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【趣味のレビュー】EXTRUDERSの配信ライブに、無観客配信の最高到達点を見た

2020年5月5日。小岩BUSHBASHというライブハウスから、EXTRUDERSというバンドがYouTubeで無観客ライブ配信を行った。
とにかく、アーカイブを観てほしい。もうすぐ消えてしまうという話も目にしたので、なるべく早めに観てほしい。

(01:10過ぎくらいからが本編)
信じられないかもしれないが、これは生演奏の生配信だ。アーカイブ化に際して編集はされていない。
COVID-19対策でマスクを着用しながらも、凛とした佇まい。ワンカメラワンシーンの、映画のような空間。配信とは思えない、衝撃的な音の良さ。
バンドが作り出す静かで張り詰めた空気が、極上の音と共に、そのまま映像になっている。
まるで、あらかじめ撮影され編集され完成された芸術作品のようだ。
しかし、生演奏の生配信なのだ。
これは、“無観客ライブ配信”という形態に於ける、ある種の最高到達点だと思う。

元々EXTRUDERSのライブをよく観に行っており、好きなライブハウスを聞かれる度に小岩BUSHBASHを挙げる私でも、この配信には驚いた。
ので、その立場から、今回のことについて書いてみる。

つくりだした人たち

まず、上述の通り、会場は小岩BUSHBASHで、演奏はEXTRUDERS。
そして、PAが君島結さん、カメラが大石規湖さん。以上。
直接映っているのは3人、メインスタッフを入れると5人、会場のスタッフを入れてもおそらく10人前後くらいといったところ。
バンドとPA君島さんは普段からタッグを組んでおり、BUSHBASHにもよく出演している。大石さんとは初めてかもしれない。
ちなみに、今回の配信のために何らかの特別な演出をしている様子は一切なかった。
つまり、全員「元々こんな感じ」なのだ。
それぞれが自然体のままで、どうしてこんなことができたのか。それは、この状況下でもそれぞれの「いつも通り」を貫いた芯の強さと、化学反応によるものなのだろう。

会場:小岩BUSHBASH

東京の東の端、千葉県との境目あたりにある、独立系小規模ライブハウス。都内では珍しい路面店で、ライブフロアよりも広いラウンジを備えており、窓も開けられる。

他のライブハウス同様、BUSHBASHもCOVID-19の大打撃を受けており、投げ銭機能ことスーパーチャットを利用すべくYouTubeチャンネルを開設したという経緯がある。
無観客配信に向けて動き出したのが比較的早めだったことと、配信の頻度が多めなこともあり、それ相応に場数を踏んでいて、安定感がある。出演者がどれだけ素晴らしいパフォーマンスをしても、回線や画質がボロボロだと台無しになってしまうが、BUSHBASHの配信にはそれがない。
配信に関するインフラや機材の導入と運用にも成功しているということだろう。

BUSHBASHのライブフロアは、かなり個性的だ。
一般的なライブハウスのそれ、つまりステージと客席部分は黒くて無機質な質感になっていることが多いが、BUSHBASHのライブフロアは床以外全てが木材に覆われている。さらに、ステージにはいわゆる舞台照明が存在せず、白い単色の電球を並べて照らしている。
全体的に小ぶりであることもあいまって、ライブハウスというよりは海外のvenueのようであり、誰かの家のガレージのようでもあり、ひっそり佇む秘密基地のようでもある。
その特徴的な内装が、今回の映像の、見てはいけない儀式を覗いているような、美しく危険な雰囲気を作り出した要因のひとつだったことは間違いない。

演奏:EXTRUDERS

ベース&ボーカル、ギター、ドラムという3人編成のバンド。横浜にて2003年に結成、現在は東京を中心に活動。

EXTRUDERSはパンクバンドである。しかし、一般的にイメージされる「パンクバンド」とは違う。
見た目や動きが派手なわけではない。極端に大きい音を鳴らしているわけでもない。声高に何かを叫んでいるわけでもない。むしろその真逆だ。佇まいはおとなしく、音量は控えめで、低く囁く。
ならば、彼らのどこがパンクなのか。精神だ。
結成以来、彼らはゆっくりと、じっくりと、自分たちの世界を育ててきた。周りが何を言おうと、どんな波がきてどんな風が吹こうと、動かされることも流されることも飛ばされることもなく、自分たちの足で歩んできた。彼らは、いつ誰とでも戦える、確固たる自我を備えた正真正銘のパンクバンドだ。

今回、普段と違った点は2つだけだった。ひとつは、メンバーがマスクを着用していたこと。もうひとつは、ドラムセットがステージ上ではなく客席部分に組まれており、弦楽器隊と向き合う形になっていたこと。それ以外はいつも通りだった。
会場の照明を全部消して青い電球を3つだけ灯し演奏するスタイル(映像では青緑に見えるが実際にはもっと青っぽい)も、メンバー全員がそれぞれにフォトジェニックなところも、セットリストも、極寒の夜のように静かで鋭利な空気も、画面越しでもそれに呑まれて歓声を上げることすらできないところも、いつも通り。
こういった形の配信は、バンドとしても初めてだったのではないだろうか。実現までに苦労もあったのかもしれない。それでも「自分たちのやりたいようにやる」を貫いた結果が、あのパフォーマンスだったのだろう。

