見出し画像

トリプルファイヤー『EXTRA』全曲を語る

2024年7月31日トリプルファイヤー5thアルバム『EXTRA』リリース。私がトリプルファイヤーを知ったのは大学1年生の頃に先輩に教えてもらったことがきっかけだった。その当時2018年時点では、前作『FIRE』までがリリースされており、私はサブスクで全アルバムを聴いて好きな曲をプレイリストにまとめたりしていた。これまでのアルバムのリリース時期は1stが2012年、2ndが2014年、3rdが2015年、4thが2017年と大体2年に1回のペースであることから、5枚目も近いうちにリリースされるだろうと思っていた。ニューアルバムを待ち望んだまま、大学1年生だった私は気づいたら大学院まで卒業し、社会人になっていた。そして入社した会社での業務と社会人生活にようやく慣れようとした頃、シングル「相席屋に行きたい」が7月中旬に配信開始、7月31日に7年ぶりとなるアルバム『EXTRA』がリリースされた。リリースされてからはほぼ毎日、通勤中の車内や自宅でアルバムを聴いている。今回はアルバム『EXTRA』収録曲10曲全てについて語りたい。

EXTRA/トリプルファイヤー

Track List
1.お酒を飲むと楽しいね
2. BAR
3. スピリチュアルボーイ
4. ユニバーサルカルマ
5. サクセス
6. ここではないどこか
7. シルバースタッフ
8. 諦めない人
9. 相席屋に行きたい
10. ギフテッド


  1. お酒を飲むと楽しいね
    アルバムは約20秒の吉田氏の独唱で幕を開ける。マイクの前で吉田氏が缶酒を開けて三口ほど飲み、「カハァ!」を息を吐いたところでバンドの演奏が始まる。これまでにない意表をつくような入り方だ。私は本曲を2020年8月15日に行われた「TOKYO BOREDOM」の配信で初めて観た時、トリプルファイヤーが新しいステージに突入していると感じた。
    鳥居氏のnoteで以前、本曲は前作『FIRE』収録の「野球選手になるために」の延長線にある曲と言っていた気がする。持ち前のファンクネスは健在だが、ギターは前作よりもフリーキーに、そしてボーカルはよりメロディアスになり、トリプルファイヤーの新しいステージの1曲目としてふさわしい曲だ。また、楽曲後半の「甘んじてくしかない〜」と吉田氏が歌うパートでは、おそらくキャリア史上初のオートチューンが大胆に使用されている点にも触れておきたい。

  2. BAR
    YouTube上に2018年4月に行われたトリプルファイヤーワンマンライブの全編が公開されており、私はこれまでこの動画を20回以上観てきたのだが、ここで初めて観たのが本曲だ。ちなみに、このアルバム収録曲10曲のうち6曲がこの動画に収められている。
    ドラムとギターからなる印象的なイントロで始まる曲で、2曲連続で酒関連の曲なのはバンド側が狙ったのだろうか。ベースとギターは掛け合右ように進行し、グッドメロティーなサビ(「このレベルで楽しく〜」)は盛り上げようとする感じではないが、確実に体を揺らしにきている。一方でブリッジ部分(「ダサい奴は〜」)からはパーティー感が感じられて良い。

  3. スピリチュアルボーイ
    本曲も2018年4月のワンマンライブで演奏されていた。開幕の鳥居氏のギターに合わせて、3拍目の裏でタムとベースが鳴るという不思議なイントロであるが、これも何か参考元があるのだろうか。そしてここでフルートが入ってくることで一気に優雅な雰囲気になる。曲のテーマでもあるスピリチュアルな感じを表現しているのだろうか?
    本曲の構成は比較的シンプルで、ざっくりと説明するとボーカルが入ってからヴァースとコーラスを3回繰り返すような感じだ。本曲の面白い点は、この3回あるヴァースの部分でギターのフレーズが全部違うこと。この曲はギターがフレーズを変えることで楽曲に表情をつけているのだ。

  4. ユニバーサルカルマ
    本曲も2020年8月15日のTOKYO BOREDOMで最初に観た。鳥居氏がインタビューにて印象的かつ渋い曲として挙げていた本曲は、不穏なキーボードで開幕する。トリプルファイヤーにしては珍しい変拍子チックな曲だ。ファンキーだが陽気な感じはなく、『FIRE』収録の「中一からやり直したい」と同様のビターな仕上がりだ。吉田氏も曲の雰囲気に呼応するように普段より1オクターブ低い声で淡々と歌う。タイトルの「ユニバーサルカルマ」は歌詞には出てこないが、吉田氏は歌詞の変更を何度か行うことがあるため、これも以前の歌詞の名残だろう。

