【趣味のレビュー】EXTRUDERS『Hilltop Radio / Punch and Judy』

 ある冬の日の濃密な演奏を終えた後、彼らは何も言わず静かに潜っていった。気がついた時には深いところにいて、見ることも触れることもできなくなっていた。
 あれから3年弱。EXTRUDERSは再び浮上した。新しい機材と、新しい曲を携えて。

 彼らは休んでいたわけでも、バラバラになっていたわけでもない。姿を消していた間、誰も知り得ない場所で、ゆっくりと、じっくりと、自身を再構成していた。
 EXTRUDERSにとって、機材は身体の一部だ。彼らはそこに自ら深く手を入れた。
 ドラムセットは青く透き通り、赤いVOXのベースは黒いスタインバーガーに。アンプも入れ替わり、外から見える部分はほとんど変わった。ムスタングと、テープエコーと、彼ら自身の佇まいだけを残して。
 身体が変われば、そこから出てくるものも変わる。ぶれているように見えていた音像は、収束されクリアになった。まるで、夢の中の骨格が透けて見えているようだ。

 身体をつくりかえた彼らは、ふたつの新曲を生み出した。『Hilltop Radio』と『Punch and Judy』。どちらの曲にも、過去のそれとは違う血が流れている。
 リズムが変わった。『Hilltop Radio』にはほんのりと黒っぽい香りが感じられ、『Punch and Judy』は少々コミカルな雰囲気のある高速のボサノバだ。旧作と並べて聴くと、斬新な感触があるのは確かだが、違和感はない。
 拍の取りかたも変わった。今までは縦に切るように奏でることが多かったが、再浮上後は時々そっと横に揺らしたり、緩やかに溜めたりするようになった。旧曲がライブで演奏されると、あちこちに新しい解釈が織り込まれており、違いがよくわかる。

 3年弱の時間と再構成の試行錯誤を経て、EXTRUDERSは新たな表現の細胞を得た。とはいえ、脳と髄の部分は不変だ。過去にも未来にも例のない独自のウィスパーボイスと、儚く美しく刺すギターと、ミニマムにしてタイトなドラムは変わらず鳴り続けている。
 ベースは新しい響きを纏い、コードで鳴らすことも増えた。『Punch and Judy』では、ボサノバがボサノバである所以の、本来ならばギターで弾くはずの旋律を全てベースで弾いている。音楽的表現に対して柔軟な、良い意味での「ベースらしくないベース」に深化したということだろう。
 曲そのものが持つ世界も、平仮名で綴られる歌詞も、旧作の延長線上に在る。『Hilltop Radio』では不穏で少々厭世的な言葉が並び、語りの部分は珍しく漢字を用いた表記となっている。『Punch and Judy』はエロティックな要素を強めに含んだ男女の掛け合いが楽しめる。

 生まれつき両極端なこの2曲は、再浮上と同時に7インチシングルとしてリリースされることとなった。大変インパクトの強いジャケットは、彼らの以前のプロフィール写真を再現して撮り直したものだ。バンド名もタイトルも書いておらず、裏ジャケットもなかなかにシュールで、天邪鬼な彼ららしい。見た目にも中身にも「2019年版・最新のEXTRUDERS」が詰まっている。
 なお、mp3のダウンロードコードが封入されているが、同じ曲でも7インチ版とmp3版とでミックスが異なる。レコードプレイヤーを用意して聴き比べてみるのも良いかもしれない。

 彼らは出来立ての7インチを携え、2019年9月〜12月にライブツアーを行なった。彼らは、観る者全てを自分たちの世界に引き摺り込むことができるようになっていた。『Hilltop Radio』に感じる、水の底から水面を見上げているような、まだらに輝く青の世界。それを演奏と照明や映像との相乗効果で具現化し、ステージから客席最後方まで、場内全てを浸して飲み込んでいく。観る者はいつの間にかその世界に溺れていて、その結果、曲間に拍手も歓声も起こらず、場内には恍惚とした沈黙が流れる。再浮上後のライブでは、ほぼ毎回その状況に陥っている。まるで、何かの魔法のようだ。
 それはライブだけに限ったことではない。音源での表現力も上がっている。旧作よりも脳にダイレクトに入ってくる。甘くて冷たい囁きが耳を刺し、気がつくと『Hilltop Radio』の暗い水に沈んでいたり、『Punch and Judy』の男女に翻弄されていたりする。
 これが、EXTRUDERSが3年弱かけて辿り着いた先。再構成の結果。新しい身体と血と細胞がもたらすもの。現在進行形で進化を続ける、この世に一体しかいない生きもののような、透明で歪で美しいバンドの姿。
 「今がいちばん良い」という言葉を地でいく彼らに、触れて溺れてみてほしい。「ぼくはせかいをしんじない」と吐き出した直後に輝く世界を目の当たりにする、そんな体験をしてほしい。目を覚ましてから眠るまでずっとノイズまみれの今だからこそ、全てを手放して、EXTRUDERSの世界に深く沈んでみてほしい。そう、心から願う。


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EXTRUDERS『Hilltop Radio / Punch and Judy』
7インチシングル・限定300枚・ダウンロードコード付き
ライブ会場、FILE-UNDER RECORDSにて販売中
http://fileunderrecords.com/?pid=147318429

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