見出し画像

言語能力が低い自閉症児が「右」と「左」を覚えた遊び方

興味がある言葉は記憶できるようになってきた1-2年前、次は「概念」はどうやったら覚えられるだろうと色々なことにトライしていました。何年か前に「方向」の概念を覚えて発語に至った時の遊び方を記載します。当時はいろんな本や動画を見て素人なりに学習していた中で「あ!こういう方法なら覚えられるんだ!」と強く感動しました。

私は科学者でも医者でもありませんので、原理や機序が再現性あることなのかはわかりません。



右と左を覚える : レベル1 - クイズ形式

  1. 子供の好きなものを用意する

  2. 好きなものをなんとか視線に入れて、まず注意を引く

  3. 好きなものを右手または左手のどちらに入ったかわからないように隠す

  4. 「みぎ」と大人が言いながら左手(相手から見て右)を目の前に出す

  5. 「ひだり」と大人が言いながら右手(相手から見て左)を目の前に出す

  6. 発語なくどちらかを取ろうと行動する場合は大人が拒否を示す。

  7. 4,5をもう一度繰り返す

  8. 正解するか否かに関わらず発語が現れ左右どちらかにアクションがあればその方を開いて「はずれー」「あたりー」と楽しく大袈裟にリアクションして提供する

私はこれを最初飛行機や車のおもちゃでやっていましたが、おもちゃだと連続的に実施できないので、板チョコレートを細かく砕いたもので行うようにしました。正確に発音できていなくても、発語が出た場合には即時にチョコレートを口に入れて与えるようにしました。

これをやっていたら突然「みぎ!」と怒鳴るように発語したので驚きました。私は嬉しくて感動しましたが、本人からすると相当ストレスフルで怒っていたようでした(笑)


右と左を覚える : レベル2 - ダンス形式

キレられながら覚えた右と左、正解したり間違えていたりですが、そこは問題ではありませんでした。まず「みぎ」「ひだり」を発語で示すことと、その言語が概念を示す意味や要求の表現として動作と関連づいていればよかったのです。これは大きな進歩だと思った私は、次は反復練習に取り組みました。チョコレート方式はそのうち飽きられるかキレて「またかよ」って飽きられると思ったので(あと私の手がチョコレートまみれになるので)、別の方法を考案しました。

その名も「みぎひだりダンス(自称)」です。

レベル1を実施しているタイミングは、非常に重要なエンゲージメントやモーメントです。自閉症児の場合、学習発達の基本である模倣行動が強化因子にならない瞬間が多いので、このアクセス可能時間はとても貴重でした。

レベル1を終えた瞬間、次は立ち上がって大人が「みぎ!」(真似するのを待って、真似したら)「ひだり!」と言いながら、警察官の旗振り交通整理ばりに大きくわかりやすく動かし、見せます。最初は1語ずつ区切りながら模倣を待って続け、すぐにスピードアップしていきます。

「みぎひだりみぎひだりみぎひだり!」
「みぎだりみベロベロベロベロ」

もはや子供側の発語は追いついていなくても大丈夫です。右の時は右手で指さすんだな、左の時は左手で指さすんだな、という発語と運動を組み合わせて、楽しくダンスすることを優先して大人側も楽しんでやり続け行動を組み込みます。

知的障害を伴う自閉症といえど人間です、「いいかげんもういいわ」となるので、そうしたらこの遊びは終わりです(大人側もはぁはぁ言ってるはずです)。そして毎日これをレベル1から行うようにします。これは後々発展して「まえうしろダンス」や「うえしたダンス」にも進化しました。


右と左を覚える : レベル3 - 街中冒険形式

このダンス遊びを狂うほど繰り返し、なんとなく方向は指差すものという感覚を体幹に叩き込んだら、次は外に出て道順や、いきたい方向を自分でまず指示させる実践です。

  1. 家のドアを開けて、外に出たらダンスの時と同じ動作で「みぎ?」「ひだり?」と聞きます

  2. 反応をしばらく待ちます。反応があればそっちへ行き、反応や理解がなければ別の場所へ進み1を再度行います。

  3. 一度外に出たら、子供の意思に任せて延々同じ方法で道を選択させていきます。

ここまでできるようになってくると、元々視覚記憶が強いので、自分のいきたい方向や関心を表現でき、自分の力で方向を決めてリードできるという経験に繋がり、「自分以外の人間を、発語でコントロールできる」という感覚に繋げていくことができるようになりました。

行動強化と記憶させるためのポイントと参考になった書籍

こうした定着化において重要だと思われるポイントは以下です。

  1. 褒める準備をする : 目的は狙った行動を強化することなので、もはや褒めたりお菓子をあげる準備を精神的に行います。

  2. 瞬間を捕まえるプラスの高速フィードバック : 目的の「発語」がでた瞬間を逃さず、プラスのフィードバックを即時に与える(瞬間を捉えるのが重要)

  3. 目的と一致しない場合は断固として拒否 : 「発語」が目的なので、発語なしに行動を行った場合にはプラスのフィードバックを与えず大人側が拒否を示す。

  4. 大人側の行動の一貫性 : レベル1から2で行ってきた動作と同様の動作で行う。違う動作や、口語だけで行うと混乱が生じる。

  5. 楽しい遊びや冒険として考えていく : 自閉症でも中身は少年なので遊びにすることが大事。父親も精神年齢はだいたい小学生から中学生から変わっていないはずなのでできる。親としてというより遊びの感覚にする。

大事なことは、「結果にすぐに本人がわかる方法でフィードバックを与える」ことです。これは応用行動分析のオペラント条件付けの書籍「広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)」や、Netflix で見れる「CALI K9 どんな犬でもしつけます」を見て、人間も行動方法を変えるにはドーパミン管理を狙う同じ方法が有効なのではないかと感じて思いついた方法でした。


ロジックだけだと難しいけど

難しい本や、自閉症といえど人間を犬のしつけと同じ方法で学習させようというのはロジックはわかっても精神的に難しいことがあると思います。自分なりに考えた方法の工夫点は、覚えたことを少しずつ家や療育施設の外でもできるようにしていくためにレベルを上げていくことでした。おそらく犬を躾けるように、単純にお菓子を上げる、正解したらオーケーという結果だけで学習を止めてしまうと身に付かず、次第に「お菓子が欲しいから、いうことを聞いているだけ」になってしまう結果になると思っていました。そのため、「現実世界で相手の人間を言葉で動かす経験」までどうやって繋げていくかを考えてレベルに分けて取り組むのがいいだろうと思います。

最終的には、
「うえみぎしたまえうしろひだり!」
「うえみぎしたるるるるるる」
と複数組み合わせて腕も上下左右に振り回しながらやっていました。

言ってる言葉があっているかどうかではなく、「意味がわかるか」「現実世界で自分以外の人間を発語で操作しようとできるか」「できることが増えたという感覚」を大事にしていけたのがよかったなと思います。よく考えると、レベルや内容は違いますが、障害児でも健常児でも、学習というのは同様のメソッドなのかもと稀に思うことがあります。

方向を覚えてくれた結果、東京タワーの足元で、上を見上げて「うえ!」と言われたので、「マジかよ…」と思いながら徒歩で一緒に登ったのは今や良い思い出です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?