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narrative(物語)を選んだ理由

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「どこかで会った誰かのようなstories」「うさぎくんは自転車を走らせる」「うさぎくんと自転車」「QとKと平和の種」「ビルドストーリーズ」「彼女の空模様はインコンプリート」
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2021年3月の記事一覧

平和の種#10「鐘がなる風景 船が小さくなってゆく風景」

生きていきやすいのは 新鮮な気持ちがある最初のうちだけ 暮らし方がわかってしまうと 飽きてしまう そこに住む理由がわからなくなる まるでSNSみたいに ビルの風景 正体がはっきりしないノイズ 車社会の風景 クラクションが鳴る Kは感覚的だと言われる K本人は 感覚的って何だ?と思っている Kは クールだとも言われる K自身は 人の気持ちがわかるようになりたいと 思いつめている つまらないものはつまらないと 変わらなくて Kはもう何年も空

平和の種#9「普通がわからない感覚が生まれた日」

Qは わざわざ抵抗したい わけではなかった わざわざ 対立したい わけではなかった 涙の粒が落ちてゆく瞬間の机の上 教科書とノートが濡れた跡はしわくちゃ 黙り込んでしまった1年生の教室 Qとしては当たり前だと思っていた感情 まわりとは違っていた ただそれだけのこと 2年生の教室で 3年生の教室で そのあとの教室も ずっと ずっと だいたいは不思議がられる くすくす笑われる 迷惑がられる 怒られる Qは どんなふうに見られても 真剣

平和の種#8「心の"痛い!"を治す旅」

空に出会う サッシの扉をくぐり抜けて ま新しい空 そこはベランダ 手を伸ばせば 風 Kは ことあるごとにアピールする 自分をだましたくないと 自分の正直な気持ちが 自分では何なのかわからないでいるのに そして 1つまた思いが浮かぶ Kのタイミングを待たないで 視力が だんだん衰(おとろ)えてゆく 悪くなるとも言う 衰えるということは 悪いことなのかなぁ Kは考え込む 足を悪くする 気分を悪くする 口が悪い 顔が悪い きっと 人

平和の種#7「"信じる"に含まれる疑いは何%」

歩き慣れた道の上 きょうの空の下   君の今までの人生は 不合格じゃないよ そのとき そのときで 精一杯で生きていたよ Qのつぶやきは 鮮明になるまで 少し 時間がかかる 風が止んで 足取りも軽く 吹けない口笛を 吹いてみたくなるまで それくらいの 時間がかかる Qは 誰かの顔を受かべている 記憶の中の 誰か 君の今までの人生は 不合格じゃないよ 幼い命たちだって 考えている ただ弱虫ではなくて ただ泣き虫ではなくて 幼

平和の種#6「人生の一周」

Kは  テーブルにお茶を置いた 正確には花柄のティーカップ 置くべきところに置いた 椅子を引いて 座るべきところに座った 人生を一周すると あの人に似ていくことに気づく とても長い時間を感じさせられた一周だったと ひと息ついたような感覚は 多分ひらめき 人生の区切りは そんなものかもしれない Kは今 人生をニ周目を目の前にして あの人に似る その事実に嫌悪を感じるころ 人はわかりやすいもので 心が荒れると仕草が乱暴になる 大切にしている本の置

「友だちの娘が結婚した」

春の匂いを嗅げば また空に問いかけられる なぜ そんなに青いのと あの娘が婚姻届を出したと 昨日の今頃に知らせが届いた 友だちの一人 ママになって何年が過ぎたのだろう 洗濯物を干すときに お気に入りのシャツが破れているのに気づいて 好きなものにはスペアがないことに慌てる 下手くそなカバー曲に 耳も目もふさぎたくなる気分に 空気をにごされても 1日1日を 1秒1秒を 噛みしめるように過ごせる人になった 明日のことは あまり考えなくなった 人