  5. サクセス
    2018年4月ワンマンライブの映像で初めて観た曲である。冒頭の鳥居氏のギターソロはこの時からかなりカッコ良かったが、2020年8月15日のTOKYO BOREDOMでライブを観た際は、ギターがソニックユースばりのノイジーな音を出すようになっていた。「トリプルファイヤーのギターといえばペラペラの音」といった固定観念を打ち壊すような、こちらもトリプルファイヤーの新たなステージを象徴する曲である。曲の全体として、全部で8拍ある小節の最後の2拍を3分割した3連符にして進行する点が特徴的で、スカートの澤部氏が言っていた「呪術的、祝祭的」という表現がしっくりくると感じる。

  6. ここではないどこか
    EXTRAのLP版の場合はこの曲からがB面ということになるのだろうか。鳥居氏のことならLP化した時のことも曲順を決める上で考慮に入れていると考えられる。
    開幕は1秒程度の非常に短い音のループから始まる。ここで出てくる鳥居氏のギターリフはかなり特徴的な譜割りをしていて、16回のダウンストロークを3回、4回、4回、5回に分けている。変拍子ではないのだが、普通にギターを弾いていたら出くわすことがないフレーズなので、ギターでコピーを試みると拍を見失って苦戦する人も多いと思う。
    本作は吉田氏以外にもう1人、PLASTICMAI氏もボーカルとしてゲスト参加している。吉田氏以外がボーカルで参加するのはおそらくキャリア初であり、すでに本作何度目かのキャリア初である。吉田氏のリズムに合っているのか曖昧なボーカルに、PLASTICMAI氏がボーカルを完全に重ねにいっているのはすごい。アウトロの2人で「ラララ」と歌う部分は感動的で切ない。

  7. シルバースタッフ
    2018年4月ワンマンライブの映像で、個人的に特に好きだったのが本曲だ。2018年時点では「鋭いアドバイス」という曲名だったが、歌詞の大幅な変更に伴い「シルバースタッフ」に改められた。前作『FIRE』の初回限定版に本曲と「サクセス」のライブ音源が収録されていたことから、かなり前から曲自体は存在していたことが分かる。この曲が好きな理由はグルーヴィーなベースとシンプルなギター、そしてサビのギター3連符だ。3番のヴァース(「だって他に〜」)ではベースのフレーズはこれまで同じなのに、ギターのフレーズが変わることでセンチメンタルな雰囲気になるところが面白い。

  8. 諦めない人
    本曲も2020年8月15日のTOKYO BOREDOMで最初に観た記憶がある。「ユニバーサルカルマ」同様、ビターな印象の曲だ。また、歌詞の「諦めない人」が歌詞に出てこないという点でも「ユニバーサルカルマ」と共通している。歌詞の内容として、周りの意見に左右されずに目標へ突き進んでいく人について歌われているが、これは諦めないことが大事というメッセージなのか、もしくは何も考えずに突き進むことは愚かだということなのか、人によって解釈が分かれそうな内容だがこれこそが吉田氏の狙いなのかもしれない。

  9. 相席屋に行きたい
    アルバム公開前の先行シングルとして一足先に配信された本曲。トーキングヘッズの「Crosseyed and Painless」(「Stop Making Sense」Live ver.)に触発されたというイントロはCANの「Future Days」にも似たリラクゼーション感を体験させてくれる。そしてスリリングなテンポアップ後、ギターはストイックにカッティングを繰り返す。鳥居氏は以前ポッドキャストにて、弾いていて楽しい曲として「ゲームしかやってないから」と本曲を挙げており、理由はカッティングリフを弾いていて気持ち良いからだという。歌詞についても、ものすごくスケールの大きいワードと一緒に「相席屋」という非常に俗っぽい単語が入ることで生まれるギャップが、この上なくトリプルファイヤーらしいとも言える。

  10. ギフテッド
    2020年のTOKYO BOREDOM以降も定期的にトリプルファイヤーの有料配信ライブを観たりしていたのだが、本曲は空間現代とのツーマン配信ライブで初めて観た記憶がある。アルバムの最後を締めくくる、多幸感溢れるナンバーだ。BO GUMBOSの「泥んこ道を二人」を彷彿とさせるクールなベースリフで始まり、そこにギターが入ってくる。「相席屋に行きたい」同様、この曲も鳥居氏の演奏の大半はカッティングで、このリフは少しトムトムクラブの「Genius of Love」の雰囲気を感じる。この曲は各パートの見せ場も多く、鳥居氏とキーボード沼澤氏の息のあったソロに、ベース山本氏のベースソロ(しかもスラップ)、そして気持ちの良い吉田氏の「ギフテッド」という合いの手。そんな多幸感を維持したまま、夢から覚めるようにアルバムは終了する。


こうして全曲について語ったが、要は最高のアルバムだったということだ。今のところ配信かデータでの購入しかできないようだが、CDやレコードでの販売がされるのであれば是非買いたい。そしてDJで曲をかけて色々な人にトリプルファイヤーを伝えたい。なおトリプルファイヤーは既に未音源化の新曲が10曲あるようで、次のアルバム制作にいつ取り掛かってもおかしくないと考えられる。私としては一度、トリプルファイヤーのライブを実際に足を運んで観てみたい。その上でトリプルファイヤーのネクストニューアルバムを楽しみにしたいところだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?