音響:君島結

録音技師。東京・浅草橋の趣のあるビルにスタジオ「ツバメスタジオ」を構える。ライブPAも行う。

君島さんにしかつくれない音がある。録音でも、ライブPAでも。
もちろん他のサウンドエンジニアもそうだと思うし、10人いれば10通りの音ができるのだろうと思う。しかし、君島さんは、クオリティ・個性ともに突出している。
君島さんが手がける数多の仕事の中から、一例としてEXTRUDERSとのタッグのことを挙げてみる。
EXTRUDERSのライブでは基本的に君島さんがPAをしている。音源もツバメスタジオで君島さんが録っている。EXTRUDERSの機材はかなり特殊で、奏でる音も他に例がない。それを最高の状態に仕上げているのが君島さんだ。
君島さんがいない彼らのライブを観たことがある。差は歴然としていた。バランスも鋭さも違う。いつも鳴っている音が聴こえず、いつも出てこない音が前面にある。同じバンドが同じ曲をいつも通りに演奏しているのに、PAが違う人であるというだけで、印象ががらりと変わる。君島さんの偉大さを思い知った。

今回の配信で個人的に最も衝撃を受けたのは、音の良さだった。生演奏の生配信とは思えないほどにクリアな音がイヤホンから出てくる。バンド側の演奏が安定しているのは事実だが、しかしライブ配信にありがちな「とりあえず流すだけ」感は皆無だ。どうすればあんなにも強い音を回線の向こう側まで送れるのだろうか。配信機材のインフラ面もあるのかもしれないが、それよりも君島さんの手腕の影響のほうが強いはずだ。BUSHBASHでは他のバンドも同様のライブ配信を行っていて、私もちょくちょく観ているが、ここまで音のクオリティが高かったのはこの1回だけなのだから。
君島さんの伝説の偉業として、アーカイブを後世に残してほしい(が、消えてしまう予定らしい。もったいない……)。

カメラ:大石規湖

映像作家。MVやライブ映像の撮影、音楽番組制作など、音楽にまつわる映像を多数手がける。ドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』監督。

大石さんがEXTRUDERSを撮ると知った時から期待は膨らむばかりだったし、実際に生配信された映像はその期待を遥かに上回っていた。
細かく作り込まれたものからハンディカメラ一発のドキュメンタリーまで、音楽そのものを表現するために幅広い引き出しの中から最もふさわしい方法を選んできた大石さん。一言で「ライブ映像」といっても、音楽性によって、いや、アーティストによって、さらには時と場合によって撮りかたが変わるのは必然で、それを適切に判断してバッチリ合わせるのもカメラマンの腕の見せどころのひとつなのだと思う。大石さんのそれはいつも素晴らしい。もちろん撮影技術自体も素晴らしい。

上述の通り、大石さんは大変信頼できるし、きっと素敵な映りになるのだろう(そして彼らのライブはほぼ真っ暗だから撮りづらそうだけどきっとどうにかしてくれるだろう)という安心感とともにYouTubeにアクセスすると、ディスプレイに映し出されたのは「いけないものを見ている感じ」が肌で伝わってくる映像だった。
メンバー間をゆっくり動き、じっくりピントを合わせる。EXTRUDERSの乾いた氷のような雰囲気を壊さず、そのまま画面に落とし込んでいた。さらに、湿度を感じさせる撮りかたで、彼らが普段から持っているもののあまり目立っていなかったエロティックな要素を存分に匂い立たせており、新たな魅力に気付かせることにも成功したのではないかと思う。暗さ、狭さ、色気、音楽性、カメラワーク、メンバーのマスク姿(しかも黒と濃いグレーのそれ)、それら全てが混ざって溶け合った結果があの映像であり、それを一瞬で編み上げた大石さんは最高の音楽映像作家だ。

「無観客ライブ配信」のこと

COVID-19で世界は変わった。それは認めて受け入れなければならない。だからこそ、自粛を終えて街に出られるようになってからも、今まで通りに客を入れて行うライブと無観客ライブ配信は(投げ銭や有料チケット制配信など収益化できるような仕組みを作った上で)共存していってもいいと思うし、せっかく配信するのなら各々それぞれの方法でこだわった映像や音響を楽しませてほしいと思う。
今回は、生演奏かつカメラ1台だけの生配信だったにもかかわらず、ひとつのハイクオリティな作品として完成させることに成功した稀有な例だ。このまま映画館で流しても遜色はないだろう。そして、同じものは二度とつくれない。そういう意味でも、「ライブ」なのだ。
小岩BUSHBASH、EXTRUDERS、君島さん、大石さん。誰かが欠けても、他の誰かがいても、タイミングが違っても、この映像は生まれなかった。またこのメンバーで何かをつくってほしいと心から願う。きっと今回とはまた違った素敵なものが観られるはずだ。できればCOVID-19終息後に観客ありのライブで、なんて。

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