グッバイ、スペルバウンド【試し読み用】

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記事

はじめに

こちらはqeeree作「グッバイ、スペルバウンド」の試し読み用マガジンです。
作品内から一部を抜粋して掲載しております。
noteでは横書きですが、実際には縦書きです。

※本書の内容の一部または全部の無断転載・複製・翻訳を固く禁じます。
* Unauthorized copying, republication and translation of all contents of this bo

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【試し読み用】五月二十九日、夜

全然足りないわ。
 と、女は言う。
 「し、しかし……」
 「当たり前じゃないの。明日の依頼を今頃持ってきた上、ここに書いてあることを全部やれだなんて、物理的にも無理よ」
 広い机の半分をも占拠する大ぶりなトランク、そこにぎっちりと詰め込まれた札束。
 もし一枚一枚数えるとするならば途方もない時間を費やすのだろうし、金額にするならば一般的な市民が働いて得る年収をも超えるだろう。
 しかし、女はそれ

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【試し読み用】六月二日、昼

「この前のあれの続報ですね。北通りの乱射事件」
 いつものように一面記事について問われたサイモンは、淡々とそう答えた。
 「ああ、あれね。どうなったの?」
 「亡くなった人が不正な政治献金をしていた疑いがあるとかなんとか……あとは昨日と同じようなことしか書いてないですね」
 「はぁー、悪さしてたから殺されちゃったのかねぇ?」
 「どうなんでしょうね」
 「ま、何にせよ、悪いことはしないのが一番だね

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【試し読み用】六月十一日、昼

もうすぐ正午を迎えようかという頃。馴染みの役所の職員が、ポスターとチラシを抱え訪ねてきた。
 「講演会、ですか」
 「そうそう。来週末に市民会館でやるんだけどさ、ちょっと宣伝しといてくれないかな」
 「わかりました。お預かりしますね」
 「すんませんねぇ。適当にやっといてくれれば大丈夫だから」
 「そこの掲示板に貼っておきますよ。丁度あいてますし」
 「おおっ、そんな目立つところ借りちゃっていいの

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