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国際デザイン賞審査員長日記・2日目

そうこうしているうちにロンドンに着いた。時差ボケを調整しないといけないので、審査開始に先駆けて一日調整日を入れさせてもらった。最初の一泊は事務局が用意してくれているホテルがまだ無いので、カムデンの住宅街の民泊に宿泊した。

なにはともあれ、海外出張をするときに、常に困るのが、自分の日課だ。下記に書いているように、私はここ数年、日課に縛られて生きている。タンザニアの村にいようが、ラスベガスにいようがベトナムにいようがどこにいようが、必ずピアノの練習と中国語の学習と筋トレ等々の日課をやらなくてはならない。

中でも大変なのがピアノで、ピアノの練習というのは、ピアノがないことには成立しない。しかし、世界中どこにでもあるとは限らないのがピアノだ。結果どうするかというと、私は世界中どこに行くときも電子ピアノを持ち歩くということになってしまった。上述のタンザニアにも持って行ったが、持ち歩くのはローランドのGoPianoのの61鍵のやつだ。GoPianoは、数ある持ち運び可能な電子ピアノの中でも、かなりガチのピアノに近いタッチを再現していて、音もちゃんとしている。

タンザニアでピアノを弾く私

ただし、GoPianoはそれだけに重い。そしてでかい。いろんなところに行くのに、これを常に持ち歩くのは憂鬱になるレベルだ。しかし仕方がない。

しかしGoPianoにもまだ問題はあって、それはでかいがゆえに、飛行機の機内持ち込みが許されないということだ。つまり、預け荷物にしなくてはならない。ゆえに、私は常にスーツケースは持たず、いつも使っているリュックに着替えを詰めて、GoPianoを預け荷物にして移動する。というか、もともとバックパッカーやってたのでスーツケースを持って旅行する意味があんまりわかっていないところもある。

で、預け荷物にするということは何を意味するかというと、紛失、いわゆるロストバゲージのリスクがあるということだ。GoPiano、どっかに行ってしまうのだ。

実際、ドバイに行ったときにGoPianoをロストされ、しょうがないからドバイ中探し回って楽器屋さんを見つけて弾かせてもらったことがある。これは怖い。あのときのような恐怖は二度と味わいたくない。

ので、それ以来、下に貼ったような予備の軽量折りたたみピアノをリュックに入れて機内持ち込みして保険を掛ける、つまりピアノを2台持っていくというソリューションに到達した。我ながらそれはソリューションなのか、とも思うが、これでかなりの高確率でピアノの練習は可能だ。

で、今回は「ロストバゲージのメッカ」と呼ばれることもあるロンドンのヒースロー空港だ。「ヒースローで荷物がどっか行った」という話は、ものすごくよく聞く。なので、戦々恐々としながらヒースローに降り立った。結果、GoPianoは無事一緒にロンドンにやって来ていた。ANAえらい。これで滞在中の日課の心配はなくなった気がする。

そんな、今回のテーマである審査員長のお仕事と関係のない心配が払拭されたところで、ようやく明日からの審査のことが心配になってきた。

審査対象の作品についてはかなり予習してきた。D&ADのデジタル・デザイン部門には、本審査に先駆けてオンラインで予備審査というのがあって、先んじて書類選考的に出品された作品たちを触ったり観たりして採点し、ふるいに掛けることになる。それを経て、今日の段階で「ショートリスト」と呼ばれる予選通過作品は大体出揃っている。今回は議論を仕切らないといけないので、かなり入念に1つ1つのエントリーに対する所感を書き記してきた。そのへんは大丈夫だ。

しかし、今日に至るまですっかりさぼっていたことがあって、それは何なのかというと、一緒に審査することになる審査員の皆様についての予習だ。学校の先生みたいに1人1人に声をかけて発言してもらう必要があるので、各々の人となりや実績を理解しておかないといけないのだが、完全にその準備を忘れていた。

あ、やばい、と思って今日になってやっと審査員の顔ぶれとプロフィールを予習することにした。遅すぎてすみません。

ここに並んでいる人たちが今回の審査員だ。オーストラリアから1名、イギリスから2名、カナダから1名、北欧から2名、中国から1名。あと私が日本から1名。こういう賞の傾向ではあるが、欧米人が多い、と言っても、今回、アメリカの人がいない。これはかなり珍しいことのような気がする。

覚悟していたものの、なにしろ世界的なデザイン賞だ。全員、なんかすごい偉い人っぽい。百戦錬磨のデザイナーさんやクリエイティブディレクターさんだけではなく、有名なデザインファームの創業者やクリエイティブの責任者、中国の方などは、中国の巨大テック企業のクリエイティブの偉い人をやっていたっぽい。

改めて、この人たちの中に入って「長」をやらねばならんということに戦慄した。欧米人に囲まれた数少ないアジア人としての気後れ、みたいなものはもはや無いというか、それなりの海外在住経験を経て、むしろ私は日本人だ文句あんのかくらいに思うようにはなっているが、「長」としてこの、一人ひとり成熟した考えを持っていて主張もあるであろう皆さんに相対さなくてはならないということに前日になってやっと直面した。

むしろ前日でよかった。審査員発表時点で調べてたら緊張期間が続いてサウナなどに行ってもととのえなくなるところだった。知らぬが仏というか、ほんわかとした日常を過ごして昨日まで来たので、1日だけ緊張すれば済む。

そんなわけで、いよいよ明日、そんな並みいる強豪?たちの中で長をやる2日間が始まる。