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[実務で使える]工程変更の判断と注意点

工程変更におけるデータ収集

工程変更が発生しない製造現場は世の中に存在しません。
何を工程変更と認識するかは業界や企業によっても異なりますが、主に
・設備
・金型
・材料
・作業方法
などが変更された場合は工程変更として管理していることでしょう。

工程変更の理由と目的は様々ですが、
「工程変更前後で水準に差がないことを確かめる」
という目的で工程変更管理を行う事が多いように思います。

特に品質保証の担当者であれば、製造部門から提出されたデータから、工程変更許可を出すにあたって、この「差」を評価する事が必要になるでしょう。

では「差がないこと」をどのように確かめれば良いのでしょうか。

工程能力$${CP,CPK}$$を計算して、工程変更前後で両方とも$${1.33}$$もしくは$${1.67}$$以上であれば工程としては問題ないという判断でも良いですが、
「水準が変わったのか、変わっていないのか」
を確かめるのは品質管理の上で重要な点と言えます。

今回は$${CP,CPK}$$だけでなく、この「差」に注目して工程変更の可否を判断してみたいと思います。

前提とするデータ

以下の場合を考えます(単位省略)

規格上限:$${USL=27.5}$$  規格下限:$${LSL=12.5}$$   (規格レンジ$${=15.0}$$)
・工程変更前
平均値:$${\mu_A=19.77}$$
偏差平方和:$${S_A=11.64}$$
データ数:$${n_A=15}$$
・工程変更後
平均値:$${\mu_B=20.70}$$
偏差平方和:$${S_B=12.72}$$
データ数:$${n_B=15}$$

まず工程能力を見てみましょう。

$$
\begin{array}{rcl}
CP_{(変更前)}&=&2.20\\\\
CP_{(変更後)}&=&2.10
\end{array}
$$

$$
\begin{array}{rcl}
CPK_{(変更前)}&=&2.13\\\\
CPK_{(変更後)}&=&1.91
\end{array}
$$

$${CP}$$が減少しているので、若干ばらつきが大きくなり、
$${CPK}$$も減少しているので、平均値は規格中央から遠ざかったことになります。
しかし、前後共に$${1.67}$$を超えていることから、工程は十分安定していると判断して良さそうです。

では、工程変更によって
「差が生まれたと言えるか」
言い換えれば
「水準が変わったと言えるか」
を検証してみます。

平均値の差の検定を行えば、差があるかどうかを確かめる事ができます。

計算してみよう

まず$${F}$$検定を行い、工程変更前と工程変更後の分散(ばらつき)が異なっているのかどうかを確かめます。

$$
F_0=\cfrac{V_B}{V_A}=\cfrac{\cfrac{S_B}{n_B-1}}{\cfrac{S_A}{n_A-1}}=1.09
$$

$$
F(14,14;0.975)=0.35\ {<}\ F_0=1.09\ {<}\ F(14,14;0.025)=2.86
$$

となるので、有意にならず、分散(ばらつき)は変わったとは言えません。
よって、等分散を前提にして平均値の検定を行います。

母分散未知ですから$${t}$$検定ですね。

$$
t_0=\cfrac{\mu_A-\mu_B}{\sqrt{\overline{V}(\cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B})}}
$$

プールした分散$${\overline{V}}$$は以下で求めます。

$$
\overline{V}=\cfrac{S_A+S_B}{n_A-1+n_B-1}=0.87
$$

検定統計量$${t_0}$$を計算します。

$$
t_0=\cfrac{19.77-20.70}{\sqrt{0.87(\cfrac{1}{15}+\cfrac{1}{15})}}=-2.73
$$

$${t}$$分布の$${2.5\%}$$点と比較してみます。

$$
|t_0|=2.73\geqq t(0.05,28)=2.05
$$

よって有意であり、工程変更前後で水準が変わったといえる。という結果となりました。

工程変更を認めるべきか

状況を整理すると、

・工程能力は若干低下しているが、十分安定しているといえる。
・ばらつきの変化はない可能性が高い。
・水準は変化した可能性が高い。(データから見れば平均値が大きくなった)

ということになります。
工程変更前後は当然、水準の変化がないことが望まれますが、今回はそうならなかったということですね。

この状況で工程変更を認めるべきか・・・ですが、
「時と場合によります」笑
何じゃそりゃ・・・って感じですが、ここが大事なところでもあります。

検定で有意になった=工程変更前後で差がある→工程変更しちゃダメ!
とはならないんです。
これは統計学を学んだ初心者が陥りがちな罠でもあります。
つまり

検定は万能の判断基準ではない

ということです。
工程変更前後で差がありそうだ、ということが分かっても、それが製造工程において憂慮すべき差なのかどうかは、担当者が総合的に判断しなければなりません。

差があることが分かっても、製造において影響ない程度の差であると判断されれば、そのまま工程変更を認めても良いですし、
例えば、水準が大きくなることで他の工程に悪影響を及ぼす可能性があれば、もう一度設備を調整して、データを取り直すという選択肢もあり得ます。

逆に水準が大きくなった方が良い場合(下限規格の場合)は、
工程変更によって品質が向上した
という判断材料になります。
そうなれば、同じ工程変更を他に展開してもいいかも・・・と考えられるかも知れませんね。

まとめ

工程能力を確認するだけでなく、検定によって水準の変化の有無まで確認すれば、今まで見えていなかった品質向上の新たな視点が生まれるかも知れません。

ただ、検定にすべての判断を委ねるのは危険です。
あくまで情報の一つとして捉えて、総合的に判断するようにしたいですね。

以上、工程変更における判断について解説しました。

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