桁ものネトウヨのコメントがついていますが、たんにネトウヨと片付けるにしては、もうちょっとリクツの筋の通ったことを言っているケースもあり、それに対して宇都宮さんたちの主張はまだ説明が必要だと感じたのです。

日本学術会議法を検討してみると

そんなとき、弁護士ほりさんの「日本学術会議の会員任命拒否は何が問題か」という記事を読みました。たぶん、いまこれ以上の答えはないだろうと思います。

弁護士ほりさんの解説をざっとおさらいすると

日本学術会議法では、7条で、首相は会員を「任命する」となっており、「任命出来る」でも『任命しなければならない」でもありません。

任命「できる」なら、拒否もでき、任命「しなければならない」なら、拒否は絶対にありえないのですが、「任命する」という文言はそのどちらでもなく、あいまいです。

第3条には、日本学術会議は「独立して左の職務を行う」とあり、政府の干渉は受けないことがあきらかですから、首相が人事権を行使することはありえないし、指揮監督権もありません。これは4条で同会議が政府に対して「勧告することができる」と規定されていることからあきらかです。

総理が自分の裁量で任命を拒否することができるなら、日本学術会議の会員の構成は総理の思い通りになり、総理によって実質的に指揮監督されることになってしまいます。本来、独立であり、総理の指揮監督を受けてはならないはずの日本学術会議にとっては由々しきことです。

日本学術会議は内閣総理大臣の意向に従って動く組織ではないし、内閣の所轄ではあっても独立した地位の機関ですから、内閣総理大臣の意向にそわない者でも、推薦されたら任命されなければなりません。

ただし、論文盗用など、学問上の業績に欠陥や虚偽がある人物、重大な犯罪(殺人、強姦、強盗、業務上横領、贈収賄など)を犯し、公職にふさわしくない人物、日本学術会議としての推薦の経緯がいかがわしい(買収や脅迫などの不正があった)人物などは、例外的に就任を拒否することがあってもいいかもしれないというだけです。

そもそも学術会議に首相は関係なかったのに・・・

いまの政府には、さまざまな諮問会議があります。それは中曽根政権の時代に始まったことですが、国会での審議を軽視したもので、決して好ましいものではなく、事実、安倍政権になってからは、ことにその顔ぶれが首相寄りに偏って公正な判断を下さなくなる傾向が見られました。

日本学術会議も、1983年、つまり中曽根政権のもとで、日本学術会議法に重大な改悪が加えられたのでした。

弁護士ほりさんも紹介しているように、同法7条も、1983年の改正までは「(旧)第7条 日本学術会議は、選挙された二百十人の日本学術会議会員(以下会員という。)をもつて、これを組織する」となっていて、誰が任命するとも書いてありませんから、首相が容喙する隙はなかったのに、中曽根政権が改悪して、首相の任命権を入れたのです。中曽根はこれを、あくまで形式的任命権だからと言い逃れました。

「任命できる」でも「任命しなければならない」でもなく「任命する」という曖昧な文言である理由がここに現れているではありませんか。

説明を一切放棄する、疚しい菅政権

以上のようなわけで、加藤官房長官が、「学術会議は法律上、首相の所轄で、人事を通じて一定の監督権を行使することは法律上可能」と述べているのは間違い、「人事に関することなので、コメントは差し控える」とも述べているのは説明責任の放棄、と、弁護士ほりさんが書いているのは、まったくそのとおりです。

人事に関することだから説明を求めているのであり、人事に関することが説明できないでは、エドマンド・ヒラリーの、なぜ山に登るのか、そこに山があるからだじゃああるまいし。

安倍政権以来の詭弁のパターン。安倍政権を継承するという菅氏の言葉通りです。



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